リナは部屋に戻ると、シルヴィアに相談した。シルヴィアは部屋で報告書を書いていたが、リナの話を聞いて、その手が止まった。
「森に、ヒントがあるんですの?」
「わからない。でも、ラルスの言葉を考えても、森には何かあるんだと思う」
「なら、決まりですわね」
 シルヴィアはイスから立ち上がり、うーんと背を伸ばした。
「出発はいつにしますの? 明日、ではちょっと難しいですわね。なら、来週くらいがいいかしら?」
「って、シルヴィア。あたしの話、ちゃんと聞いてた?」
「聞いていましたわよ。だから、森に行くんでしょう?」
 リナは答えなかった。じっとシルヴィアを見返す。彼女の目は、本気だった。
「ラルス様も甘いですわね。あなたがそれだけの事実を知って、何もしないわけがありませんわ。
 わたくしの知っているリナ=ミサキは、何かを知ったら立ち止まらずに走り抜ける、何かがわからなければ知りに行く、そういう人ですわ。
 そんな無茶ばかりする女の子だから、つい、心配になってしまいますのよ」
 言って、シルヴィアはそっと笑った。
 リナは何も言わず、いきなりシルヴィアを抱きしめた。
「シルヴィア、やっぱあたし、シルヴィアが大好き」
「わたくしはレズではありませんわよ?」
 言いながらも、シルヴィアはリナの頭を優しくなでた。
 ふたりの答えは、もう決まっていた。

 告白スポットでもある、学園の南にある花畑を、リナたちは歩いていた。背中にはリュックサック。中には、食料や、他に必要と思われるものなどが入っている。
「シルヴィア。何があると思う?」
「わかりませんわ。メイにも予想できなかったんですもの、わたくしにできるはずがありませんわ」
 リナとシルヴィアは、並んで歩く。そして、その後ろ。
「こうしていると、ピクニックみたいなんだけどねー」
「ティノ。遊びじゃないんだから、真面目にやってね」
「わかってるよ、リンダ。ぼくだって、たまには真面目になる」
「ほんとーに、たまにね」
 ティノとリンダが、その小さな頭を揺らしていた。
 彼らに相談しようと言ったのは、シルヴィアだった。リナとシルヴィアだけでは力が足りないと判断して。
 リンダは危ないと反対したが、ティノは乗り気になった。彼も、学園に対して何か、反抗心のようなものを持っていたらしい。
 そして、最終的には、リンダも賛成するしかなかった。
 花畑も突き抜けると、草原が続く。さらに歩き続けると、とうとう見えてきた。
「あれが、森だね」
 視界を全て埋めるほどの、広大な森。それが、目の前に広がっていた。
「……あれ? 誰かがいる」
 と、リナは森の入り口のところに目をこらした。近づくにつれ、その人影はハッキリとしてきた。
「あれ、ラルスじゃないか?」
「そう、ね。でも、なんでラルスがここに?」
「そんなの、言うまでもないような気がしますわ」
 四人が寄ると、ラルスは口元に笑みを浮かべた。
「よかった。シカトされたらどうしようかと思ってた」
「あたしはちょっとだけ、したかった」
「偶然ですわね、リナ。わたくしもそうですわ」
 女の子ふたりに、そろってにらまれ、ラルスは肩をすくめた。
「やっぱり森に行くんだね。まさか、教員まで連れて来るとは思わなかったけど。ま、待っていてよかったよ」
「待っていたって、まさか、あんたも一緒に来るつもり?」
「当然だろ」
 うなずくラルスに、リナは頭を抱えた。
「あんたねー、ここが危ないって言ったの、あんたじゃないの。なのに、なんで来るわけ?」
 んー、と考えるように腕を組み、ラルスは答えた。
「そうだなぁ。あえて言うなら、心配だからってことになるけど」
「嘘くさいわね」
 リナは、ずいとラルスに顔を寄せた。
「あんたがあたしらを心配する理由なんてないじゃないの。それが、どうしてそういうセリフに続くわけ?」
「だってそれ以外に説明できないし」
 リナとラルスは、しばし火花すら散らす勢いでにらみ合った。リンダがふたりの間に割って入るまで、にらみ合いは続いた。
「リナちゃん。にらめっこをしに来たわけじゃないでしょ」
「そうだねー。ラルスは嘘はついてないと思うしね」
 リナはティノに視線を移し、聞いた。
「どこをどういう風に理解したらそうなったの?」
「ぼくのカン」
 ますます頭を抱えそうになるリナに、リンダも言った。
「ねえ、リナ。連れてってあげようよ。困ることはないでしょ?」
「そりゃ、まあ、力があるってのは認めるけど」
 リナはちらりとシルヴィアを見た。彼女がうなずくのを見て、リナは深くため息をついた。
「仕方ないわね。ここまで来たんじゃ帰れとも言いにくいし。いいわよ、一緒に来なさいよ。ただし、自分の身は自分で守ってよ」
「リナ。それを言うと、おそらくは後で墓穴ぼけつになりますわよ」
 ラルスはへらへらと笑い、りょーかい、と言った。

 森の中は、木々のせいで光も入ってこない。薄暗く、誰の手も入っていないせいで道らしきものもない。仕方なく、シルヴィアの『光撃こうげき』で強引に道を作りながら進まざるをえなかった。バキバキと、木々がなぎ倒されていく。
「ラルス。ラルスは前に入ったことがあるんだろ? それが、どうして奥まで入れなかったんだ?」
 枝を払いのけながら、ティノは聞く。
「もうちょっと行くと、化物の巣窟そうくつさ」
 ラルスは余計な枝を折りながら進んだ。
「化物? どういうことですの?」
「そのまんま。奇形児きけいじって言葉が近いかな。でも、やっぱり化物ってのが近いよ」
「えーと、つまり、何?」
 問い返すリナに、ラルスは言った。
「来るよ、構えて」
 先頭を歩くシルヴィアも、武器を構えて立ち止まっていた。リナも両手を合わせ、いつでも攻撃できる態勢を整える。
 ガサリ、と音がした直後。木々と雑草の間から、それは現われた。
 それは、頭だけを巨大化させたブタのような生き物。それが、三匹そろって飛び出してきた。
 リナは炎でブタを撃ち抜き、シルヴィアはハンマーで打ち返す。ラルスはパンチで軽く倒してしまった。
「これが、化物?」
 リンダは恐々こわごわと倒れたブタをのぞきこんだ。
「これも、だね。オレが見ただけでも十種類は軽く越えてた。たぶん、いくつかの種類が適当に混じっているんだ。だから、個々に特徴が大きく違う」
「でも、こんな生物は見たことがない。まあ、化物と言っても間違いじゃないね」
 ティノはブタを調べるようにしゃがみこむ。リナは腰に手をあて、ラルスに聞いた。
「ラルス。どうしてこんなのがいるわけ? ってか、これ、何?」
「それはオレも知らない。ただ、まるで人為的じんいてきに改造されたようには見えるね」
 リナはティノに視線を移した。しばらく調べていたティノは、やがて立ち上がり、全員の顔を見渡しながら言った。
「ぼくも生物学者ってわけじゃないからなんとも言いにくいけど、そんな気がするよ。メスか何かを入れた痕跡こんせきでもあれば、わかるんだけど」
「となると、この先もどんな相手が出てくるのか予想しにくい、というわけですわね」
「そうなる。こりゃ、かなりの覚悟が――」
 ティノは、最後まで言う余裕がなかった。背後から、黒い影が飛び出す。影がティノに襲いかかる直前、ティノは瞬間移動でリナの横に逃げた。
「今度はオオカミ、いや、犬? どっちでもいいや、逃げるよ!」
 ティノはリナの手をつかみ、瞬間移動。全員を連れたところで、一気に姿を消した。
 残された犬とオオカミの中間のような動物は、くんくんとニオイをかぎ、ブタを食べ始めた。