広い草原が、紅い夕日に染まっていた。そのただ中で、男は女を抱えていた。女は男の腕の中で、ただ眠っているようにもみえる。
 男と女の周囲は、紅い夕日よりも赤く染まっていた。赤く濡れた草木は、まるで泣いているようだった。
「嘘だろ? 冗談だって言ってくれよ、これじゃあ、こんなのじゃ、戦った意味がないだろ!?」
 男は女を揺り動かした。けれど、女の目が開く事はない。おそらくは、永遠に。
 手の中でぬくもりが消えていく。徐々に、まるで逃げるように。逃がすまいと男が強く強く抱きかかえても、ぬくもりは消えていってしまう。
『泣かないで下さい……。まだ、まだ終わりではありませんから』
 どこかから、透き通った美しい声が響いた。だが、それも男の心には響かない。
「嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ! これじゃあ、オレは何のために戦ったんだよ!? 誰かを傷つけたかったわけじゃない、誰かを殺したかったわけじゃない。ただ、お前と一緒にいたかった。それだけなのに、どうして……どうしてお前が死ななきゃならないんだよ!?」
 男の悲痛な叫びが草原に響き渡る。だが、それに答えられる者は誰もいない。
 これを抗えない運命と呼ぶならば、運命とはなんと酷な存在だろう。最も大切なもの、最も守りたいものばかりが壊れていく。その光景は、地獄のようだ。
「諦めない、オレは諦めないぞ。絶対にお前を蘇らせてみせる。今度こそ、誰にもお前を殺させやしないからなッ!」
 男の涙が血に混じり、紅に染まった。
 冷たい風が草原を駆ける。間もなく日は沈むだろう。そして、長い夜が始まる――。




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