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「見つけた?」 何回か前の定例会で提案された、王族専用の秘密通路を探すという話。その件を任されていたガルシアは、今日の会議が始まって早々、見つけた、と言い出したのだ。 「それ、本物なの?」 誰かが疑問を投げ返す。それも当然だ。そもそも、そんなものがあるのかどうかさえ疑わしい状況。見つけた、なんていきなり言われても、信じることはできない。 対するガルシアは不満げに、 「そんな間抜けをするか。巧妙に偽装されていたが、俺たちトカゲはもともと隠されたものを探すのが得意な種族だ。造作もない、とはいかなかったが、なんとか見つけられたんだよ」 そう言って、ガルシアは地図上の一点を指す。そこは、近くに街道も何もない、小さな森の中。 「ここだ。帝都からはかなり離れるが、離れ過ぎてもいない。逃げ道の脱出口としては適当なところだろうよ」 「この森は? こんなところに獣は住んでいないはずだが」 クロスが問い返す。 「森というよりは林だな。おそらく、この隠し通路を隠すために人間たちが植えたものだろう。植生にわずかな不自然さがみられた」 要するに、自然では生えないような木がそこにあった、というところだろうか。わずかな、というからには、ありえない話ではないけど可能性は低い、といったところかな? 「地下道を開く方法は見つけられていない。今も部下が考えているが、たぶん、表から開く方法はないだろうな」 「だろうな。それでは逃げ道の意味がない。破壊は?」 「正直にいえばわからん。俺が思い切り叩けば壊れるかもしれないし、壊れないかもしれない」 「ずいぶんと頼りない話だな」 「仕方ないだろう。実際に壊すわけにゃいかないんだから」 そりゃそうだ。ここで下手を打って、目立つのだけは避けたい。 「となると当然、出口も、通路の中がどうなっているのかもわからずじまいか」 「そうなる。ウェアが通れるサイズがあるのかも、王族以外が使えるかどうかも」 前者は、おそらく大丈夫だと踏んでいる。ギルフォードさんは大柄な人だ、ガルシアはともかく、普通のウェアならさほど体格に差はない。 後者は問題。王族専用のマナとか、そういう仕掛けが途中にあった場合、わたしたちではそれを探知することも突破することも難しくなる。あるいは、王族が持つマナを使わないと解除できない罠とか。 「賭け、か」 「だが、いずれにしろ、少数しか使えないと思うぜ。あんな穴は」 ガルシアは肩をすくめた。 もちろん、それは想定している。重要なのは、帝都のどまんなか、相手の急所にいきなり人員を送り込めるということ。 わたしたちが軍として動くためには、最低でも城門を突破する必要はある。それ以外の方法で大量のウェアが帝都に侵入できない以上、これは絶対条件。 問題は、どうやって城門を突破するか。破砕鎚のようなものを使って強引に突破するのはできると思うけど……、対悪魔用の城門だけあって、あれはやけに重厚だ。そうそう簡単には突破できないし、そんなところで時間を食って、ただでさえ多くはない味方を余計に減らしたくはない。 ところが、もしも中から少数のウェアが入り込み、混乱を生み出せたら。その時点で内部の指揮系統はガタガタに崩れ、城門に割くメンバーが大なり小なり減る。そうなれば、本隊が動きやすくなる。 要するに、逃げ道を使うメンバーは、厳選された者でなければいけない、ということ。元から、そんなもので本隊を送り込むつもりは、少なくともクロスにはないだろう。 「ふむ。ミント、そちらは?」 ちらと視線を送られたミントは、いつも通りのぽやーっとした表情のまま、 「城門の動作方法なら、十中八九までマナを使用していると考えて間違いなさそうです。城門には常に門兵が駐在しています。必要に応じて、彼らが開閉させているようです」 順当なところだ。これに関してはクロスも文句を言えない。 そうなると、現状、考えられる作戦は大きくふたつ。 誰かが城門に行き、マナによって開かせるか。 力で城門を破壊し、無理やり突破するか。 「潜入、しかないだろうな」 「できる? 人間側だって警戒しているだろうし、城門の開閉なんて最重要ポイントじゃない。静かに侵入して開かせる、なんてのは……」 「では、他に方法が何かあるというのかね?」 言われて、黙るしかない。城門を破壊するのは非現実的だ、そうである以上、こっそりとでも侵入して開閉させる以外には方法がない。 「その点に関してですが、第一に、城門開閉には三人以上が同時にマナを発動させる必要があるようです。また、脅して実行させるのも難しいかと。マナは自分の意思で発動させるものですから、脅したりして動揺した状態では、うまく発動させられない可能性があります」 「……」 「……」 突如として落ちてきた沈黙に、ミントは周囲を見渡す。 「……? どうしてみなさん、私を見ているのですか」 「いや。ミントがそれほどの情報を記憶できるとは思っていなかったのでな」 クロスの言葉に、みんなが頷いた。いや、だって、ねえ。三秒前の話を忘れるミントのことだし。 すると、ミントはふんまんやるかたない、といった感じで、 「失敬な。私だって頭くらい使えます」 「いや、すまない、みくびっていたわけではないんだが」 「ちゃんとこの書類に何を言えばいいのか書いてもらいました」 「……。いや、私が悪かった」 もはやクロスの人選を疑うようなレベルね。 でも、今の情報はかなり有用だ。信ぴょう性は、まあ信じていいだろう。ミントは今まで嘘は言ったことがない。あやふやな情報なら、きちんとそうだと言うだろうし。 「そうなると、侵入してこっそり開くってのは不可能って決まったわけね」 「まだそうだと決定したわけじゃない」 「だってそうじゃない? こっちにいるマナが使える人間はたったの二人よ? そんな状況で、どうやって城門を開くわけ」 「二人だけじゃ絶対に駄目なのか?」 ミントは首を横に振った。まあ、そうだろうとも思う。三人以上と言うからには、三人は必要なんだ。 「それなら、こういうのはどうだ。まず、エリアとレイチェルが潜入する。んで、そこにいる門兵の一人をつかまえて、マナを使わせるんだ。そうすりゃ全部で三人。一人がきちんとマナを使えなくたって、二人でサポートすりゃあ……」 「不確実。論外だ。作戦の要とも言える城門突破を、そんな確実性に欠けた手法に頼るわけにはいかない」 クロスの断言に、ガルシアも黙る。確かに、城門を突破できなければ、帝都支配も何もあったものじゃない。 でも、なんだろう。何か気になる。とても重要なことを知っているのに、それを見落としているような……。 どこかで、わたしは聞いた気がする。帝都の外と中を繋ぐ方法。本当に城門だけだった? そもそも、その話は誰に聞いた――? 「あ」 思い、出した。 わたしは壁面を見た。そこには世界地図が張ってある。 帝都の近郊。わたしたちの砦がある森。山。そして、森と山を繋ぐ一本の青い線。 川だ。川がある。 「どうした?」 「ねえ、クロス。この川は?」 「ん?」 みんなの視線が世界地図に集まったのがわかった。 「川……、か? それがどうした」 「この川はどこに繋がっているの?」 「この砦から少し南側に谷間状になっているところがある。そこから先は地下水脈になるから、どう繋がっているのかはわからないが」 「帝都に繋がっている可能性は?」 場の空気が変わった。 「どういうことだ?」 「帝都にはね、川があるのよ。近くには公園もあってデートスポットになってる。その川は帝都の城門を超えた先で地表に出て、途中でまた地下にもぐっちゃうの。源流がどこにあるのかは不明」 「その川が、この森の川と繋がっている、と?」 わたしは頷いてみせる。 「可能性はあるんじゃない? 森の川も地下水脈になる。帝都もそう。それなら、地中では一本の川になっているのかもしれない」 「だけどよ、仮にそうだったなら、城門を通らずに帝都に侵入する方法があるってことになっちまう。どうして連中は今までそれを見過ごしていたんだ?」 「たぶん、悪魔は水を嫌うから。悪魔は水にもぐったりできない。だから今まで無視されていたんだと思う。川から来る、なんて考えもしないで」 どう、とクロスを見た。クロスは地図を眺めながら何事かを考えている様子だったけど、 「可能性は、ありうる。そして、仮にその通りなら、いきなり連中の急所に出られるわけだ」 「なら……」 「まだ待て。それは可能性論だ。さっきも言ったように、この作戦の要となりうる軍の侵入方法について、そんなに早急に解答を出すわけにはいかない。まずは川を調査しよう。話はそれからだ」 その言葉に、みんなが頷いた。 |