『作戦説明は以上だ。何か質問は』
『ディオート2、了解』
『ディオート3、了解ッス』
 機械を通した音声が聞こえる。電子の光の中、少年は目をつむっていた。
 黒髪をヘルメットの中に隠し、押せば壊れてしまいそうな繊細な表情は、とても儚げに見える。
『ディオート1よりディオート4へ。作戦は理解したか』
 少年はゆっくりと目を開いた。その瞳には、悲しげな色がたたえられている。
『おいおい、まさかまたいつものヤツじゃないだろうな?』
「大丈夫、だよ」
 少年は答えた。内に宿る想いを振り払うように首を振る。
『では、ディオート1よりディオート4へ。失敗するなよ』
「……ディオート4、了解!」
 少年は、真っ直ぐ前を見つめた。
 前方は広い視界が広がっている。薄闇の中、遠い荒野の向こうに、小さな明かりが見えた。
『よし。では、作戦行動に移る。各自、役目を全力で果たせ』
 その一言で、通信は切れた。
 少年は深く深くため息をつくと、声をかけた。
「行くよ、モルス」
 ぎゅっと操作レバーを握り、少年はペダルを踏み込んだ。

 それは、夜明けと共にやって来た。
 最初にそれを発見したのは、司令室でレーダー機器を見つめていた男だ。
 数は四体。移動速度は彼の知るどの機体よりも早かったが、強襲用に改良を加えた最新の機体ならば可能な速度。驚くレベルではなかった。
 彼は与えられた任務の通り、アンノウンの接近を基地内の全てに通達した。すぐさま、迎撃システムが無謀な切り込み部隊を撃破する。その、はずだった。
「……何?」
 レーダーには、基地から発射された迎撃ミサイルが点状になって映っていた。
 それが、敵を示す赤いマークに到達する前に、消えたのだ。どうやら、ミサイルを撃ち落したらしい。
「かなりのレベルだな」
 呟き、彼はマイクに向かって叫んだ。
 ――敵部隊、依然として健在。
 すぐさま、彼の背後から命令が飛ぶ。直後、司令室が揺れた。迎撃用の人型機動兵器エクイットが動き出したのだろう。
 この基地に配備された迎撃用エクイットは、そこらのエクイットとは次元が違う。
 電子兵装と強力な武器を有した人型兵器の部隊は、一個大隊を相手にしても十分で沈めるという噂さえあった。
 最新機器の研究と実戦用機体の倉庫を兼ねるこの基地が潰れることは、そのまま背後にある組織の壊滅を意味する。ここは何よりも守られた、世界でも有数の安全地帯の筈だった。
 たとえ新型ミサイルが撃ち込まれても、ここのシェルターは確実に中を守り抜く。そして、自らやって来た愚かな生贄は、最新型のエクイットに乗った、歴戦の兵たちが撃ち殺す。
 そういう決まりがあった。
 なのに。
「なッ!? ば、馬鹿な!?」
「どうしたッ!」
 背後から司令の声が飛ぶ。男は、震える声で答えた。
「み、味方機体全滅。敵機体、依然として健在です!」
 最後はすでに、悲鳴だった。
 ありえない。最新型の兵器を用いた、軍隊より強い集団を一蹴するなんて。
 そんなものは、現存のどのエクイットを使用しても不可能な筈。
 なのに、現実はそれを否定していた。
 男の背後で絶句していた司令は、それでも首を振って気を取り直し、叫んだ。
「くそッ! 仕方ない、残存機体を全て動かせ! いいか、全てだ! この連中は、何かがおかしい!」
 すでにレーダーの赤い点は、シェルターの前まで来ていた。

 爆音、続いて轟音。
 基地を守っていた城壁は崩れ、シェルターは無残な姿を晒していた。
 その開いた穴から、三つの影が飛び出す。その瞬間を狙い、待ち構えていた人型機械兵軍団は一斉射撃を行った。
 返ってきたのは、彼らが期待した爆音などではなく。
 ――銃弾だった。
 実弾が次々にエクイットの、金属の肌を裂いていく。最新型のエクイットは、予想に反して次々に破壊されていった。
 その合間を、見慣れない人型兵器が駆け抜ける。
 手にはマシンガン。それを周囲に適当に撃ちながら、青を基調とした色合いの機体は走り続けた。
『無駄な抵抗はよせ、すぐに逃げろ。追うつもりはない』
 外部マイクを通して、声が響く。それを無視するように、まだ活きているエクイットは銃口を向けた。
『くそッ!』
 青い機体も銃口を向ける。と、彼が撃つその前に、彼の前に立つ機体が爆発した。
『その呼びかけこそ無駄だ、とっとと暴れようぜ』
 声は聞こえる。けれど、その声を発している者は見えなかった。周囲には、青い機体の姿しかない。
『けど……』
『けども何もあるか、バカ。こういう時はだな、何も考えずに暴れちまった方がすっきりすんの!』
『……わかったよ』
 嫌々な返事をすると、青い機体は走り出した。
 と、突如として止まる。通信が入ったのだ。
『ディオート4、了解』
 答えると、青い機体はたった今、走ってきたばかりの道を引き返した。その速度は先ほどまでの比ではない。まさに目にも留まらぬ速さ、というものだ。
 あっという間に青い機体は城壁のところまでやって来た。そして、振り返る。
 ちょうど、その瞬間だった。
 今までで最高の轟音。青い機体からは、吹き上がる炎の柱が見えていた。
 青い機体はしばらくその柱を見つめ、やがて城壁の向こうに姿を消した。