今日のフィールドは大森林ブッシュネルだった。
 大きな木々がフィールドを覆い尽くしている。身を隠す場所が多い反面、木々が邪魔をして遠距離攻撃を当てにくいフィールドだ。突発的な遭遇戦も多くなる。近接格闘の得意なカンナやゼルにとってはメリットだが――。
「ったく。師匠といい王座といい、何を考えてんのか、さっぱりわかんねぇ」
「いいじゃない。これも特訓よ」
「へいへい、そういうもんかね」
 大樹のかげに身を隠したゼルは、相方となったプリムと肩を並べる。
 ゼルの装備はいつも通りの武道家スタイル。プリムも同じ、無駄にきらきらとファンシーな魔法少女スタイルだ。
 ぐっと拳を握りしめたゼルは、
「……見つけた、師匠だ」
 少しだけ開けた空間で堂々と仁王立ちするカンナの姿を見つけた。だが、近くにレリウスの姿はない。
「師匠は……、誘ってんのか。いつものカウンター狙いか?」
「先生はたぶん、隠れて様子をうかがっているのよね。先生たちは魔力が少ないぶん、無駄使いができないわ。だから、一撃を狙ってくるはず」
「逆に言えば、その一撃さえかわしちまえば、少なくても王座は倒せる。二人がかりなら、師匠相手でも優位を取れる、ってわけか」
「そういう感じね。どうする?」
「隠れた王座を引きずり出さなきゃどうしようもねえだろ。じゃ、俺が突っ込む。サポート頼むぜ」
「……大丈夫? 一撃でのされたりしない?」
「ばーか。そんな弱くねえよ。それに、お前を突っ込ませるわけにゃいかねえだろ」
「む。なんでよ。あたしだって最近は格闘を磨いてるのよ」
「そういう問題じゃねえ。女の子を突撃させて自分は様子見じゃ、男がすたるってもんだぜ」
「男女差別〜」
「るっせえ。なんとでも言え!」
 ぐっと膝を曲げたゼルは、そのまま勢いに乗って突っ込んだ。
 樹を蹴り、下草を飛び越え、カンナに肉薄する。ゼルの存在に気付いたカンナもまた、迎撃の構え。
 プリムは、そんな二人を視界に収めながら、周囲を警戒していた。次の瞬間、
「ッ!」
 不自然に輝いた樹のかげ。そこに向かって杖を向ける。
「キラキラスプラッシュ!!」
 拡散する魔法弾の攻撃。樹が揺れ、レリウスが姿を現す。
「ゼル!」
「わかってらあ!!」
 樹をばねに、ゼルは向きを変えていた。攻撃先をレリウスに変更、そのまま拳で殴りかかる。
「はッ!」
 鎖で受けるレリウス。ゼルは臆せず、そのまま鎖をつかむ。
「おっ?」
「どりゃああああああ!!」
 気合一閃、レリウスをぶん投げる。途中で鎖を切り離したレリウスは空中で姿勢を整えるが、
「そこッ!」
 プリムの放った魔法弾が容赦なく降り注ぐ。空中ではかわしようもない――
「やるね、だが!」
 ――はずだった。相手がレリウスでなければ。
 瞬時の判断で鎖を顕現したレリウスは、手近な樹に鎖の先端を刺した。慣性が変わり、強引に向きをかえたレリウスの背後を魔法弾がよぎる。
「かわされたッ……!」
 歯噛みするプリム。そこに、
「よそ見をしていていいのですか?」
「……ッ!?」
 いつの間にか接近していたカンナの襲撃。振りかぶられた拳に思わず目をつぶるが、
「……?」
 衝撃は来ない。おそるおそる目を開くと、目の前に大きな背中があった。
「下がれ、プリム!」
 ゼルだ。あの位置からカンナの攻撃を受けたのか――。
「う、うん!」
 焦りながら下がるプリム。だが、ゼルは逃げられない。
「正面から受けるのは立派な心意気。勇気は認めます、がッ!」
「いッ!?」
 片腕で強引にひねり上げられたゼルは、そのまま空中に投げられた。そこに、鎖が飛来する。
「ぬお!?」
「捕まえた……、よッ!」
 お返しとばかりの振り回す攻撃。鎖で全身をからめとられたゼルは逃げることもできず、地面に叩きつけられる。
「ぐッ……!」
「おしまいですよ、ゼル」
 そこにカンナの追撃。高く上げられたかかとが、容赦なくゼルの体を踏み抜く。
 ゼルが撃破されてなお勝つのは、プリム・ローゼンには荷が重かった。

◇ ◇ ◇


「も〜、やっぱり負けちゃったじゃない〜」
「るっせえ」
 現世に戻った四人は、休憩スペースでお茶を飲んでいた。表ではイベントが続いており、先ほどの決闘を別のプロが解説している。
 漏れる声を耳にしながら、プリムはじっとゼルを見つめる。
「……? なんだよ」
「なんでもない」
 ぷいっ、と顔をそむけるプリム。何を怒ってんだ、と首をかしげるゼル。
 そんな弟子たちを眺めながら、レリウスは微笑んでいた。
「どうだい、ゼル君。プリムの調子は」
「まだまだっすね。焦りがちだし、格闘が弱いもんだから、接近されるとペースが乱れる。スタンダードじゃ、微妙かもしんねえっす」
「何よそれ〜!」
「事実だろ。……けど、王座が仕掛ける寸前、あれを見逃さねえのは、単純にすげえって思ったぜ。俺は気付かなかった。目が良いよな、お前」
「そ、そう?」
「ああ。あんがいと、お前はアンフェスバエナの方が向いているのかもしれねえな。多面的にモノを見られる。二人の動きを同時に捉えられれば、アンフェスバエナではもっと有利になる」
「やっぱり、ゼル君もそう思うかい」
 くすりと笑い、レリウスは続ける。
「プリムは遠距離攻撃主体の、かなり特徴的なスタイルだ。設置型の罠も多用する。それは、互いが互いを見据え続けるタイマン戦より、タッグ戦やサバイバルルールの方が効果を発揮しやすい。ほら、今年のプロ試験、君たちはあのゴドウィンとエクレアのペアに対し、片方を撃破しただろう?」
「でも負けちまったっすよ」
「ところがそうじゃない。ゴドウィンペアに対し、一人でも撃破したのは君たちと、勝負に勝ったヴァン君たちだけだ。もちろん、ヴァン君の才能はとびぬけている。だが、君たちも、アンフェスバエナという限定されたルールの中では、かなりの才能があるんじゃないかと見ているんだ」
「そうっすか? まあそりゃありがたいけど……。でも、アンフェスバエナで強くなったってなぁ」
「ふふ、それが大切なんだよ。実はね、連盟側は、今のアンフェスバエナ流行を逃さず、これを機にタイトルリーグを新設しようという動きがある。8つ目のタイトル……、その名も『双竜』」
「双竜戦?」
「そうさ。詳細はこれから詰めることになるだろう。けど、現行のプロたちでさえ、タッグが強いペアというのはそう多くない。そこに君たちが入れば、新しい風が生まれるかもしれない」
 どうだろう、と問いかけるレリウスに対し、ゼルはプリムを見やった。
「お前、どう思う?」
「なんであたしに聞くのよ」
「そりゃそうだろ。アンフェスバエナに向いているのはお前なんだから」
「……」
 プリムはじっとゼルを見つめ、続けて自分の師匠を見た。
「先生は、あたしと、ゼルが組んだ方がいいって思うんですか?」
「僕では君のスタイルを存分に生かしてやれない」
「ずるい言い方ですよ、それ」
 はあ、と嘆息したプリムは、横目でゼルを見る。
「まあ……、その。少しは頼りになるかなとか、思わないでもないけど」
「素直に言えよ」
「るっさい!!」
 ゼルをひっぱたいたプリムは、席から立ち上がる。
「いいわよ、もうっ! ゼルがパートナーで!」
「お、おう。とはいえ、タイトルリーグとなりゃあ、相手にするのはプロばっかだぜ。大丈夫か?」
「勝てばいいのよ。あたしとゼルとで! ほら、そう決めたら特訓よ、特訓!」
「あ、おい、ちょっと!?」
 ゼルをつかみ、異空間へと移動してしまうプリム。強制連行されたゼルもまた、同様にアストラルサイドへと向かった。
 残ったレリウスとカンナは、静かにお茶をすする。
「よかったのですか、レリウス?」
「何がだい」
「彼女はあなたが好きだったのでしょう」
「僕は彼女に答えてやれない。叶わない恋は、早めに覚めていた方がいい」
「答えてあげればよいのでは?」
「君がそういう意地悪を言うのかい?」
 レリウスが言うと、カンナは肩をすくめた。
「私は、決闘が恋人ですから」
「……その略奪愛は、大変そうだね」
「ええ。ですから、頑張ってくださいね。あ、そうそう。弟子が独り立ちしたので、私、また一人暮らしに戻ったのですが」
「じゃあ、今夜、お邪魔してもいいかな」
「ご自由に」
 くすりと笑うカンナ。レリウスはその隣で、ずるい人だ、などと呟いていた。