「ふふ、満足した?」
「ん!」
「じゃあ、これはいらない?」
 私は保冷ボックスを開いた。そこに入っているのは、白い甘味。
「え? アイス!?」
「正解! ちょうど先輩を倒したら氷が落ちたじゃない? それに、八尺様の体を探っていたら、卵が見つかってね。それがあれば作れるなーと」
「アイスって作れるんだ!?」
「うん。簡単だよ」
 八尺様の卵と砂糖を泡立てた後、ヤマノケの脂を加えて煮立たせ、濾しただけ。
 その種を冷やし固めればアイスになる。本当は牛乳とか入れるんだけど、八尺様の卵とヤマノケの脂を使えば、十分に美味しく固められると踏んでいた。
 二人でスプーンを握り、アイスをかじってみる。
「んっ……!」
 ほんのりとした甘味、そして濃厚なのにさらさらっとした旨味。
 市販品の高級アイスクリームでも出せない、独特の美味しさ。
「凄い! はすみ凄い!」
「ふふん。これはちょっと褒めてくれていいよ」
 二人で湖を眺めながら、アイスを食べる。
 そんなことをするなんて、思いもよらなかった。
 食事を終えると、だいぶ満足した。お腹がいっぱいになれば、人間、幸福になるもんだ。
 さらさらと流れる風。心地よさに身を委ねながら、私はカナタに語りかける。
「ねえ、カナタ」
「なぁに?」
「私をデートに誘ったつもりって言ってたよね」
「うん? ……うん」
「あれ、まだ有効?」
「も、もちろん!」
 顔を赤くするカナタ。あなた、私より年上でしょ。
「私は女で、年下で、怪異を料理して、先輩を撃たせるような奴だよ」
「あたしは人も殺すし年下を誘うし、ついでに女だけど?」
「ふうん」
 変わった女だ。
 けど。カナタと一緒なら、どこまでも進むというのも、悪くない気がする。
「……私ね。小さい頃に両親が死んじゃったの」
「うん?」
「パパは交通事故を起こしてね。自分も死んで、それだけじゃなくて、何人か轢き殺した。飲酒運転とかそういうのじゃなかったらしいけど、どうして事故を起こしたのかは今もわかってない」
「そうなんだ」
「その後ね。ママも私も、非難の的になったわけ。自称正義の人らにさんざん嫌がらせされてさ。ママは生きるの嫌になっちゃったみたい」
 それから、私は一人ぼっちだった。親戚は私に良い顔をせず、私は誰かと一緒に歩くことをやめた。
「他人はいつだって人間を殺せる。理不尽は突然襲いかかる。そういうものだって思ってた。だから、都市伝説に憧れた。私の人生、クソみたいなものだけど、それも都市伝説みたいなひとつのお話なんだって。そう思えば、我慢もできた」
「それでこの世界に来たんだ?」
「そういうこと。あわよくば、死んじゃってもいいかなって」
「今もそう思ってる?」
 不安そうなカナタの瞳。その瞳に、笑いかける。
「んなわけないでしょ。今は、カナタがいるんだから」
 そっと手を握る。カナタも手を握り返してきた。
 どこか壊れた私たち。その二人でなければ、味わえない料理もあるだろう。
 私が目を閉じると、そっとぬくもりが重ねられた。
 息苦しくなるまで、私はその感覚を味わっていた。
 どちらからともなく口を放す。どことなく照れ臭くて、私はそっぽを向いた。
「!?」
 いつの間にか。宍室先輩の髪に、アンティークドールが座っていた。
 アンティークドールは小首をかしげるようにカタンと倒れる。と、ふっと姿を消した。先輩の髪と一緒に。
「……み、見た?」
「見た。なんだったのかな」
「わかんない……。うん?」
 よくよく見ると、ドールが倒れた場所に、銀色に光る何かが落ちていた。
 拾ってみると、指輪だった。それも二つ。
「シルバーリング? まるで婚約指輪だね」
「るっさい」
 そういう恥ずかしいこと言うな。私も思ったんだから。
「今の、メリー?」
「たぶん、そうなのかな」
「じゃあ、約束は果たせたってこと?」
「わかんないよ、怪異の考えることなんか」
「まあいいじゃん。そう思っておけば。これはお礼ってことで」
「呪いの間違いじゃない?」
 指に嵌めてみる。薬指にぴったりなのがまたムカつく。
「えへへ」
 嬉しそうに指輪を見せびらかすカナタ。その笑顔に、私も仕方ないかと諦めることにした。

☆ ★ ☆ ★ ☆

 エレベーターから降りると、ふわりと風が吹き抜けた。
 見渡す限りの世界。どこまでも続いているように見える世界。
 そんな世界に、私は最高の相棒と降り立っている。
「……」
 先輩を殺し、メリーさんに指輪を貰ってからも、変わらず異世界に来ることができた。
 メリーさんいわく、ここがマヨヒガなら、先輩がいなくなったことで二度と訪れることができなくなってもおかしくなかったのに。それでも来られるのは、あるいは本当に、メリーさんに認められたからかもしれない。
 とにかく、私たちがやることは変わりない。
 二人で未知の場所を歩き、怪異を狩り、美味しく食べること。
 それが、私たちのやることだ。
「今日はどこに行く?」
「どこでも」
 金色の綺麗な髪をなびかせ、美しく笑う相棒。そんな相棒に、私の胸も弾んでいる。
 カナタが指輪の光る手を差し出してきた。私もその手を握り返す。
 先輩の手とは違う、ぬくもりのある手。ーー愛しい手。
 今日も私たちは、美味しい都市伝説を求めて、怪異世界を歩いていく。