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《調査報告書概要 以下被害件数。 家屋・建屋588軒。 負傷者797名(避難中含む)。 行方不明者96名。 死者1名(被疑者)。 魔力供給路破損箇所210箇所。 停魔地域3800世帯。 ……。》 報告書を投げ出し、椅子に座った上官はキャロ・メカクスとシン・ガルドを見上げる。 「あれだけ暴れまわった割に被害は少ないようだな」 「そうですね。死者がルーナ以外0というのは、こう言っては何ですが、意外でした」 「何か理由でも?」 「あの兵器が病院や宿泊施設を狙わなかったことが大きいかと思います。破壊した家屋は避難が住んでいた場所ばかりで、負傷者の過半数は逃げる際に転んだりして怪我したものです」 「行方不明者というのは?」 「おそらくですが、非合法の魔族奴隷かと」 「50年も経って、まだそんな連中がいるってことが信じらんねえな」 まあいい、と上官は続ける。 「被疑者ルーナは死亡。真相は闇の中、ってな。それでいいんだろ?」 「我々が指示できる立場ではないでしょう」 「わあってるよ。ったく。国王になんて言われるやら……。とにかく魔王の因子はまた移動する。次の転移先は捜索しておくように。以上。行け」 「はっ!」 上官の執務室から出た二人は、揃ってため息をついた。 「派手にやってくれたわねぇ」 「まあ、被害はないに等しいからいいだろう」 「むしろ奴隷使ってた連中をガサ入れしなくていいの?」 「そういう連中は王族とパイプがあるの」 「何よそれ。この国、根っこから危ないんじゃない?」 「滅多なことを言うものじゃない。それに、仕方ないさ。国としてはそれが必要だったんだろう」 「でも……」 「それが嫌なら、君が次の世代を作ることだね」 「何それ、セクハラ?」 「プロポーズと受け取らない?」 「今なの?」 「……それもそうだ」 そう言って、どちらからともなく笑い出した。 ★ ★ ☆ ☆ ★ ★ 学校の裏手。 草地となっている場所で、アルスは日向ぼっこをしていた。 と、顔に影がさす。 「やっ」 「セリルか」 隣に座ったセリルは、口を開かなかった。 そよ風が二人をなでていく。 「何か用?」 「ん……」 しばしもじもじとしたセリルは、 「私、罰されないままでいいのかなって」 「刑罰受けたかったの? 変態?」 「ち、違うわよ!」 「いいじゃんか。罪は全部ルーナが被ったんだし」 王都で育っていないアルフォンスには、都の中で息を潜めていたルーナの苦しみなど、十分の一も理解できない。 だが、それはセリルも同じだったはずだ。なのに彼女は、人間を恨んでいない。 「すごいな、セリルは」 「すごくないよ。だからキラーマシンを操作したんだもの」 「いいから忘れなっての、そんなのは。やっちゃったんだからしょうがねえって」 「……アルスは、なんでそこまでして私たちを守ってくれるの?」 セリルの問いかけに、アルスは首をかしげた。 「なんで、か。明確にこれって答えはないんだけどさ。ただ、ジジイに言われたことは少しだけある気がする」 「セト・シアン?」 「ああ。ジジイはさ、守るものを持てって言ってた。それがあいつを越える方法だって。セリルとは出会って一年にも満たないけど、背中を何度も預けてきてる。だから、守らなきゃいけないって思うんだろうな」 「何それ」 「理屈じゃねえってこと」 「理屈じゃない、か」 セリルは草原の上に足を伸ばし、ごろんと転がった。 「魔王の因子を持っているって知ったのはね、七歳の誕生日だったの。両親は普通のヒューマンだって信じていた。実は養父母だったそうなんだけど、その時は知らなくてね。本当の両親だって信じていたの」 「ふうん」 「ある日、両親と旅行に出掛けたのね。武装列車で、南の湖まで。軍が監視している地域だから安全な場所なの。で、湖畔の森で遊んでいたら迷子になって。そこで私は魔物に出会った」 普通の子供が魔物に出会っていれば、その場でエサになっているだろう。 「本来なら魔物なんていないはずの場所だった。たぶん、私の力が呼び寄せたんだわ。そして私は、魔物によって元の道まで戻された」 「両親は?」 「バレたわよ。そして、私は本当の子供じゃないって知ったの。魔物を呼び寄せるような子供とは思わずに引き取ったみたいね」 くすりと笑い、セリルは続ける。 「当然、私は捨てられたわ。ルーナが引き取ってくれなかったら、死んでいたかも」 「その程度で死ぬようなら、勇者なんていらねーだろ」 「あはっ、それもそうね」 セリルは乾いた笑みを浮かべる。 「その頃はよく理解していなかったの。魔王の力って言われても。ただ両親と思っていた人に捨てられて、それが悲しくて。それが私の全てだったの」 「まあ、子供にゃ理解できねーだろうな」 「そうそう。ルーナに育てられて、オニクスに入学した。ルーナは最初から、私の力でキラーマシンを起動させたがった。でも、そのためには私の”器”が完成してなければいけなかった」 魔王の力を行使すると、器となる存在もそれなりに衝撃がかかる。 キラーマシンを起動させられるほどの力を行使するためには、入学したてのセリルでは足りなかった。 「身体を鍛えるためにデュアルを始めた。キャロ先輩と、それなりに良いところまで行ったりしてね。だんだん楽しくなって……。先輩が卒業したから、そろそろ潮時かなって思っていたところに、あなたが来たの」 賢者の孫にして、勇者の弟子。 圧倒的な力を持ちながら、パートナーを持たない少年。 「もう一年だけやってみたいって思った。あなたの進化を見たいって。だからルーナにワガママを言って、大会で負けるまで待ってって言ったの」 「それが、あの日……」 ユーバ・ガリアスを倒すも、試合には敗北した。 その瞬間、運命は決まったのだ。 「まさかルーナが自殺を考えているなんて、微塵も思わなかったけど」 「自殺じゃないだろ」 「……?」 「お前に生きていて欲しかったんだよ、あの人は」 「……本当に、大事なことは何も言ってくれない人なのね」 「そういう人だよ」 「そうね」 静寂が落ちる。 アルスは少しだけ居心地が悪く思えたが、足は動かなかった。 と、セリルがそっと手を伸ばし、アルスの手に重ねる。アルスもまた、その手を握り返した。 ほんのりと、暖かさが伝わる。生きている証。 「アルス」 「セリル……。ん?」 足音だ。振り返ると、学校の方から見知った顔がやって来る。 「げっ、ユーバだ」 慌ててお互いに手を離した。 「クソガキぃぃ!! 殺しに来てやったぜ!!」 ユーバは大声で叫んでいる。隣にいるオリーヴはユーバを止めないのだろうか。止めるはずもないか。 「あれ?」 しかも今日は、ユーバだけではないらしい。 ユーバの後ろにはハルトやリン、ルーシェとレムの姿もある。 「おいおい、オニクスで全国大会でもやる気か?」 「お前たちには借りを返さないと、アタイの気が済まないからね!」 「今度こそは負けませんわー!」 「ボクのレムは最強ってことを教えてやろうと思ってね」 「わたしのご主人様は最強ですよ」 くすりと笑い、アルフォンスは刀を手に取った。例の一件が終わった後に返してもらった刀は、今も刃こぼれひとつない。 「じゃあ、闘技場に行こうぜ」 「え、私も?」 「デュアルなんだから当たり前だろ。おれのパートナーはセリルしかいないんだから」 「……ふふっ。あ、でも着替えが」 「あー……。確かにあのパンツは見せない方がいいな」 「こ、子供パンツじゃないわよ!」 「知ってるよ、見たから」 「いつ見たの!? 変態!」 「じゃあ顔の上に立つなよ!」 草を踏みしめ、歩き出す。 「ったくもう。自分で見せておいてこれだもんなぁ」 「人を変態みたいに言わない」 「今おれのこと変態って呼ばなかったか」 「あらっ、そうだったかしら?」 少しだけわだかまりの取れた笑顔を見せるセリル。 その笑顔を見て、アルスは何を守りたかったのか、少しだけ分かった気がした。 |