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それからの話を少しだけする。 私とタマ、それに風野は、少し田舎に妖怪の隠れ里を作った。里とは言っても大半は獣妖で、どちらかというと野山そのままって感じ。体が人間の私はそうもいかないので、タマに力を借りてログハウスを作り上げた。 意外な才能というか、風野は畑仕事も割と得意だった。畑で野菜を細々と育て、山に現れる猪や鹿を殺して食べる。川で魚を釣ったりもする。 以前は猟師や釣り人、ハイカーなんてのもいたらしい。それらが全く見当たらないのは、やはり妖怪による大量虐殺が大きいのだろう。人々は闇を怖がるようになった。見えない場所に、彼らがひそんでいる可能性が恐怖心を煽るらしい。 たまには人間の文明というものも必要で、そういう時はタマが変化して買い物してきてもらったりする。町の復興は徐々に進んでいるそうだ。 スローライフと言えば聞こえはいいかもしれないが、サバイバルに近い。こんな生活がいつまで続けられるかは分からない。あるいは、どこかで病気になって、のたれ死ぬかもしれない。そもそもが、この場所だって誰かの土地だったのだろうし、不法占拠みたいなものだ。 それでも、私はこの生活を死ぬまで続けて行くつもりだ。 体は人間でも、私の心は妖怪寄り。風野も同じだ。生まれた体が、たまたま妖怪ではなかったというだけ。 この生き方が、”私らしい”生き方だ。 ログハウスの扉を開ける。人間の里からかっぱらってきたベッドの上に、風野が寝転がっていた。 「おや、お帰り」 「猪狩ってきたわ」 「じゃあ解体でも手伝おうか」 「そうね」 私は抱えていた荷物を下ろす。霊力があるというのは、こういう時にとても便利だ。 さて解体用のナイフは、なんて考えていると、 「あー! いたー!」 どこかで聞いたような声に、私は顔をしかめた。 「……なぜここにいる。小動物」 「なぜもかかしもないっ!」 どこからすっ飛んできたのか、小動物はワンピースのあちこちを汚していた。手には霊刀がある。 「大変なのよ、大天狗の鞍馬が蘇って! 軍隊みたいな感じで押し寄せて、京都を中心に被害が大きいの! 助けに行かなきゃ!」 「なぜ。私が。人間を助けなきゃならないの」 「だってみくちゃん強いじゃん!!」 「そんなの理由になるか」 私がつっぱねると、ベッドの上で風野が起き上がる。 「まあまあ、美空。行ってやるのもいいんじゃないかい」 「祈まで。なんでそんなことしてやらなきゃならんのよ」 「鞍馬は天狗の勢力だからね。彼らは統率が取れているから、戦力があるところを襲撃するだろう。ここは日本でもまれに見るちゃんとした隠れ里、狙われる可能性は十分にある」 「まさか。ここはタマの妖力で隠れてるのよ? 気づかれるわけが」 「そうでもないぞい」 と、窓から人間モードになったタマが入ってくる。 「タマ。玄関から入りなさい」 「失礼。それより、ほれ」 タマは小脇に抱えていたカラスを放り投げた。 カラスのくせに人間みたいな手足があり、白っぽい服を着ている。 「天狗の偵察兵じゃな。叩きのめしたが、ここの存在が割れるのも時間の問題じゃ」 「……」 「すでに茨木童子も動いておるようじゃな。酒天童子がいつか支配する国で勝手はさせんとか言って、鬼どもを引き連れておるようじゃ。それに、河童の連中もまたぞろ祭りに参加するつもりらしい。遠野とかいう河童は天狗の小隊を潰したそうじゃ」 鬼の茨木童子に、天狗の鞍馬に、河童の遠野? ……隠居させろよ。 「美空、どうするかの」 「美空、僕はいつでも行けるよ」 「みくちゃん!」 「あーもう!! うるさい!!」 私は猪を蹴飛ばすと、スカートを翻す。 「ちゃっちゃと潰すよ! 今晩はカラスのバーベキューだ!!」 霊力をたぎらせ、ログハウスから出る。 妖怪として生きていこうとしても、面倒なんていくらでもある。結局、どう生きたって変わらない問題はあるんだろう。 それでも。私は生きやすいように生きていきたい。 それが、”人妖”不知火美空の物語だ。 |