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葛原は肩から対物ライフルを下ろすと、それを駅舎に向け、引き金を引いた。 響く轟音。やがて、静寂が戻ってくる。 「んだよ、来ねえ……!?」 直後。地面が揺れた。 「下だ!」 誰かが叫ぶと同時、みながその場を飛びのいた。 コンクリートが割れ、地中から巨体が姿を現す。 巨大な咢。小さな腕と、反して巨大な足。全身を覆う黒い鱗。そして、以前、交戦した猪などより一回り以上も大きい巨体。 地面をしっかと踏みしめ、巨竜アジ・ダハーカは恵美たちの前で咆哮した。 「出やがったな、化物め!」 「みんな、手筈通りに!」 すぐさま陣形が作られる。 葛原が前に、その両脇に悠介とアメリアが。恵美は井出を抱えて後方に跳び、その横を守屋が追随する。 「喰らいやがれ!!」 手始めに、葛原は対物ライフルを巨竜に向けた。放たれた弾丸は、けれどアジ・ダハーカの鱗に弾かれ終わる。 「連中に銃弾なんか通じないぞ!」 「わかってらぁ!」 すぐさま葛原は次の行動に移った。地を駆け、一瞬で間合いを詰めると、ライフルを思い切り振り回す。 「そらよっ!!」 ガツン、と重い衝撃。さすがの巨体、猪と違って一撃で転がされるようなことはなかったが、与えた衝撃でアジ・ダハーカがよろめく。 「邪魔よ!!」 直後、冷気を練り上げたアメリアの攻撃がアジ・ダハーカを襲った。 巨大な氷塊は、さながら鈍器のように巨竜を打ち据える。葛原の打撃でよろめいた体は支えきれず、地面に転がった。 「死ね! 死ね! 死ねええええええ!!」 アメリアの放つ氷撃と、 「テメエだけにおいしいところを持っていかせるかよ、そら!!」 猛る葛原の攻撃が、間断なく巨竜に降り注ぐ。 二人の、あまりの様子に、悠介も割り込むことができない。そうしている間にも打撃は続いていたが、 「ルグゥ! アアアアァァァ!!」 アジ・ダハーカの叫びが響く。それは、彼の怒りそのものだった。 思わず耳を塞ぎたくなるほどの遠吠えに、悠介の顔も青ざめる。 「葛原君、まずい! 何か来るぞ!」 「わかってらぁ!」 喧嘩慣れしている葛原も、流れを敏感に感じ取ったようだった。慌てて跳び、距離を置いた、その直後。 「ルゥオオオオオ!!」 アジ・ダハーカの体が、炎に包まれた。 「なッ……!?」 全員が一瞬、足を止めた。あまりに予想外の光景に、誰も口を開くことができなかった。 熱く燃える炎。それが、巨竜の体を包み込んでいる。炎の中で吼えた巨竜は、そのまま足を踏み出した。 「嘘、だろッ……!?」 「こいつ、炎を身にまとえるのか!?」 そう、アジ・ダハーカは、炎に包まれてなお、平然としていた。その全身を包む炎は、決して自らを傷つけるためのものなどではなく、彼の武器なのだ。 やがて、炎は収束していった。アジ・ダハーカの鱗は赤々と輝いている。 「炎をまとった? だから何よ!」 アメリアは巨大な氷の槌を生み出す。アジ・ダハーカの上空で輝く氷塊は、 「やれ!!」 アメリアの合図とともに、ケモノへと叩きつけられた。 否、ケモノに向かって落ちただけ、と言うべきだろうか。 「ッ……!?」 確かにアメリアは勢いに乗せ、呪力によって生み出した氷を叩きつけたはずだった。 なのに、しかるべき衝撃はなく、アジ・ダハーカもまた、何事もなかったかのように一歩を踏み出す。 「嘘、でしょう……! 氷を溶かした!?」 「バカな!?」 「でも本当よ! あたしは絶対に打ち落としたもの! なのに、ダメージにならないなんて……。触れる前に溶けちゃったとしか思えない!」 「それで、間違いないようですよ!」 後ろから井出の声が飛ぶ。 「アジ・ダハーカは体表がとんでもない温度になっています! 気を付けてください、いくら呪力で守られているといっても、近づくだけで火傷しますよ!」 「無茶を言うんじゃねえ! 近づかなきゃどうやってあの化物を攻撃するんだ!!」 「なら僕が!」 葛原が攻めあぐねる中、悠介は飛び出した。 刀に呪力を伝わらせ、それを剣線に乗せて解き放つ、八雲の業。 「喰らえ、『ミカヅチ』!!」 放たれた呪力の塊は、アジ・ダハーカにぶつかり、 「グルゥアアアアアアァァァァ!!」 しかし、ダメージには至らない。 強固な鱗に守られているせいで、純粋な呪力の塊だけでは、威力が足りないのだ。 元来、八雲の業は刀を用いて使うことを前提としている。ほとんどの業はあくまで接近戦――刀で斬ることを主体としたもの。少なくとも、近づくことさえできない敵を倒す手段は、そう多くない。 これが、今まで様々な大型種をものともせず、餌として捕食できた理由。この化物は、相手の攻撃を寄せつけない。 「くそっ、どうすればいい……!?」 アメリアの氷も、悠介の呪力も通じない敵。葛原や守屋とて、近づけなければ攻撃手段がない。 アジ・ダハーカは、攻めあぐねる人間たちをあざ笑うように、大きく口腔を開く。 「何か来るぞ! みんな伏せろ!!」 悠介が命令すると同時、皆も本能的な恐怖から、体を投げ出す。 直後、熱線が神威の面々をかすめ、よぎっていった。 かわされた熱線は遠くのビルに激突し、力を炸裂させる。巨大な爆発音が響き、建物がひとつ、崩落した。 「冗談じゃねえぞッ! あんなもん直撃したら一発だぞ!」 「かわし続けるしかない! また来るぞ!!」 インターバルの短い、凶悪なまでの威力を誇る攻撃。 絶望と爆風が、六人を覆い尽くした。 |