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砦の中には色々な部屋がある。大会議室もそのひとつ。そこは、大きな机が置かれただけの、ただの広い部屋だった。 ここの部屋はどこもそうだけど、殺風景なことこの上ない。もっとも、戦うために森の中に作った砦なんだから、それで当然なのかもしれない。 今、大机の上には帝都の地図が広げられていた。その周囲をぐるりと囲むのは、ウェアの重要人物たち。クロスやガルシア、ミントはもちろんのこと、ヴィンセントみたいな古株、さらにはそれぞれのリーダーが認めた副官のような人たちも顔を揃えている。コウモリらしい、人間の姿もあった。 その中に、わたしとレイチェルもいた。わたしは新しいトップとして。レイチェルは、そんなわたしが連れてきた人間として。 「以上が現在、軍が保有している戦力です」 報告を終えた副官は席につく。その人の話によると、兵隊であるウェアを何人かの班に分け、その中にコウモリを入れることで、ひとつのグループとしているらしい。 それぞれの班は一応の武器を揃えているけど、貧弱なものも多いし、それぞれが得意としていない武器を持っている場合も多いとか。 「そのあたりはレイチェルに頼むことになりそうね」 「ん」 レイチェルは軍の中で唯一、錬金のスキルを持っている。それぞれの武器を叩き直し、より良いものにするのは一苦労の作業となりそうだけど……、他に頼める人はいない。帝都の中で武器を入手するのは制限があって難しいし。 「では、次に実際の作戦だが。最大の問題は、城門と、その前にある堀だ」 クロスの言葉にみんながうなずく。 そう、それが最大級の問題。帝都の中に入ってしまえば、まだ色々と可能性は残る。けど、中に入れないのであれば、可能性どころの話じゃない。 鳥タイプのウェアは城門を飛び越えることができるけど、鳥たちは全員を運べるほど数が多くない。みんなで協力すれば城門を破壊するくらいは可能かもしれないけど、それだと堀を跳びこせない。 堀をなんとかしつつ城門を破壊するのには時間がかかる。それだけの時間があれば、さすがに帝都側もなんらかの対策をしてくるだろう。そうなったらおしまい、次のチャンスはウェアにはない。やるなら一撃でやらないと……。 そうやって、堂々めぐりしていた。リュートはそういう状況を打ち破る可能性を見つけるために帝都に潜入していたらしいけど、結局、見つける前に、あんなことになってしまった。 どうすれば打開できるのか。考えて、地図を眺めて、結局は良案なんてない。そんなものがあれば、とっくの昔に攻め入っている。 そうそうたる面々が頭を並べているのに何も案が出てこない。まあ、帝都のことを詳しく知らないウェアや、重要な場所には一切の立ち入りが許されないコウモリでは、考えても何も出ないのは無理もないかもしれない。 その点、わたしやレイチェルの方が有利、とは言えるんだけど――。 「エリア、何か良い案はないだろうか」 そらきた。 わたしは隣のレイチェルを見つつも、 「思いつかない、わね。城門がどのくらい頑丈なのかは知らないけど、結構な厚みがあるから、いかにウェアが力強いからって、そう簡単にはブチ抜けないと思う。堀も深いみたいだし」 「当然ね。あれは悪魔を通さないためのもんなんだから」 ふん、とレイチェルが鼻を鳴らした。 「知ってるとは思うけど、城門とか堀は対悪魔用の時間稼ぎ道具。悪魔のバカみたいな力――って言ってもあたしは見たことないけど、ともかくそういう対策が必要な力を使ってでも時間を稼がれるような作りになってる。ウェアがいくら協力しても、そう簡単にブチ破れるはずないでしょ?」 なるほど、そうやって理屈で説明されると、余計にわかりやすい。 「レイチェル、案外と頭も悪くないのね」 「エリアうっさい。でもって、普通はさ、帝都の外から中に侵入する方法なんて用意してないもんよ。だって、そこから悪魔に入りこまれたら、そもそも城門や堀を苦労して作った意味がないでしょ?」 それはそうだ、と心の中でうなずく。けど、それじゃ困る。どこかを通って帝都の中に入らないことには、革命は成らないのだから。 「可能性があるとすればふたつね。ひとつは、リュートみたいに誰かが中に入り、内側から城門を開くこと。城門の操作場所だけ制圧しちゃえば、開くのは難しくない。でも、そのためには城門を通らず突破できる面々だけでやる必要があるわ」 「鳥と、それらが連れていける精鋭だけで、だな」 それは十分な可能性に思えた。ただ、問題も残っている。 別のウェアが口を開く。 「だが、それをやれば、鳥の負担はかなり大きい。そもそも仲間をひとり余計に連れて行くだけで十分な負担だ、その上で城門の制圧は可能だろうか? 構造もわからないし、何より……、あれはマナで動いているのではないか?」 そう、それが大きな問題。正確な仕組みはわたしも知らないけど、あれだけ大きな駆動品、どこかにマナは使っているだろうと考えてもおかしくない。そして、軍の中でマナが使えるのは、たったのふたりしかいない。 すなわち、わたしか、レイチェルか。 どちらかが中に潜入、城門を開かせる必要がある、ってこと。 すでにわたしたちは帝都内部ではお尋ね者になっていてもおかしくない。いまさらのこのこと戻ることはできない。鳥に時間稼ぎしてもらいつつ、城門を開くのはなかなか骨が折れる。 まあ、不可能みたいなことをやろうってんだから、少しばかり骨が折れるからって諦める理由にはなんないかもしれないけど。 「なら、もうひとつの可能性は?」 「もっと難しいけど、帝都の外周、どっかにある王族用の抜け道を探すこと」 「そんなのあるの?」 ある、とレイチェルは断言した。 「少なくとも、あたしの故郷にはあった。あたしも実物を見たわけじゃないけど、王族とかが何かあった時に都市の外に出られるように、都市の中と外を繋ぐトンネルを、王城の近くに用意しておくの」 「つまり、それを見つけて逆に通れば……」 「そう。王城の近く、一番の急所にピンポイントで出られる」 それは魅力的な可能性だ。本当にあれば、だけど。 「可能性は低くないだろうな。王家の考え方も、その重要性も、国によってさほど変わるものじゃない。いざという時のために逃げ道を用意しておく、そのくらいのことはしているだろう。外側から見つけられるものかどうかはわからないがな」 「探してみないことにはなんとも」 ミントの言葉に、クロスは頷く。 「そうだな――なら、当面の作業は、そういう隠し通路が実在するかどうかの調査と、城門の仕組みに関しての調査を並行して続けよう。城門の仕組みは今まで通りの班で。ただ、人間側も先日の件で警戒しているだろうから、十分に注意するように。ミント、指揮を」 「了解しました」 「隠し通路の調査はガルシア、率いてくれ」 「承知した」 「各自の手法は各自に任せる。では、解散」 クロスの散会の宣言を皮切りに、みんなが立ち上がる。 わたしものろのろと体を持ち上げた。そんな、少し騒がしい空気の中、外からさらに慌ただしい気配が飛び込んできた。 「何事だ」 文字通り飛び込んできたのは、鳥のウェアだった。灰色の羽に赤い胸は、どこかで見たことがあるような気がする。 今、灰色羽のウェアは、息せききって飛び込んできたらしかった。苦しげに顔をゆがめ、汗を浮かべ、けれどそれどころじゃないという具合になんとか言葉をひねり出そうとしている。 ミントがそばにかがみこんだ。灰色羽は鳥のリーダーを見上げ、 「に、人間、が……。砦の、近く、に……」 「なッ!?」 あがった叫び声が誰のものだったのか。 わたしには、わからなかった。 |