生徒会総力を挙げての調査結果は、たったの一週間でまとまった。あの生徒会、組織力ハンパない。
 調査した結果、近隣での怪談話もぱらぱらと集まってきた。
 生徒会室に集まった私たちは、それらひとつひとつの資料を確認する。
「……なるほどな。これか」
 所長が取り上げたのは、とある新聞の切り抜き。女子中学生自殺、の文字がある。
 記事によると、その中学生は家庭内暴力にさらされていたという。お父さんがアルコール中毒にかかっており、お酒を呑むと、手を付けられないほど暴れた。
 そんなお父さんの口癖が――電気を消せ。
 何のこだわりだったのか、父親は、明かりがつけっぱなしになっていることを怒る人だったらしい。明かりがついていると、父親は娘を殴りつけて叱った。
 耐えかねた女子生徒はその後、自殺するわけだけど……、明かりをつけっぱなしにすると怒られる、という内容。トイレに出る『見えざる手』と一致する。
「この女子生徒が自殺したのは、自宅近くの駅だ。だが、症状といい年代といい、間違いないと見ていい」
「他にもありますね」
 たとえば、こっちの資料。これは生徒会のメンバーが近くで聞きとってきた内容を書いてある。
 なんでも、学校から徒歩10分弱の一軒家に、一人のおばあさんが住んでいた。夫に先立たれ、子供たちは独立していた。
 おばあさんは毎日、おじいさんのお墓に行って、お経をあげている姿が目撃されている。
 その帰り道、おばあさんは、車に轢かれて亡くなっている。
「このおばあさんが、視聴覚室に出る幽霊ですね、きっと」
「こっちにあるのは柔道部員の話だな」
 会長が示した資料には、地元の公立高校の話が載っている。
 その学校に所属していた柔道部員は、友達と海に遊びに行き、海難事故により亡くなっている。
 写真を見ると、空き教室に出る大柄な男子と一致した。
「これだけ理由がはっきりしていれば、除霊も可能ですか」
「確かに。女子中学生は暴力を受けていたことが未練でしょう。婆さんは自分の死を理解していないだけでしょうし、柔道部員の男子も、もっと生きていたかったはず。……ただ」
 そこで、所長は少しだけ表情を暗くした。
「もし柔道部員の心残りが“もっと生きていたい”という類のものであったならば、あの真言に無反応だったというのは、少しばかり違和感があります」
「では、判明していない心残りがあると?」
「それはあるかもしれませんが、おそらく違うでしょう。溺れて死んだのなら、何か特別な恨みがあったとも思えない。おそらく、まだ判明していないピースがあるのです。それが邪魔をしている」
「判明していないピース――となると、なぜこれらの幽霊が我が校に集まっているのか、ということですね」
 そう、それが、わかっていない。
 近所の路上で亡くなったおばあさんはまだしも、海なんて、ここから何十キロとある。そんなところで亡くなった男子が、わざわざ、通っていたわけでもない学校に姿を現す理由。
「たとえば、この学校の女子に、その男子の好きな人がいたとか」
「じゃあ婆さんはどうなる。婆さんは、ここのOGでもなんでもない。トイレの女子生徒だってそうだ。この学校の生徒じゃない」
「それは……」
「何かあるんだ。縁もゆかりもない霊が、ここに集まる理由が」
 ここに集まる理由。
 ……言い換えれば、ここに集まらなければいけなかった理由?
 本人たちに理由がないなら、理由は――他の誰か?
「誰かが、霊を集めている?」
 そう考えればつじつまは合う。だけど、今度は誰が、何故、という問題。
「霊を集めるなんて可能なんでしょうか」
「そういう技術はあります。一般的には呪いと言うべきでしょうが」
「呪い?」
「ええ。呪詛と言いますが、霊を使役し、憎い相手を害する技法は存在します。そういう技法で集められたと考えれば無理はないですが……」
「そういう霊なら、私は見ただけで区別できると思います」
 所長の視線を受けて、私が答える。
「区別?」
「はい。呪詛で集められた幽霊は、マイナスの思念を持つせいか、どす黒く見えます。けど、ここの霊は他の霊と変わらない、真っ白なものですので、違いますね。むしろ、空虚というか」
「なるほど……。それは、誰にでも可能ですか?」
「そう、なんでしょうか?」
 私が所長を見ると、所長は首を横に振った。
「真言を誰が唱えても除霊に成功するわけじゃないように、呪詛にもある程度の素養は必要です。才能がない者が行っても意味はない」
「裏を返せば、才能がある人間が使えば、霊は集められる?」
「まあ、そうなりますが」
「だとしたら……」
 生徒会長は、一冊のファイルを取り出した。古い生徒の名簿だった。
「彼女は、可能性があるかと思います」
 開いたファイルには、卒業した女子生徒の名前が書いてあった。
 ――春日かすが彩音あやねさん。
 卒業後の進路は、私も名前を知っている大学だった。外部の大学を受験したらしい。
「2年前に卒業した生徒です。以前にも少し話したかもしれませんが、霊能力があると触れ込んでいたのが彼女です」
「この人物が学校に霊を呼んでいると?」
「可能性はなくもないでしょう? 少なくても、我が校に、霊を呼ぶ理由はありません。けれど、霊を集めることが霊能者にしかできないなら、少なくても自称霊能者だった彼女は容疑者になりえます」
「理屈は、まあ。写真はありますか」
「次のページに」
 言われるままにページをめくると、写真が現れた。その顔を見て、私は思わず息をのむ。
「どうした、源」
「この子……、いました」
「何? どこだ」
「美術準備室です」
 入っている写真は、血の気もあるし、髪も整えられているから、印象はだいぶ違う。でも、間違いない。
 春日彩音さんは、美術準備室にいる、『ガラスを割る幽霊』だ。