それは、言われるまでもなくわかった。遠くから、ずしん、ずしんという地鳴りのような音が聞こえてくる。しかも、それは段々と近づいてきていた。 「あっち!」 リナを先頭に、三人は駆け出した。角を曲がったところで、敵の姿も見えた。 「ってぇ、何アレ!?」 住宅街の道路すら窮屈そうに歩くのは、巨大な土のカタマリ。一応は人の形をしているが、首がないせいか、どこかおかしかった。 そして。その上に、四人の男女が乗っていた。 四人とも、中学生か高校生か、といった年頃。それぞれ、違う学校の制服を着ていた。特徴もバラバラで、共通点があるようには見えない。 「あー、あれが俺らを殺そうっていう、なんたらの人?」 長身の男が言えば、 「正義の使者ってか? 面白くねーな」 太い体を持つ男が答える。 「いいじゃん、別に。やっちゃえばそれでいいんでしょ?」 現代風の女の子があっさりと言うと、 「おっけー。じゃ、行くよ!」 メガネをかけた男子が応じた。 ずしん、と地面を揺らし、巨体が歩く。 「そーれ!」 メガネ男子が手を動かすのと連動し、巨体も手を振り上げる。 「散って!」 リナは叫ぶのと同時、大きくジャンプして塀の上に登った。シルヴィアも同じようにジャンプし、そこまでの運動能力のないメイは、大きく後ろに下がる。 その直後、三人の立っていた場所に、拳が突き刺さった。重苦しい音と共に、コンクリートの道路が割れる。 「あー、外れたー。もっとちゃんと狙いなさいよー」 「無理だよ。ここまで大きい体だと、そんなに細かいコントロールなんて効かないし」 「そいつはしゃーねーな。ま、気楽に行こうぜ。俺らが負けるわけねーんだからよ」 巨体の上では、それぞれに勝手な意見を言い合っている。 「なめてるわねぇ……。こんなにでっかい体があったって、本人がやられれば同じことなんだから!」 さらに跳躍し、リナは両手を合わせる。そして、生み出された炎の矢を、一気に少年たちに向かって放った。 「おいおい、来たぜ!」 「はいはい、ウチに任せときなさいって!」 女の子が両手を空にかかげる。と、強風が炎を吹き散らした。 「風の壁、というわけですわね。なら、わたくしの一撃はどうかわしますの!?」 リナと時間差で飛んだシルヴィアは、空間を握る。そのまま、現われた巨大な光のハンマーを、土人形の上にいる少年たちに向かって振り下ろした。 「今度は一緒に行くぞ!」 「あいよ!」 太めの少年と現代風の少女が、同時に動いた。太めの少年が何かを投げる。それは少女が生み出した風に乗り、爆発的な速度でハンマーに激突した。 「そーれ、爆発!」 途端、光のハンマーは爆発した。爆風に吹き飛ばされるシルヴィアを、リナが受け止める。 「メイ、今だよ!」 「わかってる!」 リナとシルヴィアの後方。T字路の中心に立っていたメイは、振り上げていた腕を下ろした。 空気すら揺れたような感覚を残し、生まれた氷のカタマリは、まるで龍のような形となって土人形に襲いかかる。ガード役であろうふたりは、シルヴィアに攻撃したせいで動けない。 氷龍が、土人形の片腕をかみ砕いた。 「よっし!」 「甘いぜ!」 ガッツポーズするリナに、長身の少年はにたりと笑みを見せた。少年は両手で、まるで祈るように手を組む。 すると、氷龍に砕かれた土、さらには今の攻防で砕けたコンクリートの壁すら巻き込み、腕が再生された。止める暇もないほどの、圧倒的な早業だ。 「って、あんなのズルイ!」 「嫌な相手ですわね。ひとりが遠距離攻撃、ひとりが防御、ひとりが土人形の製作と制御。そして、最後のひとりが動作。四人がそれぞれに役割をきちんと分担していて、しかも的確ですわ」 それぞれの能力は、決して強力なものではない。単体なら、リナたちであれば苦労せずに倒せる程度の相手だ。 だが、互いに能力を助け合い、協力することで、小さな力を何倍にも高めている。 「間違いなく、強敵ですわね。何か策を練らない限り、無闇に攻撃しても疲れるだけですわ」 「まずは土人形をなんとかすること……。それには動かせないほどに壊して、同時に、すぐに再生できない状況を作らないといけない?」 小声でぶつぶつとつぶやきながら、メイは頭を働かせる。その間にも近づく相手に対し、リナたちは後退せざるをえない。 「――ねえ、この近くにプールとかないかな?」 「リナ、時間を稼いでくださいまし」 「わかった」 メイが考え、シルヴィアがそのサポートをする間、リナは土人形との距離を詰める。 「ほらほら、こっちこっち!」 炎の矢を人形に向かって撃つ。だが、土やらコンクリートやらで作られた肉体には、そんな攻撃は通じない。 「逃がすもんか! それ!」 太めの少年が何かを投げた。リナは、投げられた物体が何かを見極める。 「あれ、は……パチンコ玉!」 おもちゃではない、本物のパチンコに使われる玉だ。リナが炎で撃ち落とすと、それは爆発した。 「空気を操って風を起こす能力者、パチンコ玉を爆発させる能力者、土の人形を作り出す能力者に、それを操る能力者――?」 相手の能力がわかっても、これだけそろうと打開策は見つけにくい。 「でも、シルヴィアもメイもあたしを信頼してくれているんだもんね……。こんなところで、負けるわけにもいかないっての!」 炎の矢を乱発しながら、リナは適当な距離を置きつつかわす。 土人形の腕が壁を壊し、道路を砕く。空は炎が飛びかう、その光景。それは、現実離れした美しさのようなものがあった。 「それ!」 四本の矢が、空からまっすぐに落ちて四人を狙う。 「だから通じないっつってるでしょ!」 それを、少女が風で吹き散らす。その瞬間を狙い、リナは能力を発動させた。 「これならどーだ!」 「ヤバイ! 時間差だ!」 誰かが叫んだ。 少女は慌てて上を向き、その時にはすでに、炎が迫っていた。 「させるか!」 長身の少年が動いた。少年が手を振り上げると、土人形の背中からトゲのようなカタマリが飛び出し、矢を弾き飛ばした。 「ちぇ、これもダメか」 「リナ!」 迷うリナに、シルヴィアの声が届いた。すぐさま後退し、シルヴィアと肩を並べる。 「メイが作戦を決めましたわ。わたくしとリナで誘導、できれば挑発も。メイは先回りしますわ」 「了解。場所は?」 「中学校ですわ。家を三件くらい飛び越えた先ですわよ?」 ふっと笑い、リナはうなずいた。 「じゃあ、それで!」 矢で攻撃しながら、しかし本人は通りを逃げ出す。シルヴィアも同じ方向に、メイは氷で道を作り、住宅の敷地に飛び込んだ。 「逃げたわよ!」 「おっし、追え追え! まずは通りを走ってるふたりからだな!」 「あの弱っちそうなふたりだね! おっけー!」 少年たちの話し声が聞こえる。それに、重苦しい土人形の走る音が続いた。 「勝手を言ってますわね」 「すぐに泣かせてやるんだから!」 たまに炎や光での攻撃を繰り出しながら、ふたりは学校に向かって走る。 「おっそいわねー! そんな体だからバカにされるのよ、デブ!」 「ってめぇ! なめたこと言ってんじゃねーぞコラァ!」 デブ、の言葉に、パチンコ玉の使い手が反応する。仲間であるはずのふたりも、くすくすと笑っていた。 「そちらの女性も。ちょっと男性の趣味が悪いですわね? それとも、あまりに男性に縁がなくて適当に手を出すことにしたんですの?」 「ちょっと、人聞きの悪いことを言わないでよ! こんなの、ウチの趣味じゃないもん!」 「って、そりゃどういう意味だよオイ!」 「ちょ、暴れるなよ! 走りにづらくなるだろ!」 どうやら、にわか仕込みらしい連携も、徐々に崩れてきた。リナとシルヴィアは軽く顔を見合わせ、くすりと笑みをもらす余裕さえあった。 「ここですわ!」 到着した公立の中学校の門は閉まっていた。それを軽く飛び越し、ふたりは敷地の中に侵入を果たした。 ここが、彼女たちの選んだ、決戦の地。 |