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あれよこれよという間に、文化祭の当日となってしまった。 手芸部は、太陽やくるみの援護もあって、なんとか当日までに衣装を間に合わせることに成功していた。 当日になってしまうと、手芸部もやることはない。なにせ、当日に出せるものは何もないのだ。作品は全て演劇部に渡してしまっている。 そういうわけで、部室の方は普段の作品でお茶を濁しつつ、四人で午後の上演を見に行くことにした。 それまでは自由時間ということで、午前中はクラスを手伝ったりして過ごした太陽。昼の休憩になると、生物部の部室に顔を出してみることにした。 案の定と言うべきか、そこにはルナとくるみの姿があった。 「すげーな、これ」 部室の机は、屋台の食べ物で埋まり切っていた。そして、それがみるみる減っていく。言うまでもない、全てくるみのものだ。 「いやー、ターちゃんって良い食べっぷりだよね。つい餌をあげたくなっちゃう」 「ペットか」 「はむはむはむはむ」 ペット扱いでも、別に文句はないらしい。何を言っているのかはわからないが。 「ねえ、やっぱり妖怪ってたくさん食べるものなの?」 「いや、関係ないっすね。妖力を維持するのには食べ物なんていらないし。そもそも、くるみは妖怪としちゃ格下もいいところだし」 「むぐ! はむ!」 「食ってから文句を言え」 「ほへー。ってことは、ターちゃんの個性! ってわけね」 「まあ、そうなんでしょうね」 この個性がどう役立つのかはわからないが。あるいは、大食い選手権にでも出ればいいところまでいくかもしれない。 「先輩はお祭り、見に行かないんすか?」 「あたしは普通の人間とか興味ないし」 「んなどこぞの超強気部長じゃあるまいに。てか、お祭りに人間も妖怪もないでしょ」 「そうでもないよ。というかね、あたしはほら、お嬢様だから」 「……そういやそうでしたね。でも、それ、関係あるっすか?」 「いやあ、だからね。欲しいなって思えば、なんでも買えちゃうわけよ。それこそお祭りの雰囲気だってお金で買えちゃうわけ。お祭りを催させるなんて、そんなの難しくないし」 「マジかよ……」 少しばかし経済的格差に悩む太陽。自分は昼飯をうどんにするかラーメンにするかでえらく悩むというに。 「だから、既存のものとか興味ないわけ。UMA探すのだって、要するに誰も見たことのないものを見たいってことだし。そうだカー君、妖怪になってよ。スーパーチェンジ。文化祭ならみんな制服じゃないからバレないっしょ?」 「そういう問題じゃないんすよ」 まあ、コスプレしている人は割と多いから、そういう意味では目立たないが。 「むむむ。あ、そうだ、じゃあターちゃん変化して! 報酬は屋台料理で」 「ふむ」 こくんとタコヤキを飲み下したくるみは、何故だか太陽を見た。 「どう思いますか」 「いや、駄目だろ」 「ですが屋台の魅力には抗いがたく……」 「抗え、馬鹿」 「えー。なんでカー君てば邪魔するのよぅ」 「当たり前でしょうが」 そんなことを話していると、いきなり扉がはね飛ぶ勢いで開かれた。 「烏丸太陽! 来てやったわよ!」 「呼んでねえ帰れ馬鹿」 「何よ、会うなり! 久しぶり、とか、よく来たな、くらい言えないわけ!?」 「なんで俺がお前にんなこと言わにゃならん」 不知火茨は今日も無駄に元気であった。相変わらず着物だが、文化祭の中ではさほど目立つものでもない。 「だいたい、俺は文化祭があるなんて教えてねーぞ」 「くるみから聞いたわ。なんでも、面白い催し物らしいわね。案内なさい、烏丸太陽」 「なぜ俺。くるみにさせりゃあいいだろうが」 「くるみは駄目。だって食べ物がたくさんあるんでしょう? そんなところを案内させたって食べ物しか出てこないじゃない」 「……そりゃそうか」 「失敬な」 大量の屋台料理を前に、憤慨するくるみ。説得力はあまりない。 「じゃあ獅堂先生に頼め。俺は嫌だ」 「なんで京都の長が東北の元長なんかに頼まなきゃいけないのよ。あんたは一応、京都の妖怪でしょうが。長の命令には従いなさい」 「へー。シーちゃんも妖怪さんなんだね」 「げっ。朝霧……。あんたいたのね」 すすす、とルナは茨に歩み寄る。 「ねえねえ、妖怪ってことは変身できるんでしょ変身! さあやろう今すぐやろういつやるの今でしょ!!」 「わけわかんないこと言ってんじゃないわよ!? なんであたしが妖化しなきゃならないわけ!?」 「あたしが見たいからに決まってんじゃないのそれ以上の理由が何かいるわけ!?」 「馬鹿を言ってんじゃないわよー!!」 ルナと茨の問答をはたから見ていた太陽は、ほっと一息。 「よし。茨のこたぁルナ先輩に任せよう」 「太陽は不知火様が嫌いなのですか?」 「あ? いや。ただめんどっちーのは好きじゃねえってだけだよ」 「では、好意的ですか?」 「あ? ああ、まあ、まっすぐなところは評価できると思うぜ」 「……それはよかった」 「あ? なんだよ、どういう――」 と、太陽の声を遮る勢いで、ドタドタ、と廊下を走る音が聞こえてきた。 「太陽! いるかッ!!」 飛び込んできたのは、テッセンだった。後ろにはミハエルの姿も見える。 「どうした」 「とりあえず来いッ! 緊急事態だ! 多々良も頼む!!」 太陽とくるみは顔を見合わせ、すぐさま飛び出した。 「あ、ちょっと烏丸太陽!? あたしを置いていくってどういう了見よ!?」 「ルナ先輩、茨は任せました!」 「合点!」 「何が合点よちょっと太陽〜!?」 演劇部の控室は、体育館の舞台そでにあった。そこに、演劇部の衣装や道具類が収められていたのだが――。 「ねえな」 「ないですね」 「うむ、ないらしい」 そこは衣装かけになっていた。男性用の衣装や、女性用のドレスなどが並んでいる。だが、そこに主役たるジュリエットの衣装がないのだ。 太陽もテッセンが作ったジュリエットの衣装が見た。他のドレスと比べてやけに小さく、それだけにハッキリと記憶に残っている。 だが、それがどこにもないのだ。 「どこに行ったんだ?」 「わからない。演劇部の部室も探したし、手芸部の部室も探した。体育館中も探した。だけど見つからないんだ」 演劇部の部長は言った。隣には、今回の主演を張る女子生徒もいる。 「心当たりは?」 「全て探したよ。だけど見つからないんだ。衣装がないんじゃ、当たり前だけど、舞台はできない。ましてや主役の衣装だ、絶対に必要だよ」 「そりゃあわかってる。でも、俺らは演劇部にちゃんと渡したはずだぜ?」 「ああ、僕も受け取ったし、実際に昨日まではあった。それを着て通し稽古までやったんだからね。なのに、昼ごろに確認したら、なくなっていたんだ」 「――誰かに盗まれた、とか」 ミハエルの意見に、太陽は思わずうなった。 体育館は、文化祭が始まってから、人の出入りが激しい。生徒ならば誰でも入れるだろうし、その気になれば、部外者だって平然と入ってこれる。誰が持っていったか、などと言ったら、可能性は無数にある。 「一応、テッセンに聞いてみたんだ。この際、衣装的に無理があるのは承知の上で、何かしら代わりになるような衣装ないだろうか」 「それこそ演劇部には何かねえのか。去年の衣装とか」 「ないこともないんだけど、彼女がね……」 部長の隣、主役となる生徒は、一年生らしい。彼女を見て太陽は一言、 「ちんまいな」 「147センチです」 「そりゃ無理だわ」 部長は肩をすくめ、 「この通り。一年生ながら演技の腕はいいんだけど、見ての通り小柄でね。演劇部が持っている衣装じゃサイズが合わない」 「つってもなぁ。こんな子のサイズなんてウチにもねーだろ、テッセン」 「というか、衣装の予備は持っておらん。手芸部の基本は洋裁じゃないからな」 「そらそうだ」 第一、手芸部の部室にそんな余分なスペースはない。 「やっぱり無理か……」 「センパイ、やっぱり少し大きいですけど、他の衣装でやりましょうよ」 ジュリエットは言うが、部長は首を横に振った。 「しかし、いちばん小さいやつでも引きずる。アクションシーンなんて、引きずるようなドレスじゃ無理だろ」 「背に腹は代えられません! 衣装なしじゃ舞台はできないし、ここで中止になんかできません! うまくやりますから!」 「ううむ……」 悩む部長。それはそうだ。 彼とて舞台はやりたい。だが、適切な衣装がなければ、そもそも舞台をやる意味合いが薄くなる。完璧とまでは言えないまでも、きちんとやるからこそ、挑戦する意味も出てくるのだ。 「おい、テッセン」 「なんだ」 「今日はあいつ、来ているのか」 「……。俺は見ていない。だが、来れないわけじゃない」 「太陽も左門寺を疑ってるんだ」 「ったりめーだろ。この前のあの態度。俺らに迷惑をかけるために、演劇部の衣装を持っていく可能性は十分にある」 左門寺大河。先刻の会話程度では人間性までハッキリわかるわけではないが……。 「探してみよう」 「それが手っ取り早そうだな。テッセン、開幕は何時だ」 「二時間後だ」 「じゃ、それまでに見つけりゃ問題ないな。くるみ、お前も手伝え」 「左門寺大河を探せばよいのですか?」 「ああ。運動じゃねえんだから、お前でもできんだろ」 「失敬な。私は運動でも全く問題ありませんが」 「よし! 行くぞ!」 「あいよっ」 テッセンを先頭に、四人は体育館を飛び出していった。 |