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連絡を受け取った自衛隊員が、合流ポイントまで移動すると、神威の面々が揃っていた。 「お疲れ様です! みなさん、ご無事で?」 「生きてるってのを無事って言うなら、そうだろうよ」 答えた葛原も、疲れた様子だった。 六人は、揃って全身にやけどを負っていた。特に恵美の消耗は激しく、悠介に肩を借りているような状態だ。恵美が持っていた刀は、刀身が途中から折れてなくなっていた。 それでも、六人ともが生きていた。あれだけの強敵を相手にしていながら、六人ともが五体を揃えて帰ってこられたのは、奇跡に等しい。 「生きているのが、不思議ですよ。ぼくは」 「土壇場で恵美が突っ込まなかったら、みんな死んでいたかもしれないね」 「ふふん。どうだい、ボクのおかげだろ」 「それと、無茶をしたことは別だけどね。それに、アメリアもいなかったら、僕らが無事で済んだとは思えない」 結果的に、恵美が飛び込んだのは正解だった。あのすくい上げるような攻撃がなければ、アジ・ダハーカの炎は直撃していた。 完璧なタイミングで攻撃をそらされたアジ・ダハーカは、修正する暇もなく、呪力結界に最大威力の攻撃を打ち込むことになってしまった。 もちろん爆風は結界の内を荒れ狂ったが、瞬間的にみなを覆ったアメリアの冷気により、 いくらかは減衰できた。もちろん、完全に殺しきれるようなものではなかったが……、多少なりとも収まれば、死ぬことはない。 紙一重ではあった。だが、生き延びた。 「うーん、ま、みんなの成果かな。アメリアもありがとう」 「……別に」 ぷい、と顔をそむけた異国の少女に、恵美は口元を緩める。 「井出君も、ありがとう。今日の功労賞は君のものだね」 「ぼくは、そんなにたいしたことはできていません。結果的に、奴を倒したのは恵美さんと悠介さんの力です。ぼくらは、何の役にも立っていない」 井出は、ちらりと同じ班の仲間を見た。葛原は舌打ちし、 「確かに、今回、オレは足手まといだった。それは……、認めなきゃなんねえだろうよ」 そう言った葛原は、守屋を見やる。 「おい、自衛官。お前、なんでオレをかばった」 「何故とは?」 「あの時……、アジ・ダハーカの攻撃を喰らいそうになった時、二人して死んだら元も子もねえだろうが。オレを見捨てて、お前だけでも生き残った方が、戦力が残るんじゃねえのか」 「それはそうだろうが、自分は戦争屋じゃない。自衛官だ。自衛隊は専守防衛……、国民を守るための存在だよ。自分は、そういう人間になりたかったから、自衛官になったんだ」 「けっ。そりゃご立派な回答だよ」 そっぽを向いた葛原は、 「だが、お前がいなきゃオレは死んでいた。そういう意味では、感謝してやる」 「素直にありがとうと言えないのか」 「うるせえ。ほら、帰るぞ」 さっさと軍用車に乗り込む葛原に、守屋は苦笑を漏らす。 「まったく、手のかかる弟みたいな奴だな」 「弟妹というのは、手がかかるものだよ」 「兄さん。それはどういう意味さ」 守屋と同じように苦笑を浮かべる悠介に、恵美も口をとがらせる。 そして、かすかな笑いが漏れた。 「さて、帰ろうか。僕らも」 「……うん」 めいめい、軍用車の荷台に乗り込む。 立ち去り際、恵美は背後を振り返った。崩れかけた東京駅の赤煉瓦が目にとまる。 「まずは一歩」 Aランクは倒せない相手ではない。 それを、恵美は身をもって証明した。ならば、倒せない変種は――取り返せない土地はないはずだ。 確かな未来を遠くに見据えながら、恵美は小さく頷いた。 とある駐屯地、会議室。 国見大吾はノートパソコンの画面に注視していた。 ワードで綴られた報告書の文面を、さっと頭の中に叩き込み、すぐさま反すうする。その情報、そこに込められている意味、その有用性を、頭の中で計算していく。 やがて、計算を終えた国見は、ほっ、と息を吐いた。コップに注がれた水を口にする。生ぬるい水だったが、緊張に乾いた喉を潤すには十分だった。 「なるほどな。そういうことだったか」 国見はギシリと椅子を鳴らし、自分の秘書を見た。 「鳴海君。お手柄だよ」 「ありがとうございます?」 鳴海は小さく頭を下げた。確かに驚く情報ではあったが、鳴海には、その価値をよく理解できなかった。崩壊する前の情報を得たところで、崩壊したこの世界では、どれほどの意味があるのだろうか。 顔に出ていたのか、そんな鳴海に、国見はくすりと笑った。 「鳴海君。確かに世界の主導権は変種のものとなったし、世界地図も大きく塗り替えられた。だが、人間は人間だ。その業までは変わらない」 「はあ」 「人間を動かすものは権力と情報だ。誰だって自分が利するように動くし、楽をしたいと思っている。現状ならさらに、死にたくない、と付け加えるべきだが」 「それはそうかもしれませんけど」 「たとえば、そう、君が得たこの情報は、それ単体ではさして役に立たない。ただの事実だし、過去だ。だが、この情報は、いざとなれば切り札になる。人が秘匿している情報というのは、そういうものだ」 「切り札……?」 「そうだな、何も知らない人に、この情報を与えてみたとしよう。大きな事実、それを隠していたという事実。それは、人の心に疑心暗鬼を生む。食品偽装などいい例だ。事実は変わらないのに、印象が変わる、それだけで人の心は大きく動く。賞味期限が切れたところで即座に食べられないというわけではないのに、あるいは国産ではないからといって気がつくほど品質が変化したわけではないのに、誰も手を出さなくなる。人間の心理だ」 「それは、そうですね」 「これも同じだ。隠された情報というのは、それだけで意味がある。後は、運用する機会を待つだけでいい」 「……なるほど」 ようよう、国見の言いたいことを理解した鳴海は、ひとつ頷いた。 「では、どうしますか?」 「今は何もしない。別口からアクションすべきだな。奥の手は、トドメに使わなければ」 そう言って、国見はニヤリと笑った。 |