「くそっ!」
 感情に任せた突撃。鋭い先端を持つナイフは、オレの力を一点に収束させて樹木にぶつける。
 木の幹に突き刺さるナイフ。ねじって引き抜き、今度は横に払った。木の表面がはがれ、脇に飛んで行った。
 事務所の近くにあるこの大木は、オレがナイフの練習をする時にいつも的にしている。最近は少しずつ形になってきているように思うけど、まだまだ駄目だ。こんなんじゃ、あの鳥みたいな化物にさえ勝ち目はない。
「なんで、なんだよッ!」
 加速アクセルを利用し、最高威力の突撃をかます。今までないほどの勢いで木にナイフが突き刺さった。あまりに深く刺さり過ぎて、今度はうまく抜けない。
「ちっ……」
 引っ張ったり押し込んだりを繰り返して、なんとか引き抜くことができた。息を整えていると、足音が聞こえた。
「荒れているな」
「……所長ですか」
 オレは首にかけていたタオルで汗をふき、
「書類はいいんですか。たまってるんでしょう?」
「問題ない。それより重大な案件が発生している以上は、な」
「やっぱり、あの連中の?」
 所長は頷く。それも当然のことだと思えた。
 帝都の街中で起きた殺人事件。しかも被害者は軍部の人間で、加害者は人間でさえない化物ともなれば、大騒ぎになるのは必然だ。王家は情報を隠そうとしたらしいけど、昼間にあれだけ大きな事件が起きれば、隠しきるのは不可能だ。
 今も帝都ではその話題で持ちきりだ。大混乱の帝都では、小さな犯罪も増えてきていると聞いた。
 それらの全てに、先輩が関係している。先輩が火種になっている。
「――くそっ」
 オレには先輩が何を考えているのか、それがわからない。
 所長から、獣という存在については聞いた。ウェアというらしい、あの連中の生い立ちには同情する余地がある。だけど、先輩が人間すべてを敵にしてまで、連中の味方をする必要があるか!?
「その様子だと、まだエリアの選択に納得していないようだな」
「……納得なんて、できるはずありません」
 せめて、相談くらいはして欲しかった。オレは頼りない後輩かもしれないけど、先輩の力にはなりたい。
 なのに、先輩はオレに相談することもなく、ひとりで勝手に行ってしまった。オレたちの敵となってしまった。
「所長。なんで先輩は、あんな連中に?」
「前にも説明しただろう。それが彼女の選択だ」
「選択なんて言葉で納得できるはずないでしょう」
「それで納得してもらうしかない。お前の感情にも、な」
「ッ――!」
 所長の顔を見ていられなかった。思わず、そむけてしまう。視界にいつもの木が入った。
「セロン。ベストが何かはやってみなければわからない。要するに良いとか悪いというのは結果論だ。我々は、今、できることをすればいい」
「そんなの、わかってます」
 ただ、心が納得しないだけで。
 頭は、理解しているんだ。
「そういえば、王城から依頼がきていてな。セロン、お前も参加してみるか」
「王城ですか?」
 王様といえば、以前に会ったことがある。ギルフォード、っていったか。
「いや……、参加した方がいいだろう、後悔しないためにも」
「どういう依頼、なんですか」
「護衛依頼だ」
 そう言った直後、所長は口元に苦笑を浮かべた。
「いや、最後の挑戦権をもらった、と言うべきか」
「……?」
 所長が何を言いたいのか、よくわからなかった。ただ、なんとなくわかる。
 ここで参加しなければ、きっとオレは死ぬまで後悔するような出来事が起こるんだろう、と。
「わかりました、やらせて下さい」
 オレはこの目で見届けてやる。
 決着、ってやつを。



 
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