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その日。久しぶりに、全員が顔をそろえる会議となった。 クロスからは諸外国の反応への対応。ガルシアからは帝都の復興状況。ヴィンセントからは兵士たちや一般的な人間の状況。 その他、それぞれが担当している件に対する報告なんかが行われる。諸外国を除けば、大抵のことは少しずつ前に進んでいるようだった。少しだけ安心した。 そういったもろもろの報告が終わったところで、それぞれが抱える重要案件について相談が行われる。 物資不足。それに伴う不満。現状への不平。 わたしたちは支配する側になった。そうなった以上、こちらから何かをしなければならない。 妙案が思いつくような案件は少ない。ベストがすぐに出せる問題ではなく、当面はベターな対応を強いられる問題ばかり。 現実はそういうものだと思う。この前の戦争みたいに、王様を殺せばそれでおしまい、なんて簡単な問題はない。 生きるって難しい。簡単で簡潔な答えが出る問題なんか現実にはない。 複雑で、困難で、苦しい想いを抱えながら、それでもなんとか結論を出していくしかないんだ。 あらかた話が出尽くしたところで、クロスはわたしに水を向けた。 「エリア、何か意見は?」 これは、反乱軍時代からの儀式的なものだ。わたしは政治に詳しいわけじゃないし、ウェアの事情に精通しているわけでもない。おかざりの頭なんだから、意見もおかざりでしかない。 だけど、今日だけはちゃんと聞いてもらわなきゃいけなかった。 「んーと、選挙やろう。選挙」 「……なんだって?」 わたしの言葉に、全員がきょとんとしている。馴染みのない言葉だからだろう。 「だから、わたしみたいな飾りだけの頭じゃなくて、ちゃんとみんなの意見を聞いて、みんなの代表を選ぼうっての」 「国王を、王族以外から選ぶようなもの……、ってわけ?」 「さすがレイチェル、話がわかるわね」 しーん、と静まり返ったと思った次の瞬間、わっと場が沸いた。 「何を考えてんだ!?」 「いくら王様やりたくねえからってそりゃないだろう!」 「貴様、正気か!?」 「あんたら、普通に失礼よね……」 まあまあ、と皆を制し、 「そうでなく。そういうのが、これからは必要になるんじゃないかなー、って」 「単なる思いつき……、というわけではないのだな?」 「もちろん。だいたいね、誰か一人が最善を考えるって無理があると思うのよ。今だって、こうしてみんなで顔を突き合わせて、相談に相談を重ねているじゃない?」 「それは、確かにその通りだが」 「ん。今でも、コウモリ、獣、トカゲ、鳥って、たくさんの人種が揃っている。それに加えて、これからは人間とも交流していくことになると思うのよね」 「――人間を許せって言いたいのか?」 剣呑な空気が漂う。ウェアの中には、安全で平和を独り占めしていた人間に対して不満を抱いている人も多い。そういう人は、たとえこうして奪ったとしても、そうそう許せるものじゃないんだろう。 でも。 「許さなきゃいけない。手打ちよ、これで」 「バカな! 我々がどれだけ苦難を強いられていたと思っているんだ! それを、ただの一度だけで許せだと!? ふざけているにも程がある!」 「ふざけてないよー、本気。じゃあ、いつまで憎しみあっていればいいわけ? 人間を絶滅させるまで?」 「……ッ」 反抗していたウェアが押し黙る。きっとウェアの中では若い部類なんだろう。ミントたちのような老練の部類は、ここまで反抗しない。 「いきなり先制パンチかましといてアレだけど、人間とウェアは遠い未来、共存するような日が来ると思うのよ。その時のため、みんなの意見を聞く人が必要なんだと思う。できれば、そういう人がリーダーになった方が理想的じゃない?」 「だから、国王を王族以外から選ぼう、と」 「そう。やりたいって人を集めてさ、話とかさせて、それをみんなで聞いてね。で、その中で一番って思った人を支持するの。支持者が多かった人がリーダーになる」 「多数決か。だが、それは少数の意見を抹殺するという意味だぞ」 「王様なんか少数無視どころの話じゃないでしょ。だからウェアなんて存在が生まれてしまった」 コウモリという社会的弱者。それを利用した王族。 「いつだって、数が少ない人が虐げられてしまう。どんなルールを作ってもそうよ。全体を守るためだもの、少数を優先するわけにはいかない。 でも、せめて自分の意見を言えればさ。反乱軍ほどの不満はたまらないような、そんな気がするの」 何を言うこともできなかった。何をすることもできなかった。 だから、苦しい。 不平不満を発散させる場所が必要なんだ。常に、どこかに。選挙というシステムが、戦争の代わりになれば……、それが、平和で理想ではないのか、と。 わたしはみんなの意見を聞いた。でも、あんなんじゃ足りないってことも感じた。もっと広く意見を募る方法を考えて、それがベターではないか、と思えたのだ。 「だ、だが……。無理が多すぎるぞ。第一、ウェアが認めようとも、人間たちはウェアの存在を認めないだろう」 「それについては落とし所をちゃんと考えてるわよ」 「どういう意味だ?」 わたしは自分を指差し、 「ウェアのリーダーはわたし。でもって、ギルフォードを殺したのもわたし。ほら、完璧」 「――まさか」 「わたしを人身御供にするの。そうすれば、ウェア全体は守れるでしょ? うまいこと誤魔化すのはクロスに任せるわね。外国への連絡はレイチェルの名前でやるのがベストかな?」 「あんた何考えてんの!?」 「クロス、冷静に冷静に」 とうとうクロスは頭を抱えてしまった。ありゃ、そんな変なことを言ったかな? 「エリア。君の感性が独特であることは重々承知しているつもりだったが」 「その時点で初耳なんですけど」 「それは、いくらなんでもできない。君を犠牲にしろ、と言うのであろう?」 「はっは、まあ、見方によってはそうなるかねえ」 「君が言ったのであろう? 犠牲を出したくないと」 「見方によっては、って言ったでしょ?」 わたしは片目をつぶってみせた。 「このわたしが、ただ単純に犠牲になるわけないじゃない?」 「む……」 ひとしきりの騒ぎが収まり、みんながそれぞれに、わたしの話について考え始める。 なにもこの場で総決を出す必要はないし、そもそも出ないだろう。他国に対する応じ方とか、新しいリーダーの選出方法とか。そういうのは、ここですぐさま決められるものじゃない。 それに、わたしもすぐに答えを出して欲しくない。 みんなが考えて、よくよく考えて、悩んだ上で結論を出すべきだ。わたしが考えた方法は、そういう風に、みんなが頭を使わなきゃ成立しない方法でもある。 それぞれに最高を考えてもらう。そのための手法だ。 「あー、ひとつ、いい?」 レイチェルが立ち上がる。彼女の意見はまだ聞いていなかった。わたしが頷くと、レイチェルはつかつかと歩み寄り、 「死ねっ」 「ごふっ」 問答無用だった。普通に痛いんですけど、って!? 「ちょ、待てー!?」 「誰が待つか何が犠牲だあんたのその腐った脳みそを叩き直してくれるわッ!!」 「レイチェル、押さえろ! そいつバカだけどリーダーだから! 頭だから!」 「バカだけどとか言ったの誰だ!?」 「ええい、何をしているんだ! さっさと取り押さえろ!!」 ドタバタと騒ぐ中、少しだけ安心した。 ここは居心地がいい。だから、ここを守るためなら、安心して自分を使うことができる。 それなら、間違っていないよね。リュート。 |