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彼が亡くなった。 私は彼という存在が好きだった。彼には可能性が垣間見えた。それが嬉しくて仕方なかった。 私たちが獣となったのは、もう思い出すことも難しいほど昔のことだ。それ以来、悪魔との戦いで、あるいはその者の寿命で、幾人もの仲間が死んだ。生き残っているのは、もうわずかなものだ。 私の寿命がどこまで続くのか、それは私にもわからない。だけど、そう長くはないように思う。そして、自分の寿命が尽きる前には、仲間たちのその後を託せる相手が欲しかった。リュートには、それだけの可能性があったように思う。 ただ、それも今では意味がない。彼はすでにいないのだから。 「ミント」 振り向くと、案外と近くに狼面の仲間が立っていた。 「……どうやって立っているのですか?」 「気にするのそこかよ」 ヴィンセントは樹上にいるはずの私の背後に立っていた。確かにこの樹木はとても大きいけれど。 「どうせ、お前もリュートのことを考えてたんだろ?」 「ということは、あなたも?」 「そりゃそうだ。あいつは中心だったからな」 誰の、と聞くまでもない。みんなの、だ。 「どうするつもりなんだ、お前」 「どういうことでしょう?」 「とぼけんなよ。鳥として参戦する理由はなくなったはずだ」 その通りだ。鳥が参戦を決めたのは、彼が申し出を持ってきたからに過ぎない。血気の盛んな連中はいるけど、それ以上に、リュートに協力するという名目の下でやって来た者の方が多い。 その最中、彼がいなくなった。もはや私たちは戦争に参加する理由がない。山での生活は不便もあるけど、それに不満があるというわけでもない。慣れればどこも都だ。それに、私たちの体は、人の街で生活するには向いていない。 「それでもお前たちはやるのか? 弔い合戦なんてガラじゃないだろう?」 「ヴィンセント、あなたはどうすべきだと思いますか」 「んなことは獣が決めるこっちゃない」 相談に乗ってくれという意味合いなのだけど。こういう時、リュートは素直に乗ってくれた。 年下にも程がある彼。それでも頼れる気はした。彼にならば、彼の作る未来ならば、仲間たちを任せてもよかったと思えるほどに。 「そうですね」 どうすればいいのか。そんなことは考えるまでもない。彼がいなくなったことで、私の寿命が延びるわけでもない。 命の期限はみんな決まっている。誰の人生がそこに影響しようとも、限度そのものに変化があるわけじゃない。 「参戦します。少なくとも、私は」 「へえ。お前は人間に恨みなんざないと思ってたけどな」 「恨みはなくとも、戦わねばならぬ場合もあります。私たちと悪魔の関係も、究極的にはそうなのでは?」 悪魔に、実質的な恨みを持つ人は、実はそう多くないと思う。彼らは格別の戦闘力を有しているし、生きる者を見れば襲いかかるような凶暴極まりない連中ではあるけど、そもそも彼らの個体数は決して多いわけじゃない。私たちの世代でさえ、実際の彼らに家族を奪われた人間はそう多くなかったように思う。 あるいは、私の周囲が、たまたま平和だっただけかもしれないけど。 それでもウェアは悪魔と戦った。 「今まで、私は流されるままに生きてきました。そうせざるをえないからこそ、そうしてきたのです。選択肢など、あってなかったようなもの。今回も同じことです」 選択肢はない。実際にはあるのかもしれない、けど、それを選べるほど器用でもなければ、若くもない。 後のことは若い世代に託すしかない。老人がいつまでも生きられるわけじゃない。とても残念だけど、避けられない現実でもあるから。 どうすればいいのか、なんて問いかけは、私には意味をなさない。 「ヴィンセント。あなたこそ、どうするつもりなのですか?」 「ほう、そりゃどういう意味だ」 「あなたこそクロスに協力するいわれはないのでは?」 「……ようわかってんじゃねーか、お前」 「付き合い、長いですから」 ヴィンセントは、あれでかなり自分勝手だ。悪魔と戦っている時さえ、彼が本気で戦っているところは久しく見ていない。彼にとって、仲間でさえ守らねばならないものではないのだ。 仲間だからという理由で守ろうとするには、私たちはあまりに失いすぎているのかもしれない。 「ま、協力するさ。エリアにはな」 「なぜ?」 「それがあいつの最後の命令だかんな」 なるほど、と口の中で呟く。これほど自己中心的な男でさえ惹きつけるものを持っていたのだ、リュートは。 空を見上げる。何も見えない。その先に、リュートはいるのだろうか。 「飛べても」 空を舞う能力を持っていても、彼のところに届くことはない。 それでも、私たちは空を飛び続けるのだ。 |