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王侯貴族の中には、着替えるために、わざわざ従者の手を借りる者がいるらしい。 確かに、単独では着るのが難しい衣服もある。だが、私はそれを好かない。そのため、着替えの時は誰の手も借りなかった。式典用の服も、基本的に自分一人で着られるようなものしか作らせていない。 自分の手でやれることがあるのに、それを自分の手でやらないというのは、私からすれば理解できない。 「アリス」 部屋の外に声をかけると、音もなく扉が開く。 現れたのは、ショートヘアのメイド。私の従者であり、守り人であり、護衛だ。 「そういえば、まだ報告はないのか?」 「はい。もとより頻繁な報告が可能な状況ではありませんので、連絡は月に一度、と取り決めております」 「そうか。次の報告は?」 「七日後の予定です、ギルフォード様」 「……せめて二人しかいない時は様づけで呼ばないでくれないか」 「いつ、どこに敵の目があるかわかりませんので。そのための従者でしょう?」 アリスの言うことはもっともだ。だが、うむ、理解しつつも、それは一抹の感情を呼び起こす。 「まあ、その点はよしとしよう。それで? 他に報告するようなことは」 「またローレンクロイツ王の庶子が行方不明になられたそうです」 「またか。たいがいだな」 「それとは別件で、ジョルジュ王が近々、我が国を視察したいと」 「おおかた、また嫁と喧嘩でもしたのであろう。捨ておけ、どうせすぐ仲直りするに決まっておるのだ」 「承知しました。今日のところはその程度です」 「そうか。平和なことだな」 私はふと窓辺に寄った。私の部屋からは、窓の向こうに朝の日差しを浴びる街並みが見渡せる。 私はこの眺めを気に入っていた。遠くに城壁、そして、そこまでを可能な限り使おうとする人の意地。心の強さのようなものを、私はこの光景から感じ取ることができる。 「ギルフォード様。窓辺は危険ですのであまり近寄らないよう」 「右も左もわからぬ子供ではないのだ。自分の身くらいは自分で守れる」 「王のそのお身体は王だけのものではございません。大事にしていただかないと。その身を守るために最大限の努力をすることもまた、王の勤めでございます」 「王の勤め、か」 王とは、その存在こそが全てだ。生きること、それこそが最大の勤めと言ってもいい。 我々は最後の手段でなければならない。同時、最後の事態には、我々が対処しなければならない。そのための王族だ。 国を守る防衛線、その最も後方に位置する存在。国民を、人間を守るための存在。 それを、この国の人間はどれだけが知っているのだろう? 「いかがいたしましたか、ギルフォード様」 「なんでもない。それよりも、今夜は地下室にこもるぞ」 すると、そこで初めて、アリスは笑みを浮かべた。年齢からすれば似つかわしくない、妖艶と呼ぶべき笑み。 「承知しました」 ああ、何があったとしても、お前だけは守りたい。 ギルフォード・フィル・フォルンハイムの名にかけて。 |