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会議室。壁には井出の能力で、一枚の写真が映し出されている。 それは、どこかの駐屯地だった。いくつかの建物とテント、たくさんの自衛隊員たち。そして、大型のケモノ。 アメリアたちは駐屯地に戻り、会議室に入った。室には残っていた井出と甲斐、そして帰還したアメリア、恵美、葛原の五人のみ。他のメンバーは、この拠点の防衛にまわることになっているため、今回の作戦には参加しない。 映像を眺めながら、井出の説明が続く。 「大型種です。推定ランクはB。外見的には狐に近いですね。攻撃手段は電撃と……、もうひとつ。兵器を扱うことができるようです」 「兵器?」 「重火器の類です。おそらくは磁力や電力を扱った遠隔操作でしょう。戦車や戦闘ヘリまでもが誤動作し、あげく、誰も乗り込んでいないのに、勝手に人を襲ったようです」 「被害は?」 「自衛隊員が212名。一般人が94名。大型種による襲撃があったにしては、奇跡的な数値です」 「……」 合計で300人以上。それだけの人が死んでも、少ないという。それが、大型種と一般人の差だ。連中にとって、人間とは捕食する餌に過ぎない。 「緊急、ってのは?」 「奴は今のところ、駐屯地に滞在しています。ですが、他の大型種と違い、いきなり人間が住んでいる地域を襲っています。これは、今まで見られなかった習性です。この個体特有のものかは不明ですが……」 「こいつは人間の肉の味を覚えている可能性がある、ということだ。そうでなくとも、兵器を操作する能力を持っているのだから、これ以上、駐屯地を襲撃されるのはまずい。早めに潰しておかなければ、成長した時に刺せなくなる」 甲斐の言葉に、三人は頷いた。 「まずは葛原を中心に威力偵察を行え。無理をする必要はない、その場で倒せなくとも、足止めさえできればいい。必要な情報を収集し、確実に刺せる作戦を考えたい」 「了解」 葛原は短く答え、立ち上がった。 自衛隊車両による移動を終えた先。神奈川県の片隅に作られた駐屯地は、いまや荒れ地と化していた。 並んでいた建物はかたっぱしから崩れ、ケモノの住処と化している。並んでいる戦車はもはや陸自の兵器ではなく、敵の手足となって動く武器に成り下がっている。 幸いだったのは、駐屯地の周囲が開けている点。身を隠して近づくことはできないが、遠くから観察するぶんには、この方が楽だ。 一行は駐屯地から少し離れた密林に身をひそめ、敵の様子をうかがっていた。 「発見」 双眼鏡を覗くと、その変種はすぐに見つかった。 狐のような、細いシルエットの顔。すらりとした足。反対に立派な毛並みを持つ尾は、通常の狐とは違い、三つもある。もっとも、今は駐屯地の真ん中で、眠っているようだった。 「どういう手筈で行くんだい?」 刀を手に、恵美は井出に問いかける。武力に優れる彼女だが、頭を使うのは苦手だ。 「第一に、相手の能力が見えていません。まずはそれを解明したいですね。兵器を扱うとのことですが、その手法が判明し、対策できれば、相手の能力を半減させることが可能ですから」 「そんな心配することなの? 銃弾くらい、あたしたちには通じないでしょう」 アメリアの問いかけに、井出は首を横に振った。 「もちろん、呪力に守られた恵美さんやアメリアさんなら、自動小銃程度でダメージを受けることはないでしょう。ただ、それは銃弾に呪力が込められていないとの前提で、です」 「あいつ、銃弾に呪力が込められるの!?」 「そうでなければ、自衛隊員が手も足も出ない理由になりません。攻撃が通じずとも、自衛隊車両を破壊する程度は、陸自でも空自でも可能だったはず……。なのに、今回、そういった報告はありませんでした。おそらくは、兵器も呪力に守られている……、ならば、兵器が扱う武器も、呪力が込められている可能性は考えるべきです」 「な、なんかややこしいね。とにかく、どうすればいいんだい?」 「ごちゃごちゃ言ってねえで、斬りかかれってこった。まずは恵美が行け。アメリアがサポートすりゃあ、最悪、逃げるくらいはできんだろ?」 葛原は言いながら、巨大な銃器に特殊な弾丸を装填する。本来なら装甲車も撃ち抜くほどの性能を持つ銃だが、装填した弾丸は、ただの煙幕だ。葛原も、銃程度で変種にダメージが通るとは考えていない。 「それならわかりやすいね。アメリア、行ける?」 「オッケー。無茶しないでよ」 「考えとく、よっ!」 いきなり恵美は木陰から飛び出した。遅れてアメリアが続く。 変種もまた、恵美たちの存在にすぐさま気がついたようだった。身を起こし、うなりをあげる。 「ケェェェェェ!!」 奇怪な叫び声と共に、戦車たちが動き出す。砲身が一斉に恵美を狙い、 「ッ!!」 跳躍。直後、轟音が響く。 砲声と共に飛び出した弾丸は、数瞬前まで恵美が駆け抜けていた場所を砕き、地面を削り取る。 砲弾をかわした恵美は、まずは自衛隊車両に肉薄した。 「はッ!!」 一閃。呪力によってコーティングされた刀は、戦闘車両を一刀のもとに斬り伏せる。恵美は止まらず、隣の車両に飛び乗り、砲身を思い切り蹴飛ばした。 ガツン、と衝撃が走り、砲身は真上を向く。その時にはすでに恵美の姿が消えており、少し離れたところにある装甲車から銃座を斬り飛ばしていた。 まさに疾風のごとき剣撃。恵美の最も得意とする戦法は、頭脳戦でも耐久戦でもない。真正面から、敵の攻撃をかわしてたたっ斬る、スピードの剣だ。 あっという間に自衛隊車両の半分を無力化した恵美は、勢いそのまま、本体へと斬りかかる。 「はッ!」 斬撃。狐の体表に浅く傷が走り、悲鳴があがる。 「ケェェェェェ!?」 「どうした、その程度ッ!?」 駆け抜けた恵美は反転し、再び走り出す。 次の瞬間、 「ッ!?」 突如、足が止まった。意識してのことではない。体が自分の言うことを聞かないのだ。 「な、んだ、これッ……!?」 激しい頭痛と、吐き気。ただ立っていることが、唐突に難しくなる。 動きを止め、よろめく恵美に、狐は向き直る。 「何をしてるのッ!」 慌ててアメリアがカバーに入る。恵美をかばうように立ち、腕を閃かせる。 生み出された氷刃は、二人を守るようにケモノへと向かい、弾けた。 「ほら、こっち!」 恵美を抱え、アメリアは下がった。すぐさま葛原と井出も合流する。 「どうしたのよ、いきなり!?」 「わ、わから……ない。突然、まっすぐ歩けなくなったんだ」 「磁場のようですね」 状況を観察していた井出は、冷静に分析する。 「強力かつ指向性の高い磁場です。一部の渡り鳥は磁場を感知して行く先を判断すると言いますが、人間も同様です。強い磁力を受けると平衡感覚が崩れ、立ったり歩いたりすることが難しくなる場合があります」 「それにやられた、ってこと?」 「おそらくは。陸自の兵器を操る能力といい、どうも強い電磁場を操れるのは間違いなさそうですね……」 「どうするんだよ」 「いったん、撤収しましょう。磁場を用いた兵器は開発されていましたし、対抗策は自衛隊にもあるはずです」 「わかった、任せろ!」 葛原はライフルを構えると、狐に向かって引き金を引いた。轟音と共に煙弾が放たれ、狐の周囲を黒っぽい煙が覆い隠す。 「よし、逃げ……、ッ!?」 アメリアが恵美を抱え、四人は逃げる――その直前。 確かに見た。密林から飛び出した影が、煙幕の渦へと突っ込んだのだ。 「な、なんだ!?」 「よく見えなかったわ」 「……これは?」 井出はすでにパソコンへと視線を落としていた。足が止まった四人は、自然、影が飛び込んだ煙幕へと目をこらす。 やがて、風と共に煙が晴れてくると、飛び込んだ存在も見えてきた。 それは、巨大な人だった。 太く巨大な鋼鉄の腕。ずんぐりと、しかし、しっかりとした足。アメリアも見たことのない、鋼鉄の巨人が、ケモノと相対している。 「な、なんだよ、あいつ」 「わかりません……。少なくても、自衛隊のデータにはない」 四人が見守る中、巨人が動いた。 巨腕を振り上げる。発砲音が断続的に響き、ケモノを襲う。 「ケエエエエエ!!」 通常の弾丸で、大型種にダメージを与えることはできない。事実、その弾幕も、ケモノにダメージを与えているわけではなかった。 だが、衝撃は伝わるし、なにより甲高い発砲音は、動物を本能的にひるませる効果がある。 生まれた隙は、ごくわずか。だが、それだけの間に、巨人はケモノに肉薄していた。 「あ……!」 振り上げた拳が狐を弾き飛ばす。とてつもない腕力に、狐はたまらず吹き飛ばされた。 「どうなってんだよ、あいつ。機械じゃねえのか? なんであいつの電磁場が通じてねえんだ」 「磁力コーティングでもしているんでしょう。アルミホイルなんかでも、電磁場をある程度は防ぐ効果があります。それと同様の装甲なのかもしれません……」 それはすでに、ワンサイドゲームだった。 狐の主な武器は電磁場による体感覚阻害と、周囲の機械類を操作し指揮下に置く能力。だが、周囲の兵器はその半数以上が恵美によってスクラップにされ、頼みの綱の電磁場は巨人に通じている様子がない。 がつん、と響いていた音は、いつしか、ぐしゃり、とより湿った音に変化していた。 「……えげつねえな」 血まみれになった狐は、とうとう動かなくなった。足も尾も折れ、全身から血が噴き出している。胸のあたりから飛び出した白いものは、肋骨だろうか。 死に絶えたケモノを踏みつけ、巨人は動きを停止した。アメリアたちは互いに顔を見合わせ、巨人に近づく。 近くで見ると、ますます異様だった。背丈は4メートル近い。大きな鉄の箱に、同じように箱状の手足をつけた、とでも評すればいいだろうか。人型ロボットと呼ぶには頭に相当する部分がなく、どこかいびつだった。 見上げていると、箱の中心が開き、中から人が出てきた。 「……やっぱり人間が乗ってやがったか」 降りてきたのは、白人の少女だった。ブロンドのショートヘアに、引き締まった体躯。すらりと上背がある美人だが、目つきが鋭すぎて、全体の印象はあまり良くない。 白人は面々を見渡し、アメリアに視線を止める。 「……Who are you?」 アメリアの問いかけに、 「大丈夫よ、日本語も使えるわ」 白人の少女はそう答えた。そして、続ける。 「私はアメリカ合衆国海軍特殊部隊所属、フィオナ・クローゼ。よろしく」 |