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会議室には、神威の実戦部隊として選ばれた15人が揃っていた。 居並ぶ味気ないテーブルと、そこに並んだ面々。恵美は兄と並んで座り、上座を見やる。 正面にはホワイトボードがあり、その前に茅野と甲斐の二人が立っていた。 「では、これからの役割分担について説明する」 マジックペンを手に、茅野が口を開く。 「各班にはそれぞれ個別の役割を担ってもらう。第一班は拠点防衛。このホテルを中心に、半径1キロメートル以内の索敵と迎撃を頼む。第二、第三班は回収班。小型種を中心に狩りを行い、資源回収に務めてもらいたい。食料、武器弾薬、使えそうなものはなんでも欲しい。自衛隊との協力も積極的に行っていく方針だ」 一息し、茅野は続ける。 「第四班は情報収集を主としていく。第五班は遊撃だ。もっとも、これは基本的な方針であって、必要に応じ臨機応変に対応していくことになる。それぞれのミッションについては俺が決定し、詳細を説明する。さしあたって、第一、第二、第三班は、食料調達に向かって欲しい。行動開始時間は13時、集合場所は正面玄関。自衛隊と同行し、小型種を狩ってきてくれ」 はい、わかりました、と声が方々から聞こえる。茅野はひとつ頷き、 「それじゃあ、第一から第三班は準備を始めてくれ。第四、第五班は別の任務があるから、そのままで」 茅野の合図で、他のメンバーはぞろぞろと席を立つ。会議室のメンバーが半分に減ると、それだけで少し静かになった。 「では、次に第四班と第五班の任務だが、これは甲斐博士から説明してもらう」 茅野はマジックペンを甲斐に渡し、自分はホワイトボードの前から離れた。 甲斐はペンのキャップを外すと、ホワイトボードに詳細を書き始める。 「お前たちに頼みたいのは研究資材の回収だ」 ペンでホワイトボードを書きながら、甲斐は言う。 「東京都の外れに、私の研究施設がある。そこに、培養に必要な薬品や道具、研究資料なんかが放置されたままとなっている。お前たちにはその回収を頼む」 「そんなもん、自衛隊に任せりゃいいんじゃねえのか」 「途中でロストされるわけにはいかん。大事なものだ。自衛隊では戦力からいって当てにできない」 きっぱりと言い、甲斐はペンを置いた。 ホワイトボードには、薬品らしい名前がつらつらと並んでいる。 「欲しい薬品はこれだけだが、回収できるようなら片っ端から頼む」 「……そんなもん覚えられるわけねえだろ」 「バカか、お前は。写真でも撮って現地で確認しろ。瓶には全てラベルが貼ってある」 「ぼくが撮影しておきます」 第四班所属の少年がパソコンについたカメラをホワイトボードに向ける。葛原は、ちっ、と舌打ちをした。 「回収と索敵は、そういった方面に強い第四班。第五班は、第四班の護衛を頼む。いいか、貴重な戦力を6人も費やすんだ、その意味合いをよく考えて行けよ」 「へいへい、わあったよ。んで、現地までの足はどうすんだ」 「それは自衛隊が車をまわす。問題ない」 「そーかよ」 甲斐が後ろに引くと、茅野が再び前に出た。 「では、君たちは13時半に玄関集合だ。回収用のボックスなんかは自衛隊車両に積み込んでおく。頼むぞ」 茅野の呼びかけに、それぞれが返事をした。 樹林の中を、一台の大型トラックが進んでいく。 陸自の73式トラックは、樹木の根が阻む悪路でも、なんとか進むことができていた。激しく揺れる車の荷台で、葛原はぼやく。 「ったく、もっとまともな乗り物はねえのかよ!」 「しゃべると舌を噛むぞ」 ガタガタと揺れる荷台には、六人の男女が乗り込んでいた。 片側には守屋、葛原、井手の第四班。反対側には悠介と恵美、それにアメリアの三人が並んでいる。 幌を取り除いているおかげで、頭上の視界は広い。どこか遠くで鳥の鳴く声が聞こえた。 研究所までの運転は陸自の自衛官が担当しているが、そこに至るまで、ケモノに襲われない保証はどこにもない。そのためか、守屋は手に小銃を持ち、いつでも撃てるような姿勢でいた。 一方で、悠介や恵美は刀を持っているものの、鞘から抜いてはいない。葛原も、背に負った大きな銃器はそのままだ。井手やアメリアに至っては、武器さえ所持していなかった。 とはいえ、守屋も、他のメンバーに武器を手にするよう強制するつもりはないようだった。銃を手に、ただ周囲を見渡すのみだ。 そんな中、 「……」 最初に顔を上げたのは葛原だった。続き、守屋も立ち上がる。 「止めるなよ!!」 叫びながら飛び上がった葛原は、車の屋根に立つと、背中に負っていた巨大な銃器を手に構えた。本来ならば人間が手に持つことなどありえない、大型火器だ。 「おい、葛原! 独断専行は……」 「うるせえ!!」 砲声が響いた。 高速で飛び出した弾丸が木々を蹴散らし、空へと吸い込まれる。 直後、砕けた木々の陰から、野猿が姿を現した。 変種と化した野猿は、人間の大人ほどもある。牙をむき出しにし、トラックへと襲いかかった。全部で3頭。 「はッ、いい度胸だ!!」 同じように壮絶な笑みを浮かべ、葛原も飛び出す。 手に持った対物ライフルを、さながら鉄棒のように振り回し、先頭の野猿を弾き飛ばした。続けざま、樹木を足場に飛びかかる野猿をかわし、その腹を全力で蹴り抜く。 「ギィッ!?」 一瞬で仲間を失った野猿は、わずかにひるんだ。その隙を逃さず、葛原は素手で野猿の頭をつかまえる。 「ギギィ!!」 「ッるせぇ!!」 遠慮なく握り締める葛原。野猿の頭が手の形にゆがみ、 「ィ!?」 そのまま弾けた。支えを失った体が地面に落ちる。 「はんッ」 葛原は枝に立ち、対物ライフルを下に向けると、引き金を引いた。 轟音。砲声の直後、草木の中で悲鳴があがる。 先に弾かれた2頭の野猿が、ライフルの銃弾に撃ち抜かれたのだ。 「……」 飛び降りた葛原を待って停車していたトラックの荷台で、守屋は眉をひそめた。 葛原が荷台に飛び乗るのを待ち、車は再スタートする。 「むごいことをするね」 「生きるか死ぬかだろうが、ああ?」 守屋をにらみ、葛原は続ける。 「あんな野良、どうってこたぁねえ。こいつが通じたんだからな、ただの小型種ってやつだろ?」 葛原は対物ライフルを掲げてみせた。 大型重器は、本来なら、装甲車さえ撃ち抜く威力がある。もちろん、人間が携行して使うような代物ではないが、Bアンプルによって強化された人間ならば、扱うことそのものは不可能ではない。 問題なのは、それだけの威力がある銃弾でも、大型種には全く通じないということだ。呪力に守られた彼らを倒すには、同じ呪力を用いた攻撃でなければいけない。 対物ライフルに、その能力はない。そして、そんな銃器が通じる時点で、そもそも厄介な敵ではないのだ。 「まあ、雑魚であることには間違いねえが、だからってこっちを襲ってきてんのに、ほっとくってわけにゃいかねえ。だろうが?」 「それは、そうだが。だが、最初の一撃で、連中はひるんでいた。動物の特性からして、あれ以上は襲ってこないんじゃないのか?」 「そうかもしれねえし、そうでないかもしれねえ。なら、殺しときゃいいだろ」 「むやみに殺す必要はないと言っているんだ!」 「テメエ、何しに来たんだ、ああ!?」 険悪な雰囲気の両者。その間に割って入るように、悠介が立ち上がる。 「まあ、まあ。こんなところでケンカをしていても仕方ないさ。葛原君はよくやってくれたし、守屋さんも感情的になりすぎだよ。彼の言っていることは間違っていない」 「……それは、そうかもしれないが」 「あなたがそうやって動物に寄ったことを言うのは、優しさかもしれない。けど、現状はそれほど甘くない。優しさは命取りだ」 「はっ、そのスカした野郎の言う通りだよ。テメエ、自衛隊だかなんだか知らねえが、フヌけたことばっか言ってっと誤射するぞ?」 「葛原君!」 「へえへえ、すんませんっした〜」 まったく悪びれる様子のない葛原に、悠介も吐息を漏らした。 「……そろそろ到着しますよ」 言い争いの横でも平然とパソコンをいじっていた井手が、画面を見ながら言った。 |