洞窟から出た頃には日が暮れかけていた。
 無理に行軍することもできず、仕方なしに夜営となった。火を起こし、四人で焚き火を囲む。
「……ごめんね、ディーちゃん。アタシ、役立たずどころか、ディーちゃんを一緒に死なせちゃうところだった」
「いえ。私こそ、守りきれませんでした」
「そう、それこそ意外だったですね。アディーの強さでも、あの魔獣は倒せなかったのでしょう?」
 アディーは頷き、
「スピードでは負けていませんでした。足りなかったのは純粋な攻撃力です。私は、サフィさんのような槍も、エメルさんのような特殊な剣も持っていませんから」
「武闘家特有の、武器なしってやつですね。拳の方が強くて早く、しかも安上がりゆえに武器をおろそかにしがちという」
「はい。本当は、金属籠手ガントレットでも使えばいいんでしょうけど……。私の魔力だと、武器が腐ってしまう、ので」
「ああ……」
 サフィもアディー同様、闇の魔力を扱うせいでよく知っている。
 本来、闇とは人間が取り扱うものではない。人間が使う武器にとっては闇の魔力など毒でしかなく、金属を腐食させる効果がある。アディーがそこらで売っている武器を使わないのは、単純に彼女が強いというこもあるが、それだけではなく、頻繁に交換しなければいけないからだ。
「準備不足でした。今度、ガントレットも用意しないといけませんね」
「でも、あれだけの魔獣を相手にしたら、普通のガントレットじゃダメだと思いますけど」
「それはまあ……。でも、ないよりは良いので」
「そこで、です」
 サフィは懐から数枚の鱗を取り出す。
「あの魔獣が落とした鱗です。これを加工できれば、それなりに攻撃力のある武器になると思いますけど?」
「拾っていたんですか……! なるほど、それならいけそうです」
 元が魔獣の鱗。これなら腐食の心配もない。
 サフィは鱗を1枚、アディーに渡す。そして、違う1枚をエメルに差し出した。
「わたしも?」
「あなたのところは採取メインのキャラバンだったのでしょう。これを落とした相手は並の魔獣じゃありません。あなたが欲しがっていた”成果”だと思いますが?」
「……!」
「戻りたいんでしょう。なら、これが必要なはずです」
 鱗を受け取ったエメルは、それをじっと見つめる。
「……。ありがとう」
「まあ、あなたの攻撃力がなければ、あの魔獣を撃退することはできませんでしたしね」
「確かに……」
「だからといって、あの武器を勧めるわけじゃありませんけど。いつか腕が折れるとは思います」
 くすりと笑い、サフィは続ける。
「それでも、今は使うべきでしょうけどね」
「……ねえ。なんでわたしに、そんなに優しくしてくれるの?」
「ボクは貸し借りが嫌いなだけですよ」
「あらそう? じゃあ、ひとつ借りを作っちゃおうかしら」
 エメルは三人を見つめ、
「わたしがキャラバンと交渉するの、一緒に来てくれないかしら」
「はぁ? なんでボクらが」
「お願い」
 ふと気づく。エメルの手が微かに震えている。
「確かにこれは一級品の素材かもしれない。でも、信じてもらえないかも。それに、これがあっても戻れないかも。色んなこと、ついつい考えちゃうの」
「……仕方ありませんね。でも、アディーは連れて行ってもクソの役にも立たないと思いますが」
「一人でないってだけで心強いのよ」
「だ、そうですけど? アディー、ついでにルベル」
「なんでついでなのよ……。よくわからないけど、話し合い? そういうのなら手伝えるかも。ディーちゃん、大丈夫?」
「あっ、あの、えっと、その……。私も、ですか?」
「あの魔獣を追い返せたのは三人の力でしょ?」
「……わ、わかりました」
 嫌と言えるようなら陰キャはしていない。
 パチパチと爆ぜる焚き火の音が、耳に残った。

☆   ☆   ☆   ☆


 数日後。アディーたち三人はエメルと合流し、彼女がもともと所属していたというキャラバンの本拠地に足を向けることになった。
「ここが【エレメンタルバース】の本拠地よ」
 エメルが指し示したのは、大通り沿いにあるレンガ造りの建物だった。
 四階建てだろうか。古びてはいるものの、しっかりとした作りだ。入り口の看板にはキャラバンの名前が刻まれており、商店のような賑わいがある。
「なにかのお店?」
「エレメンタルバース。有名なところですね。採取した素材を売ったり、頼まれた素材を採取に行ったりする大手のキャラバンです。100人近い人が所属していたかと思います」
「今は94人ね。わたしが抜けたから」
 そう言ったエメルは、看板を見上げ、ごくりと喉を鳴らす。
 そんなエメルを見上げたサフィはニヤリと笑い、
「手でも握ってあげましょうか?」
「あら、大丈夫よ。お姉さんだもの」
 答え、扉を開く。
 1階は物販になっているようだった。魔獣の素材や、未開拓地域でしか採取できない素材が並べられている。客数も多く、賑わっている様子だ。メイドのような格好をした店員が何人か接客をしている。
 エメルが奥に向かうと、店員も気づいたようだ。
「久しぶり、レティ」
「ひ、久しぶり。エメル」
「団長、いるかしら? お土産があるの」
「あっ、うん、2階にいるけど……。まさか、団長に会いに?」
「おかしいかしら?」
「えっ、あっ、そ、そんなことはないけど……。あなたなら不審者ってこともないし、ど、どうぞ。そっちの三人は連れかしら?」
「ええ。問題ある?」
「すー、はー。だ、大丈夫。うん、たぶん平気。でも、気をつけてね。団長のところにジンもいるよ」
「……そう」
 レティと呼ばれた店員が奥の扉を開く。エメルに続き、アディーたちも奥へと入った。
 入ってすぐは通路が続き、左手には扉が、右手には階段がある。
「ここは倉庫。上の階に事務所があるの」
 エメルを先頭に、階段を上る。いくつか扉が並び、右手の窓から外が見えていた。通路の奥まで進むと、癖のある字で団長室と書かれている扉があった。
 エメルが扉をノックすると、部屋の中から女性の声が聞こえる。
「どうぞ」
「……行くわね」
 エメルは静かに扉を開いた。