「いや〜! 助かったわ、おなか空いちゃって動けなくなっちゃって!」
 元気に干し肉をかじる女。先ほどまで行き倒れていたとは思えない元気さだ。
 背はアディーたち三人の誰よりも高く、起伏のはっきりした体つきをしている。そばには武器であろう、魚のヒレのような、少し変わった形状の剣があった。他にも大きめの冒険バッグがあり、脇にはシンプルな鉄板状の盾がくくってある。
「ひとりで探索していたんですか?」
 チーム内で唯一コミュ力を有するルベルが問いかける。女はニコニコ笑いながら、
「ええ。ソロで冒険していたんだけど、道を間違えているうちに食料が尽きちゃって。この洞窟、魔獣も少ないんだもの」
「魔獣?」
「そうよ? 魔獣さえいれば、狩って食べられたんだけどね」
「魔獣を……食べる?」
 ルベルは仲間を振り返る。二人は頷き、
「魔力の弱い魔獣ならそのまま食べることもできるし、そういう料理は昔からある」
「10年くらい前でしょうか。魔獣から魔力を抜く料理法が見つかったとかで、今は強い魔獣も料理する人が一定数います」
「そういうこと。ちなみに、その料理法を見つけたのがわたしよ」
「えっ!? すごい!」
 ふふん、と女は豊かな胸を張る。
「自己紹介が遅れたわね。わたしはエメル・ソウ。料理人よ」
「料理人って、お料理する人ってことですか?」
「もちろん。料理人でも冒険して、自分で食材を入手する人はいるのよ」
「それはそうでしょうけど……。でも、おひとりですか?」
「ええ、まあ。ちょっと都合があってね。この洞窟は珍しい食材が手に入りそうってことで来てみたんだけど、ぜんぜんね。美味しそうな食材もなくはないんだけど……」
 そうだ、とエメルは手を叩き、
「あなたたち、中層に来るくらいなんだから、それなりに戦えるのよね? 少し手伝って貰えないかしら」
 そう言った。

☆   ☆   ☆   ☆


 洞窟を少し進むと、それなりに開けた空間に出た。
 空間はいくつかのステージが高さ違いに並んでおり、さながら雛壇のようだ。そんなステージのひとつに、大きな影があった。
「あれ。ここで見つけた魔獣なんだけれど、ひとりで狩ることは難しそうで」
「……【漆黒バイソン】ですね」
「あらすごい。あなた、この暗闇であいつが見えるの?」
「ふぇ!? えっ、あっ、あの……。まあ、多少は」
 対人スキルゼロのアディーは、闇の中で戦うことはできても人と会話することはできない。
「そう、あれは漆黒バイソン。洞窟みたいな暗い場所を好む野牛よ。分厚い毛皮で高い防御力を誇るうえ、パワーも並じゃない」
「そ、それに、漆黒バイソンの一番厄介なところは……。高い魔力、です」
「ええ。バイソンは主に石を操る魔法を使える。最大の攻撃魔法は、地面を石柱にして相手を串刺しにする《ストーンピラー》。そこらにある鍾乳石が襲ってくるようなものよ」
「怖……。確かに、ひとりじゃ厳しそうですね」
「攻撃を当てる隙さえあればなんとかなるんだけど、わたしはそんなに早くないから、攻撃する前にストーンピラーを当てられてしまいそうなのよね。あなたたちが、あいつの気をそらしてくれれば……」
「うーん。サフィちゃん、できる?」
「……なんでボクが」
「だって他にできそうな人がいないし」
 ルベルの運動神経は論外。アディーも知らない人が一緒だと力が発揮できない。
 三人いても、戦力になるのはサフィだけなのだ。
「……まあ、わかりましたよ。どうせここを通らないと先に進めませんしね。ボクが突っ込みます、一撃で殺してくださいよ」
「それはお姉さんに任せなさい」
「では!」
 トリアイナを手に、サフィは飛び出した。ルベルが明かりを放り込み、漆黒バイソンの姿を照らし出す。
 バイソンはすぐさまサフィに気付き、迎撃体勢。魔力を集め、練り、解き放つ!
「ぶるぅぁああああああ!!」
「いっ!?」
 野牛の咆哮と共に、地面が揺れ、勢いよくトゲが飛び出していく。サフィは串刺しにせんと迫るそれらに、
「ふっ!」
 槍を下に向けた。小柄な体が浮き上がり、石柱の勢いで空に放り投げられる。
「魔力刃展開!!」
 空中で槍を振り回す。その先端は、すでに魔力で形作られた刃が生まれている。
 槍を一転、迫り来るトゲトゲを斬り伏せていく。
 そんな修羅場から大回りする形で、エメルはバイソンに迫っていた。後ろを取ったが、彼我の距離はまだ少し開いている。
 そんな距離感でも、エメルは剣を真横に構えた。
「ふふん。行くわよ! 点火イグニス!!」
 エメルの声に合わせて剣身が炎をまとい、その背に当たる部分がより強く発光する。
爆進一刀テルマ・ラーミナ!!」
 剣がーー爆発した。
 さながら砲弾のように飛び出したエメルは、ぶんぶんと回転しながら加速していく。その、爆発的な勢いが乗った斬撃がバイソンの体にぶち込まれた。
「ッ!!」
 分厚い毛皮も、爆発と共に叩き込まれる斬撃を前にしては形無しだ。バイソンの首は綺麗に切断され、残された肉体はばたんと地面に倒れた。
 くるんと一回転しつつ着地したエメルは、ふう、と息を吐く。空中から降り立ったサフィはエメルを見上げ、
「珍しいというか、頭の悪い攻撃方法ですね。失敗したら自分の腕が折れるんじゃないですか?」
「でも爆発的な攻撃力があるのよ」
「そりゃ爆発してますからね。ただ、普通の爆破魔法にも見えませんでしたが」
「ああ、それはこれよ」
 エメルは懐から小さな筒を取り出した。
「ここに爆破魔法を詰めてあるの。これを剣の背中に取り付けて、声を合図に破裂させてるってわけ」
「なるほど。インテリジェンスかと思いましたが」
「そんな大層な武器じゃないわ。あなたのそれと違ってね」
「……分かりますか」
「そりゃね」
 ふん、と鼻を鳴らし、サフィは改めてエメルの剣を見やる。
 厚めの剣身と大きな刃。それらは全て、爆進しても破損しないようにするための構造というわけか。
 サフィもアウトローとして、あまり良くない筋の冒険者はそれなりに知っているつもりだったが、ここまで無茶苦茶な戦闘スタイルをする人間は他に知らない。
「あんた、本当にただの料理人ですか?」
「ええ、ただの料理人よ。少しばかり無茶が得意な、ね」
 そう笑って、エメルはパチンとウインクした。