オニクス魔術学院闘技場。
 そこに、デュアル部の3人が集まっていた。今日は三人とも制服(若干一名がおかしいことを除く)だ。
「どうすればユーバ・ガリアスに勝てるか、ですか」
 顧問のルーナは、アルスとセリルを見つめる。
「まず、理論上、彼以上の生物はありません。ヒューマンだからというわけではなく、ドワーフだろうがエルフだろうが、彼を越えることはない」
「ムチャクチャ言いますね……」
「事実ですから。勇者というのはそういうものです。既存のルールなど、彼には一切関係がない」
 存在そのものがルールとなる。それが勇者という存在。
 圧倒的なパワー、唯一無二の魔力、そして何より、天才的な敏捷性。
「彼の能力は、こと戦いという一点においては最強です。あの破壊力を前にしてはたいていの防御など打ち破られますし、高い回避性能のせいで攻撃をまともに当てることさえ困難。体力も桁外れですから、息切れさえしないでしょう」
 改めて聞くだけで発狂するようなスペックだ。
「ただし。あなたたちがやろうとしていることは、魔王時代にあったような、ただの殺し合いではありません。デュアルというルールのあるスポーツです」
「ルールの枠組みでなら、つけいる隙があるってことですか?」
「隙はありませんが、隙を作る可能性があります」
「可能性?」
「ええ。まず、大前提として、アルフォンス君。あなたは基礎スペックが足りません」
「……わかってるっすよ」
 アルスは万能プレイヤーだ。剣術も格闘術もそれなりにこなすし、どんな魔法も発動させられる器用さもある。
 だが、勇者が相手では、そんな器用さはただの貧乏になる。
「彼を倒したいのであれば、あの回避性能を越えて攻撃を当てなければいけません。とはいえ、実際に何度も当てることは困難でしょう。一撃で決めねばなりません」
「それだけの出力が、今のおれにはないってことっすね」
「その通り。小器用なのは認めますが、それだけです。勇者を倒すためには、一点突破の戦闘力が求められます。君は、それが苦手ですね?」
「……」
 アルスは答えられなかった。事実だからだ。
 四色魔法といえば聞こえはいいが、実際は得意なものがないということだ。状況に合わせてたくさんの魔法を使い分けることにより、戦果を出しているに過ぎない。
 もちろん、地区大会レベルの相手と比べれば、いずれも遜色はない。だが、ユーバのような化物をライバルに据えると、ひとつひとつの魔法は決して突出していないのだ。
「そこで、ですが。アルフォンス君。まずは基礎トレーニングです。魔力も体力同様、鍛えることである程度は増やすことができます。これから大会まで、魔力に強い負荷をかけ続けます」
「……でも、そんなのは他の大会出場者もしてることっすよね?」
「ユーバは例外的にトレーニングなどやらないでしょうが、確かにその通りです。学生の大会というのは、相手にも自分にも同じだけの時間があり、しかも全員が伸びる余地を持ちます。当然、才能以外で明確な差をつけるのは非常に難しい」
 ですから、とルーナは続ける。
「同じ時間で、密度を濃くするしかありません。あなたは基礎トレーニングで魔力を増やしつつ、ひとつの魔法を極めなさい」
「……多色を捨てるってことっすか」
「いいえ? そんなことは言っていませんが」
「え?」
 ルーナは、こともなげに言う。
「勇者に対抗できるとすれば、賢者の魔法だけです。あなたが極めるのは、合成魔法ですよ」

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 授業の用意があるというルーナと別れ、アルスはひとりで中庭にいた。
 中庭中央にある一本の木。その樹上である。
「……」
 太い枝に体を預け、寝転がる。視線の先には枝葉が揺れており、隙間から陽光が差し込んでいた。
 そんな緑色の空を見るともなく眺めながら、アルスは考え込む。
 と、下から聞きなれた声が飛んできた。
「アルスー! いるんでしょー!」
「ん?」
 見下ろすと、セリルが手を振っていた。アルスが顔を出すと、なんとセリルはそのまま木をよじ登ってくる。
「よいしょっと。案外登りやすいわね、この木」
「制服で登るなよ。見えるぞ」
「いいでしょ、他に生徒いないんだから」
 よいしょ、と木にまたがったセリルは、真正面からアルスを見つめる。
「賢者の魔法なんて言われてもピンときてないんでしょ」
「まあね」
「先生もひどいわよね。ヒントだけ言って、あとは自分で考えなさい、なんて」
「理由はわかるよ。魔法のコントロールは人それぞれだから、言葉で説明できないんだ」
「それはまあ、そうだけど。でも、もうちょっと具体的な指南とかさ」
「……確かに、魔法の合成なんて言われてもね」
 アルスは左手に炎の魔法を、右手に氷の魔法を作り出す。
「このふたつを重ね合わせると……」
 両手をパチンと擦り合わせる。すると、二つの魔法はお互いに干渉し、消えてしまった。
「こうやって消えちゃう。四色の魔法を合成しようとしても、相反する性質の二つがぶつかった時点で消えちゃうからね」
「でも、あんたはよく風と地を組み合わせて使ってない?」
「確かに、重力を減らして軽くなりつつ風で突撃、ってのはよくやるけどね。その方が速度も出るし。でも、それは組み合わせているだけで、合体させているわけじゃないからなぁ」
「ニュアンスの問題って気もするけど……。普通のプレイヤーなら風と地を同時に運用するなんてできないんだから」
「そりゃそうなんだけどね。でも、それじゃあユーバには通じなかった」
 神速の敏捷性を持つユーバを相手にしては、いくら風で速度をあげたところで反応されてしまう。
 ルーナは、賢者の魔法ならば通じると言っていたのだ。合成魔法というもののポテンシャルは、きっとアルスが今使えるカードより上の段階にある。
「理屈はわかるような、わからないような……。けど、その答えが見つからないんだよなぁ」
「ま、そんなすぐには見つからないでしょ。ゆっくり探せばいいじゃない。次の大会まではまだ3ヶ月もあるんだから」
「逆だよ。たった3ヶ月しかないんだ」
 ユーバはすでに強さを極めている。あれ以上は強くならないかもしれない。
 だが、それでも追いつく時間は限られているのだ。基礎体力・基礎魔力を増やすだけでもバカみたいに時間がかかる。そのうえで、特訓を積もうとなると時間が限られすぎている。
「んー。なんか、他にヒントとなるようなものはないかな」
「あ。じゃあ、私の先輩に会ってみる?」
「先輩?」
「そ。あんたと会う前に組んでいた先輩よ」
「そういえば前も言っていたっけ。ガトリングを作った人?」
「そうそう。先輩は兵器開発の天才で、今は軍にいるのよね。それに、先輩の彼氏も元は全国レベルのデュアリストよ。二人の話を聞けば、何か参考になるかも」
「……ま、何もしないよりはいいかな?」
「決まりね。じゃあ、連絡しておくわ」
「ん、頼んだ。それと、見えてるよ」
「すけべ」
「だから! 登るなって言ってるだろ!!」