雨が降っていた。
 さあさあと降りしきる雨はやむ気配がなく、曇天の下、ただでさえ薄暗い森は、もはや一片の光も差さない。
 森林を進めば、とたん、景色が大きく変わる。
 切り開かれた森。粗末な小屋がいくつも並ぶ、山野の集落。
 だが、その一角が土色に染まっていた。大小さまざまな岩塊が転がり、生物の接近を阻んでいる。
 そんな土砂の前に、光を帯びた女性が立っていた。美しい妙齢の女性は、光などない世界で、唯一の明かりがごとく輝いている。
 女性が土くれに触れると、土が崩れた。その下から、人間の顔が飛び出す。
 黒髪の少年だ。目を閉じ、浅く息をしている。年の頃はまだ十に満たぬほどか。
 女性は少年の頬に手を触れた。優しく、母親のようになでる。
 続き、女性はそんな自分の手を見た。いくらも力を持たぬ手。
 だが――この力は、何のためにあるのか。
『……あなたに、夢を』
 女性は少年の両頬に手を添えると、そっと口づけた。
 瞬間、世界が光に染まる。少年も、女性も、全て光の中に消えた。
 光が収まった時、そこには、少年の姿だけがあった。
 目を開いた少年は、土くれの中から這い出ると、周囲を見渡す。
「なんだよ、これ」
 何が起きたのか。理解もできぬまま、しかし、何か悲しい出来事があったことは疑いようもなく。
「うぅ……」
 少年の頬を涙が伝う。
「くそっ……、くそおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」
 力なき者の嘆き。
 その吼え声は、天高く轟き、雨に呑まれて消えた。