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夏休みも終わり、日常を再開する。 けれども、私の頭の中には、授業の内容なんてちっとも入ってこなかった。 その原因ははっきり分かっている。夏休み中に起きた、とある事件が、私の中で尾を引いているんだ。 ――邪法と呼ばれようと、人々が欲する技術は廃れない。 私の大嫌いな女の声が、頭の中に響き続けている。 呪い。現実に存在する、現実とは思えない技術。 その技術にはいくつか種類があるらしいけど、目的はひとつ。他人を害したいという、強い欲求だ。 それが、私の中で、処理できないでいる。 夏休み中に起きた事件。呪詛と、それを行っていた人物。 犯人は、呪詛を使わなければ、自分の恨みを晴らせない人だった。気持ちは……、理解できてしまう。 そもそも、普通に生きていたって、誰かをうとましく思うこと、嫌だと思うことはたくさんある。その中で、絶対に許せないって思って、でも警察とか裁判とかじゃどうにもならなくて……。そんな、やるせない気持ちを抱くことは、ままありうると思う。 普通の人は、そこで泣き寝入りするしかない。それが社会のルールで、でも、そんなルールじゃ納得できない人もいて。そんな人だけが、そんな方法に走らざるをえない。 呪詛なんて手法がなければ、泣き寝入りするのかもしれない。でも、それが正しいのかと問われれば、私は強く頷くことができない。 呪詛を使うなんて間違っている。その思いは強くあれど、相手の気持ちも分かってしまうだけに、むげにできない。 「源!」 「ッ!?」 突然、自分の名前を呼ばれ、私は反射的に立ち上がっていた。ふと見まわすと、クラスメイトが自分を見ていた。 「あ、あれ?」 「源。聞いてんのかお前」 黒板の方を見ると、先生がじろりと私をにらんだ。 「あ、その……、てへっ」 「ごまかしたって駄目だ。ちゃんと聞け」 「はーい」 席に座り直し、黒板を見つめる。 でも、結局、授業の内容はちっとも入ってこないままだった。 ため息交じりにバイト先に向かう。 私がバイトをしているホンダリサーチは、幽霊調査の専門家だ。 いつものように入り口のところまで行くと、中から声が聞こえた。そーっと扉を開いてみる。 「では、よろしくお願いします」 「承知しました」 受け答えをしているのは所長だ。今日も今日とてサラリーマンとは思えない(実際サラリーマンじゃあない)よれよれネクタイをぶらさげている。 対面に座っているのは、どこかで見たような制服の女子生徒だった。長髪に眼鏡をかけているせいか、すごく頭がよさそうに見える。 女の子は立ち上がると、会釈しながら、事務所を出て行った。 「所長、依頼ですか?」 「ああ」 所長は聞き取ったメモを見ながら、小さく頷く。 「どういう事件なんですか?」 「はっきり言ってわからん」 「またですか」 いつものことだけど、うちの所長は、除霊能力こそ一流で、それ以外の能力はからっきしだ。 「……お前、聖華高校って知ってるか」 「知ってますよ。昔は女子高だったのが、5年くらい前に、共学になったんですよね。歴史のある学校だって」 「そうだ。今のは、その聖華高校の生徒会長」 「ってことは、次の依頼は……、聖華高校?」 所長は頷き、 「生徒会長が来ているし、体裁としては部活動のアドバイスとなっているが、実際は学校からの調査依頼だ。ただ、現象が統一されていない」 「どういうことですか?」 「要するに……、七不思議の調査依頼だ」 「はぁ?」 私は思わず、首を傾げた。 聖華高校は、100年級の歴史を持つ、古い私立の学校だ。 正確には6年前まで女子高だったけど、昨今の受験者数減少に伴い、共学化した。学校全体はキリスト教で、学校の敷地内には礼拝堂まであるけど、ガチガチのミッションスクールって感じではない。礼拝への参加は義務だけど、それ以外の宗教的儀式は任意参加で、もちろんキリシタンでなければ入学できないなんてことはない。 中学から付属大学までエスカレーターで行けるのも特徴で、中学受験でも人気はあるらしい。まあ1回だけ頑張れば後は頑張らなくても進学できるってとこに行きたい気持ちはわかる。 実は、私も受験した。普通に落ちた。それは別に、決して、絶対に、私がバカだというわけではなく、単純にこの学校のレベルが高いんだ。 偏差値は上位、付属大学に行けるのに、あえて外部受験をして、東大とか早慶上智へ進学する、なんて人も多いらしい。それだけに、そんなところがうちみたいなオカルティック事務所に依頼をしてくることが意外だった。 聖華高校は、小高い丘の上にある。駅から徒歩15分。見えてきた学校は、はたから見れば、普通の高校と同じに見えた。 違うところといえば、十字架の見える礼拝堂があったり、中学校舎が併設されているせいで、中学生らしい子たちの姿が見えるところか。 校門のところで受付し、首から下げるビジターのカードを貰った私たちは、事前の連絡通り、生徒会室へ向かった。 途中で生徒に聞きながら到着した部屋は、そんなに広くもない、書類棚に囲まれただけの場所だった。部屋の中央にはテーブルがあり、そのまわりに、事務所に来ていた女の子と、そのほか女子生徒ばかり3人。 「ようこそ、我が生徒会室へ」 立ち上がって出迎えてくれたのは、依頼に来ていた女の子の方だ。こうして立っていると、私よりもすらりと背が高いし、頭よさそうだし、普通にカッコいいし……、なんというか、人間的魅力で負けている気がする。ぐぬっ。 「先日はどうも。こっちは助手の源です」 「あ、源愛梨です」 私が頭を下げると、生徒会長さんはにこりと笑った。 「生徒会長の日野未来です。今回はお受けいただき、ありがとうございます」 「いえ。それよりも、ご依頼の内容を、もう少し子細にお聞きしたいのですが。できれば、当事者のお話も」 「私以外でここに集まっている者は、全員、事件に遭遇した者ばかりです。それぞれ別の案件ですので、順にお話ししましょう」 それぞれ別……、ってことは、3件も事件があるの!? 驚いたけど、よくよく考えれば、依頼内容は七不思議の解明。依頼人が3人いるくらいは当然といえば当然か。というか、七不思議がガチなら、依頼は少なくても7件あるわけで……、うへぇ。 テーブルのところにあったパイプ椅子に座った私たち。所長は女の子たちを見渡し、 「では、順番にお話を聞きましょう」 |