正直、まずいかなってちょっと思った。
「まあ、仕方ねえよなぁ。他の連中ならともかく、エリアだもんな」
「誰に言い訳してるのですか?」
「ぬおっ!?」
 バクバクと跳ねる心臓を抑えつつ窓を見る。そこに、鳥とも人ともつかない存在がいた。
 人の腕があるはずの場所には翼が生え、人の足があるはずの場所には鳥のそれがある。けれど顔は人の顔で。
 まっとうな人間が見れば、それは化物以外の何物でもないだろう。
「なんだ、お前か……。おい、ミント。お前、こんなところに普通に来ていいのか?」
「……? 何か問題でしょうか」
 ミントは部屋の中に入ると、器用に窓を閉めた。板の間は爪でつかむ場所がなく、ミントは少し嫌そうにしている。
「何かって、お前は普通に街中で見られていい姿じゃないだろうが。いくら夜だからって、そうそう街に入ってこられちゃ困る。ましてや、俺の隠れ家になんて!」
「誰も見ていませんでしたから」
「見られたらどうするんだって言ってんだよ! ……ったく、次からは気をつけろよ。んで、何の用だ」
「なんでしたっけ」
「危険を冒しておいてその言い草か!?」
「そうでした、忘れるといけないのでメモしておいたのでした」
「用意がいいこったよ……。クロスあたりだな、そういうことすんのは」
「ところでメモをどこにしまったかご存じですか?」
「俺にどうしろと!?」
「そうでした、どうせ失くすだろうとクロスさんがポーチに入れてくれたのでした」
 ミントはちょんちょんと腰のポーチを指す。俺に出せってことなんだろう。なにせミントは手がないから、この手のものを開閉させることができない。
「手がかかるな、お前は」
「失礼な。私は長ですよ?」
「お前なんかに長になられているウイング共は不幸そのものだよ」
「そう?」
 ミントは本当に不思議そうな顔をしている。いや、実際にウイングってのはこんな連中ばっかだし、不幸とか考えてもいないのだろう。
 実際、連中は今回の呼びかけにも消極的というか、あまり興味を持ってくれなかった。それでも応じたのは血気盛んな若い連中が賛同したからだ。だから、ミントもあまり深くは考えて参加してくれているわけじゃない。
 ミントがおとなしくしている間に、ポーチごと外す。中を改めると、なるほど、手紙が入っていた。
 開いてみる。クセの強い字。クロスのものだ。
「ふむ……」
 定期報告と、定期ではない報告。
 前者は問題ない。だが、後者は少しばかり厄介だ。
「“悪魔”が出やがった、か」
 悪魔。化物。敵。
 多くの呼び名を持つ存在なれど、その意味は変わらない。すなわち、生きとし生ける者の敵、ということだ。
「わかった、ミント。ありがとうな、助かる」
「問題ありません。私もリュートに会いたかったですし」
「んだよ、まだ何か用か?」
「用はありません。ただ会いたかっただけです。私はリュートが好きですから」
「ぶっ!?」
 やべえ。何がやべえって色々とやべえ。
「……ミント。それは人前では言わないようにな」
「どうして?」
「どうしてでも!」
 んー、と考え込んだミントはしばしボーっとし、
「わかりました」
「何をわかったんだ」
「なんだっけ」
「……もういい。ちょっと待ってろ、クロスに返事を書くから」
「わかりました」
 素直に頷き、ミントは部屋の隅に座る。
 俺は紙を探しながら、頭の片隅に思う。
 ――手一杯、だな。



 
戻る