遠い昔のことだ。
 それがいつのことか、正確に思い出すことはできない。ただ、夢のように思い返すことはある。
 小さな頃の友達は特別だ。それから先、たとえ二度と出会うことがなかったとしても、忘れてしまったとしても、心のどこかにはずっと残っている。

 ーー君は?

 ーーさあ。あなたは?

 子供が、子供にしか見えない何かがいたと言っても、親は信じない。大人には見えないからだ。
 けれど、まだ定まっていない魂は、簡単に揺らぐ。そして、見えるはずのないものを見ることができる。

 ーー僕と友達になってよ。

 ーーいいわよ。

 それは、最初の友達。
 それは、最初の記憶。

★ ☆ ☆ ☆ ☆ ★

 目が覚めたコハルは、ベッドから起き上がり、いつものように朝の身支度を済ませる。
 そうするとふわふわヴィナが浮いてきて、食事を要求する。神様である彼女は空腹もないはずだが、食べ物がないとまず怒る。
 そんな彼女におそなえをして、ついでに自分の朝食も済ませて。
 そうして、学校へ向かう。
 学校に行けば友達がいて、帰ろうとすれば中学から飛んできた鈴がいたりして、教会に行くと何やら事件が起きていたりして。
 それが、今の龍宮コハルにとっての日常である。
「……」
 それが日常になっているから、
「どうしたの、コハル?」
「なんでもない」
 そう言って、笑顔を浮かべる。
 人と正しく繋がることができず、不幸になったアズサを思えば。
 自分は、どこまでも幸せな存在なのだろうと。そんなことを、少しだけ思った。