つまらない。
 つまらないつまらないつまらない!
「レイチェル。何をそんなに怒っているの」
「そりゃ文句のひとつも言いたくなるでしょ」
 椅子の背に体を預ける。ギシリ、と軋む。
「あたしはね、普通の錬金術なんかを学ぶためにわざわざ帝都まで来たわけじゃないの。そこんところ、あの教師はちっとも理解していないんだから! これで腹が立たないわけがないでしょ!」
「そんなことを言っても、普通の教師は普通の錬金術しか教えないと思うけど」
「うっさいバカ!」
 外れた時間であるせいか、食堂にはあたしとラウルの姿しかなかった。だからこそ、あたしもこれだけ自由にできるのだけど。
 あたしの向かいにはラウルが。目の前には白い丸テーブル。その上に透明に近い色合いのお茶。
 いつも通りの昼下がり、いつも通りに面白くはない。
「そんなに文句があるなら、国に戻ればいいじゃない。別に戻れないってわけじゃないんでしょ?」
「……帰るのはヤダ」
「じゃ、我慢するしかないね」
 そう言って、ラウルは平然とお茶をすする。その落ち着いた姿も、今はただムカつくのみ。
「だいたいね、あんな特定の人間しか使えない道具のどこに意味があるのよ。あれじゃ存在が差別だわ」
「いまどき、コウモリを差別しない国なんかないよ」
「あたしの前でコウモリって言い方はやめろっつってんだろがクソガキ」
「失礼。だけど、実際にマナが使えない人コウモリ用の道具を作ったところで使う人がいないじゃないか」
「使う人はいるわよ。単に差別されて表に出てこられないだけで」
「表に出てこないんじゃ、一般人にとってはいないも同然」
 ――本当は、わかっている。ラウルの言っていること、言いたいことも。
 それでもあたしは納得ができない。マナが使えないってだけで人を区別することが。
 そりゃ、マナが使えなければできない仕事ってのはいくらでもあると思う。けど、マナがなくてもできる仕事だっていくらでもあるはずなのに!
 なのに、何をするにもマナ、マナ、マナ! 何よ、マナって! マナが使えなければなんだっていうのよ!
 ……なんて、考えても仕方ないし、誰かに言ってもさらに意味がないことくらいわかってる。そんなのは誰にも通じない、ってことが。
 大半の人はマナが使えるし、それが当たり前だって思っている。だから、それが使えない人のことについて何も考えないし、何も思わない。たまに見つけてもそれは差別の対象でしかない。
 それが、あたしには納得できない。それだけ。
「だって、帝都にはマナが使えない人のために道具を作る職人がいるんでしょ?」
「そう聞いたね。でも、それって何年も昔の話じゃないの?」
「国外に引越しなんかそうそうしないでしょ」
 つまり、帝都のどこかにいるはずなのだ。その特殊とも言える道具職人が。
 だけど、あたしが帝都に来てからずっと探し続けているのに、そういう話は一切ない。それが解せなく、また、あたしをイラつかせる。
「ねえ、なんでそんなにこだわるの?」
「なんでって何よ」
「そこまでこだわらずとも、レイチェルの錬金術ってそんなに悪くないんでしょ? きちんと学べば、あるいは化けるかもしれない。それを、むざむざ誰も認めないような道具作りにならなくてもいいんじゃないの?」
「誰かが認めるかどうかなんてあたしには何の関係もないよ。あたしは認めて欲しいんじゃない、自分を納得させたいの。そして、あたしは差別するような実情の中では納得できない。だから、作りたいのよ。マナが使えない人でも使える錬金術を」
「ふうん……」
 ラウルは細くなった目であたしを見つめ、
「心当たり、ないこともないんだけどね」
「……心当たりぃ?」
 うろんげな眼差しがあたしを見つめる。
「なんでそんなに疑わしそうなの」
「なんで今の今まで黙ってるのよ、あんたは」
「知ったのがつい昨日だからね」
 ラウルは鞄を丸テーブルの上に置くと、その中から何かを取り出す。
 それは、あまり見たことのない形状のナイフだった。波紋の部分にあえて何かを刻んである。
「これを昔、近くの刃物屋で買ったって人に会ってね。たぶん、それ、コウモリ用の道具じゃないかな?」
「――ふむ」
 普通、刃物に刻む文様は、マナの力を増幅するもの。けど、この文様にそういう意味はない。見た感じではただの装飾用、ってことになる、けど。
「面白いね、これ」
 仕組みはわからない。でも、これからは確かに、マナとは別の何かを感じる。気のせいじゃない、万能感。なんでもできるような気になってくる!
「これ、どこで手に入れたって?」
「はい、地図」
「さっすが。用意がいいね」
 紙片を受け取り、あたしは立ち上がった。
「もう行くの?」
「当然。道が前にあるのに走らない理由はないでしょ!」
 じっとしているのは、性に合わない。ゆっくりお茶を飲むのはラウルの趣味であってあたしの趣味じゃない。
「じゃね! お礼はまたこんど!」
 今度こそ、当たりな気がする! あたしの勘はよく当たるんだから!



 
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