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決闘連盟本部に顔を出したレリウス・クライムエッジは、顔見知りの職員に声をかけられた。 「王座、少し時間大丈夫ですか?」 「ん? ああ」 若くて背の低い職員はレリウスを見上げ、 「実は今度、イベントの予定がありまして。王座もいかがかと」 「イベントか」 職員は自分の机からチラシを取ってくる。それを受け取り、レリウスはさっと文面に目を走らせた。 日時は祝日、場所は市民ホール。このあたりはイベントとして一般的なところだ。 それよりも内容は――。 「アンフェスバエナリーグ?」 「ええ。ほら、今年のプロ試験、アンフェスバエナだったでしょう。あれで人気が出ちゃって。今、ちょっとしたブームになりかかっているんです」 「なるほどね」 今年のプロ試験は、破天荒なアマチュアの提案により、初めてのアンフェスバエナ――2人1組で行うタッグ式決闘となった。ルールとしては存在したものの、個人主義者が多い決闘者たちにとって、アンフェスバエナというのはほとんど未経験の領域だ。それをプロ試験で行い、しかも、今年は永世竜王が破れるというとんでもない成果まで出た。 あの決闘は、レリウス自身、見ていて血がたぎったものだ。あれを見れば、決闘に憧れる者が出ても当然だし、その帰結としてアンフェスバエナが流行してもおかしくない。 「プロ決闘者でもアンフェスバエナを得意とする者はあまりいません。その点、王座は協調性もありますし、タッグも得意でしょう?」 「まあ、苦手ではないけれどね」 レリウスは他の決闘者と違い、まっとうな人間性を持っている。また、戦闘スタイルも鎖を主体とした変則的格闘。どんな相手にも合わせられるのが特徴で、タッグも決して苦手ではない。もちろん、最も得意なのはシングルだが。 「ですから、お弟子さんと、リーグに参加してはいかがかな、と。リーグとは銘打っていますが、別にそこまでガチガチのものじゃありません。遊びです。それに、プロのエキシビジョンマッチみたいな形で組めれば、盛り上がるかなと」 「なるほどね。わかった、参加するよ」 「本当ですか!? ありがとうございます!」 頭を下げる職員。だが、レリウスの頭には、別のことが浮かんでいた。 職員からチラシを受け取ったレリウスは、奨励会館に足を向けた。 1階の事務室。奥の応接スペースに、旧知の相手を見つける。 「やあ、カンナ」 「……その声は、レリウスですか?」 顔を上げたのは盲目の女。カンナ・ヴィオレッテ――レリウス同様、プロの決闘者だ。 「カンナ、君に頼みがあってね」 「頼み、ですか?」 きょとんと小首を傾げるカンナに、レリウスはイベントのことを説明する。 「……なるほど。あなたの考えはなんとなくわかりました」 「やっぱりか。君は敏いから助かる」 「ですが、いいのですか? あなたは?」 「それを君が聞くのは意地が悪くないか」 「私は決闘が恋人ですから」 くすくすと笑うカンナ。そして、頷く。 「まあ、わかりました。話はしてみましょう」 「頼むよ」 笑みを浮かべる女に、見えないとはわかっていても、レリウスは頭を下げていた。 イベント当日。 市民ホールには、弟子を連れたレリウス・クライムエッジの姿があった。 「わー、結構、人が集まってますねー」 隣でにこにこと笑うのは、レリウスの弟子であるプリム・ローゼン。奨励会所属のアマチュア決闘者だ。 「やっぱり、ヴァン君の影響かな。彼がプロ試験を突破してからというもの、決闘を始める人も増えていると聞く」 「そうなんですか?」 「ああ。あんなむちゃくちゃなスタイル、最強とうたわれたゴドウィンの撃破。一般紙にもニュースが掲載されていたし、彼は今、注目の的だよ」 「へえ、あのヴァンが……」 「君も負けていられないね」 「ふふん、もちろんです!」 胸を張るプリム。そんな弟子に、レリウスは口元をほころばせる。 会場に入ると、熱気に包まれる。そこかしこでスタッフが駆けまわり、参加者たちが歩き回っている。早くも決闘が始まっているようで、妖精たちの力を転写したモニターには、激戦の様子が映し出されていた。 「あ、王座!」 若い職員が駆けてくる。職員と合流したレリウスは、エキシビジョンマッチを行うという会場へ移動した。 ステージの楽屋裏。幕の裏では、先客が待っていた。 「やあ、ゼル。カンナ」 「お疲れ様です、レリウス」 頭を下げる少年と、その隣で座ったまま微笑む盲目の女。ゼル・ロッシェは、カンナの弟子だ。 「じゃあ、今日はよろしくね。ゼル」 「あ、ああ」 どこかぎこちなく頷いたゼルは、プリムを見やる。 「やれんのかよ、プリム」 「なによ、ゼル。なんでそんな緊張してんの?」 「そりゃするだろ! 師匠とエキシビジョンすんだぞわかってんのか!?」 「そりゃそうだけど! 先生とバトルとか……、でも戦いでキリッとした顔を見られるとかきゃー!」 「お前本当にのんきだな……」 あきれるゼルとは裏腹に、いやんいやんと腰をくねらせるプリム。 そう、今日のエキシビジョンは、ゼルとプリムのタッグがレリウスとカンナのタッグに挑むという、非常に特殊なスタイルなのだ。かたやアマチュアの二人、かたやプロの中でも最上位の二人。当然、実力差が極端に開くため、ハンデとしてレリウスたちは使用できる魔力を制限される。いわゆる“半魔戦”だ。 「ったく。にしても、なんで俺がプリムと組むんすか? 師匠と組めばバランスよかったんじゃ……。門下同士でもあるし」 「まあ、理屈ではそうだね。決闘という側面だけならそうだけど、これはお祭りだ。良い勝負より盛り上がる勝負の方が大事でもある。その点、君たちはプロ試験でそれなりの成績を残した実績がある。それに、門下の垣根を越えて組んだ方が、今後の決闘界にとってもいい。門下同士で固まる現状だと、どうしても凝り固まりがちだからね」 「そういうもんすか?」 「門下の垣根があまりない君たちの世代には、ピンと来ないかもしれないけどね。その点、君たちには期待しているんだよ」 「……ふうん?」 わかったのか、わからなかったのか、よくわからぬままゼルは頷く。 「まあ、決闘は決闘さ。君たちはできる限り戦えば、それでいい」 微笑むレリウスに、ゼルとプリムは顔を見合わせ、頷き合った。 |