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「なら、そちらは私が」 アルトの方にミントが向かう。ヴィンのカバーだ。わたしは、どちらに攻め込むとも決めかねていた。そうこうしている内に、軍人が動きだす。 「やろうぜ、狼!」 まっすぐ、軍人はヴィンに斬りかかった。かろうじてヴィンの剣が間に合い、その攻撃を受け止める。 「てめえに逢いたくて逢いたくて仕方なかった! お前を、殺したくてさ!!」 「悪いけどよ、お前、誰だ」 「ッ!!」 今の一言が兵士の沸点を飛び越した。それがはたから見ていてもわかった。 兵士は流麗とさえいえる剣舞で襲い掛かる。それらを受け、かわし、流す。あまりに早い、下手をすれば、ううん、確実にアルトよりも。 この兵士、強い。ヴィンセントはうちの最大戦力ではないとはいえ、最古参の戦士だ。戦いの経験だけなら随一。その彼のさばきに、ついていっている。かなりの身体能力、そして、圧倒的なまでの才能。 「悪いけどよ、今日はお前みたいのに構ってやる暇はないんだが」 「お前がそうだろうと、こっちにゃ用事があるんだよォ!!」 ますますヒートアップした兵士の攻撃。苛烈さを増した中で、むしろヴィンセントは喜んでいるように見えた。 「んじゃ、死ね」 それから先の動きは、普段のわたしの目では捉えられなかっただろう。 兵士は踏み込み、力任せとも見える横なぎの斬撃を繰り出す。 対するヴィンセントは合わせるように体を沈め、真下から剣を弾くと同時、一瞬の間隙を利用して構えを変えた。レイピアで突撃する直前のような、突きの構え。 すばやい一撃が来ると判断したのか、兵士は体を横にすべりこませる。瞬間、ヴィンセントが笑った気がした。 「伸びろ!!」 突き込む動作。連動し、手に握る剣がその形を変える! 握りはより長く。刀身はより短く。ヴィンが突く速さと同じくして、あるいはそれ以上に早く、剣は槍へと姿を変える。 「!」 その挙動は予想のしようもない攻撃だった。紙一重で伸びきった槍撃をかわすも、体の向きが一挙に崩れる。そこを狙い、ヴィンの追撃! 「落ちろ!」 続け、槍の穂先が膨れ上がった。違う、先端が大きな鉄塊に変わったんだ。 体勢を崩した兵士に、重量級の一撃はこらえきれない。剣を合わせることには成功するも、力の入っていない一撃ではとても防ぎきれず、そのまま地面に叩きつけられた。腕がひしゃげ、ありえない方向に曲がる。 「がッ――!」 「容赦はなしだ」 ころがった兵士を蹴り飛ばし、ヴィンセントは武器を槍に変える。無防備な足に切っ先を向け、突く。 「ッ!」 ひどい痛みだろう。それを堪え、軍人は転がってヴィンの攻撃をかわす。跳び上がり、剣を片手で構え直した。 「そうこなくっちゃなぁ」 「んだよ、いい加減にしろよ……」 攻め側も優位に立っているのもヴィンセントだ。なのに、彼はちっとも油断していない。それどころか、警戒さえ解いていない。それはここが敵地であるということ以上に――。 「なんで、マナを使わないの?」 不思議だった。わたしはゼロのマナを持っていないから、マナを無力化することができない上、無効化できる仲間が一緒にいると、今度はわたしが戦力として成立しなくなる。だから、ヴィンやガルシアといった最大級の戦力が、わざわざ護衛についていた。 要するに、わたしたちはマナを無効化できないのだ。それは、向こうもわかりきっているだろう。なのにマナを使おうとしないのは、よほどの余裕か、それ以外の理由か。 そういえば、あった。そんな理由を必要とするマナも。 片腕から流れる血液を振り払い、軍人はくつくつと笑う。 「ふふ、はは、一撃でやれなくてざあんねんだったなぁ?」 「んじゃあ次でトドメにしてやるよ」 「それは無理だぜ。お前は、俺を、傷つけたんだからな!!」 トクン―― 感じる。あいつのマナだ。 軍隊でさえ使わない、忘れ去られたマナ。 「ヴィン! そいつは苦痛持ちよ!!」 「ラース――?」 「遅い!」 軍人が飛び出した、ということは、遅れて理解した。 「っぅ……!」 かろうじて、本当にかろうじてヴィンの槍が剣を防いでいた。紙一重だ。 「いい反応だ。んじゃあ、次はどうだ!」 軍人の姿がブレる。加速ではないのに、加速しているほどの勢いでヴィンの背後にまわる。 「!」 剣に持ちかえ受け止めるけど、体の向きが悪い。受け止めきれない! 「ぬお!?」 体ごと弾かれ、ヴィンの体が壁に激突する。追撃する軍人に、狼は吠えた。 「舐めんなッ! 落ちやがれ!」 振り下ろす刃が斧に変化する。対する軍人、腕が閃き、横から剣を叩きつける! 攻撃が流され、懐に踏み込まれる。軍人の斬撃。ヴィンの体から血が吹き出た。 「ちょろちょろ、しやがって……!」 ヴィンセントは右腕で斬撃を受け止めていた。言葉通り、腕で剣を押さえこんでいる。きっと、骨で攻撃を受け止め、筋肉で刃を押さえたんだろう。 「逃がさねえ!」 握り込んだ拳が軍人の体を弾く。腕に刺さったままの剣は抜けず、ヴィンセントの腕にぶら下がっていた。 「そうこなくっちゃな……」 口元の血を拭い、軍人が起き上がる。そのタイミングを狙い、 「悪いけど」 わたしは飛び込んだ。 軍人の瞳がちらりとわたしを捉える。わたしの剣、その軌道まで彼には見えていたことだろう。 余裕の笑みが浮かんでいる。わたしの剣をあえてギリギリになるようにかわし、たったひとつだけの腕を振り上げ、 「ッ!」 衝撃。思い切り壁に叩きつけられた。全身が痛み、じんじんと響く。それでも目だけは軍人から離さなかった。 わたしが突撃した瞬間を、ヴィンセントも見逃してはいなかった。痛むだろう右腕にレイチェルの剣を、左腕に軍人の剣を握り、突っ込む。 「そォらァ!!」 軍人は武器を奪われ、逃げるしかなかった。左の斬撃をうまくかわし、逃げの一手。続けざまにヴィンは右の剣を振るい、 「追え!」 切っ先が伸びた。細く、代わりに恐ろしいほど長く! 「なっ!?」 そう、あの武器は、剣・槍・斧と変化する武器、ではない。ヴィンセントのイメージに従ってその姿形を変化させる、まさに千変万化の武器。 変化できる形は三種類どころか無数にあり、言葉も別段、必要とされるわけじゃない。言葉を使ったのも、三種類しか使わなかったのも、単なる引っ掛け! 「う、おおおおおおおおお!!」 鉄の鞭となったヴィンセントの武器は、軍人の体を絡め取る。引き寄せ、ヴィンの拳が軍人の体を捉える! 「ぐ、う!」 鞭に体を縛られているせいで、軍人は逃げることも受けることも叶わず、直撃を喰らった。けど、ヴィンセントはそこで終えない。 「っだまだァ!!」 床に叩きつけ、武器を槍状に変えて突き刺す。紙一重で急所はかわされた。さらに連続で突き込む! 猛ラッシュだ。きっと、ヴィンセントにもわかっている。 ラースが恐ろしいのは、ダメージを半端に与えた後のことだ。蓄積したダメージは、そのまま彼の力になってしまう。 今、ヴィンセントはあいつに対してダメージを与えてしまった。しかも殺すには至っていない。 きっと、ここで殺しきれなければ、相手はますますスピードもパワーも強化される。さっきの時点でも互角に近かった。今度は、どうなるのか予想ができない。 だからこそ、ここで殺さなきゃいけない。トドメを刺す以外、道はないんだ。 「っさねええ!!」 とうとうヴィンセントの操る槍が軍人の片足を斬り飛ばすことに成功した。いかなパワーアップをしようとも、片足では限界が――。 「あめえぜ!!」 「!?」 残った足だけで、軍人は飛び込んだ。まさに体を武器とせん勢い。たまらずヴィンセントは壁に激突、分厚いはずの壁面がひび割れる。 「一緒に! 死のうぜ! 狼よう!!」 「死ぬんなら、テメエだけで……、死にやがれ!」 握った剣が閃いた。 軍人の首がはねられる。ようやく力を失った体を、ヴィンセントは蹴飛ばして転がした。 「ったく、しつけえんだ……。クソが」 吐き捨てたヴィンセントもまた、直後に倒れた。 |