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パーティー会場は、砦の一階にある大広間を使った。それでも全員は入りきらなくて、外でも騒いでいる連中がいるらしい。 そして、パーティーの会場には色々な人がいた。 「へーえ、あんたがリュートの言っていた」 「お。エリア嬢のおでましか!」 「ねえねえ、昔のリュートってどんなだった?」 「もうやっちゃったの?」 「……えーい、そんなに囲まないッ!」 ――本当に、色々な人がいる。けど、みんなおおらか過ぎだと思うの。 わたしがリュートと共に会場入りした時には大変だった。リュートはリュートで今回の主賓、囲まれるのは仕方ない。けど、それと同じくらい、わたしも囲まれてしまった。 どうやらリュートはわたしのことを少しまわりに話していたらしい。それは嬉しくもあり、この場合では迷惑でもあり。 リュートが普通の人のことを話すのはあまりなかったらしく、わたしという存在に、みんなは興味津々だった。質問に答えては次の質問が飛んできて、という具合に、なかなか解放されない。 いいかげん辟易してきた頃に、ようやく救世主がやって来た。 「おいおいお前ら、そこらにしてやらねーと、リュートに殺されるぞ。オレらが」 ワイングラス片手にひょろっと顔を見せたのは、前にも見たウェアの一人。……確か、ヴィンセント。 散れ散れ、とヴィンセントが手で払うと、みんなほうぼうに散って行った。 「ごめん、助かったわ」 「ん、まあ、あんたの身に何かあっちゃ、オレはリュートに顔向けできないしな」 「え? ヴィンセントには関係ないんじゃないの?」 「さっきリュートに頼まれたんだ。今後、オレがあんたの護衛になる」 「護衛……?」 そんな大げさな、と続けようとして、ヴィンセントの目がちっとも笑っていないことに気付く。 「リュートはこれだけの軍勢を率いる立場だ。普段はあんなだし帝都にも侵入しちゃいるが、実際にあいつは一人ってわけじゃない。常に見えないところに仲間が護衛として入っている」 「そうだったの?」 「あんたに気付かれるようじゃ護衛にならないさ」 そりゃ……、まあ、そうかもしれないけど。わたしは荒事に少しだけ慣れているだけの、要するにただの一般人なのだから。 「今までのあんたに護衛は必要なかった。オレたちのことを知っているつっても、それは深い話じゃない。相手のトップはオレたちという存在は知ってるし、そのくらいのことはバレても問題ないからな」 だけど、とヴィンセントはわたしを見下ろす。 「あんたがリュートの『大切な人』になるってのなら話は別。あんたは、もしかするとオレたちの弱点になりかねない。オレが来たのは、あんたにそういう自覚を促す意味と、あんた自身を守る意味と、両方の意味がある」 そう言って、ヴィンセントは手に持ったワインを一息に飲み干した。 正直、わたしが弱点とかそういう話も重要だったけど……、個人的には、それより前の話の方が気になった。 「その、リュートにはどこまで聞いたの?」 「全部。たぶん」 「ぐぬ……」 リュートめ。口が軽いわよ、マジで。 「いいじゃねーの? 別に隠すようなことじゃないだろう」 「いや、まあ、そうなんだけど……」 ――まあ、いずれはバレること、ね。 「でも、ってことはヴィンセントが四六時中、わたしの近くにいるってわけ?」 「ヴィンでいい。別に寝食を共にしようってわけじゃねえ、ま、あんたが襲われた時に守れるくらいの位置にゃ常に張りつくことになるけどな。そこらは手加減するさ」 「そうして。一応、わたしも女の子だから」 「子?」 「ぶっ殺すわよ」 ふと思いついて、わたしも手に持ったグラスを傾けた。 ほんのりと甘みのあるお酒は、少しぬるくなっていた。 宴は長く続いた。終わった頃には日が昇り始めていた。そのくらいにならなければ、みんな酔い潰れなかったとも言える。 片付けはしなくていい、と言われてしまい、わたしは砦のバルコニーで風に当たっていた。酔った体には、外の風が気持ちいい。 見下ろせば、広場が見える。みんなが集まり、リュートが演説かました、あの広場が。あそこに並んでいた、みんなの顔。 「戦争、か……」 「何をしみじみ呟いてやがんだ。お前は」 振り返るまでもなかった。わたしの後ろに、彼が立つ。 「やんなきゃいけないのよねー」 「俺はそう考えている。実際、他に生きる道なんていくらでもあるんだろうけどな」 わかっていても止めることはできない。 ウェアに、人間に対する不満があるのは当然のことだろうと思う。好きであんな体になったわけではないのに、そのせいで不便な生活を強いられ、あげく、悪魔との戦いまで義務づけられている。 それも、全て弱い立場だからという、それだけの理由。とても下らない。 ふっ、と後ろから抱きしめられた。リュートの体温を感じる。 「エリア。お前は、これからどうするんだ?」 「どう、って?」 「帝都での仕事、もう終わりなんだろ」 「……ん。そろそろ引き継ぎも終わりだから、本格的に帝都にいる理由はなくなるわねぇ」 「そうなったら、自由にゃ会えなくなるな」 「リュートはまだ帝都に?」 「ああ。軍が侵入するルートがねえんだ。それを、見つけねーことには、どうにもな」 「そんなの、他の誰かに任しちゃえばいいじゃない。別にリュート自身がやらなきゃいけないことでもないでしょ?」 「そうなんだけどな。ま、俺が呼びかけた手前、重要なところは自分の手でやりたいってのがあるわけよ」 「――そういう風に無駄に責任感の強い人は途中でつぶれやすいのよね」 「俺にはお前がいるだろ? それなら大丈夫だ」 「……ばか」 ぎゅっとリュートの手を握る。そうしていると、なんとなく安心できた。 「やっぱり、リュートはわたしに帝都で仕事して欲しい」 「そりゃ、まあ、できるならな」 「なら、やってできないこともないわね」 「当て、あんのか?」 「まあ、ね。リュートの敵さんに力を貸してもらえば」 なんとなく、後ろで嫌な顔をしているような気がした。 「あいつ、かよ」 「悔しい? 自分を当てにしてもらえなくって」 「……まあ、そういうことに関しちゃ俺は手助けできねーけどよ。無職だしさ」 「ふふ、本当にリュートは生活能力皆無よねぇ。男としてだったら、落第点もいいとこよ?」 「うるせえ。男が働く時代は終わったんだよ」 「ヒモね」 むぐ、と後ろの声が沈黙した。振り返ると、リュートの顔があった。 「嘘、よ」 その口を塞ぐ。 ほんの短い時間。顔を離すと、大きくなった目が見えた。 「驚いた?」 「あー、ちょっと」 顔が染まっているように見えるのは、朝日のせいじゃない、かな。 「遊んでいると思ったけど、意外とウブなんだ」 「まわりにいくらいたって……、そりゃ、いるだけさ。中身の深いところまで見せられるわけじゃない。 俺の方こそ、お前は遊んでるって思ってたぜ?」 「失礼ね。わたしは一途よ」 「はは、似合わねえ」 「ん、自分でもそう思った」 ふふ、と二人で笑う。 「なあ……」 「ん。言わなくていいよ」 その口に指を当てる。距離が近い。なのに、怖いとも、嫌だとも思わない。 強いて言えば、少しだけ不安。近いからこそ、なのかな。 だから、求め合うのだろうか。 そんなもの、なのかもね。 「そういえば、プレゼントがあったんだ」 「プレゼント?」 ハンドバッグを探る。入れっぱなしにしていた白い小袋を取り出し、リュートに手渡した。 「へえ、お前もそういうことには気が回るんだな」 「相変わらず失礼だね」 ガサガサ、と袋を開く。中に入っているのは、少し変わったアクセサリー。 「こりゃ……」 取り出す。プレゼントはネックレスだ。とはいっても、ただのネックレスじゃない。その表面には文様が刻まれ、触れればほのかな暖かさを感じる。 「これ、お前が作った……、わけじゃないよな」 「わたしだよ。友達の手は借りたけどね」 「友達?」 「レイチェルっていうの。お父さんの武器に興味を持っててね、その縁で知り合ったわけ。ふたりで苦労して、ようやくそれくらいのものが作れるようになったのよ?」 それは、マナが使えない人のことを、リュートのことを想って作った道具。 リュートには、きっと似合う。 しばしプレゼントを眺めたリュートは、それを自分の首に下げた。 「似合うか?」 「とっても」 「――へへっ」 笑うと子供っぽい。そんなところも、愛おしく思える。 「冷えるし、中に戻ろっか」 「あ、ああ」 悪魔と戦っている時には、あんなにも頼もしそうだったのに、そうでなければ色々と頼りなかったり、子供っぽかったり。 それが、リュート・クリスティなんだね。 |