アディーがキャットの店から戻ると、黒猫亭は何やら騒がしいことになっていた。
「……?」
「あ、ディーちゃん! お帰り」
 出迎えたのはルベルだが、いつもの服装とは違っていた。
 丈の短いスカートに、フリルで装飾されたエプロン。メイドにも似ているが、メイドがこんな過剰な装飾では仕事にならない気もする。
「どうしたんですか、その格好」
「可愛くない?」
「えっと、それは、まあ。でもそうではなく」
「わたしの趣味よ」
 奥から出てきたのは、料理人のエメルだった。
 エメルは先日、アディーたちと命がけの戦いを経験して以降、一緒に活動するようになった。そのため、黒猫亭にいること自体はおかしなことではないのだが……。
「趣味って?」
「可愛い女の子に可愛い格好をさせる趣味」
「……」
「ほら、エミリーさんもサフィちゃんも」
 奥で着替えていたのだろう、ルベルの姉・エミリーと、冒険仲間のサフィも出てくる。
 エミリーが着ているのは深紅のドレスだ。大きく開いた胸元に、足のスリット。少々恥ずかしい格好だが、堂々としているので似合っている。
 一方で、サフィが着させられているのはーー過剰なフリルとでっかいリボン。ありていに言って、子供服(推奨年齢5歳)だ。
「エメル。この服装にはいささか疑問があるんだけど」
「似合ってるわよ? 超可愛い」
「ぶち殺してやろうかこの女……」
 ちょっぴり殺意が湧いているようだ。
「あの。似合っているのはいいんですけど、なんで服なんか」
「女の子なら大事でしょ?」
「そうでしょうか……」
 女子として大事なものはだいたい置いてきているアディーなので、そういうものが大事であることもよくわからない。
「ただ、冒険であまり華美な格好は向かないと思いますけど」
「それはそうだけど〜。たまには可愛い格好を眺めたいじゃない? でないとムラムラが抑えきれない」
「今でも抑えきれていないような……」
「細かいことは気にしない」
 エメルの女性好きを告白された時は、まあそういうこともあるかと納得したアディーだったが、こういうノリはちょっとついていけない。というか馴染んでいるルベルがおかしい。
 そんな感じで賑やかにしていると、店の扉が開いた。
「すんませんっす。ここにアディー・ヒーリって人はいるっすか?」
「えっ、あっ、はい」
 入店したのは、女性客だった。十代の中頃だろうか。黒い髪を頭の左右でくくっている。何故だか水着のようなトップとショートパンツを着用しており、やけに露出が多い。アディー的にはお近づきになりたくない服装だ。
「え、えっと」
「あんたがアディーさん? ふうん。じゃあま、これどうぞっす」
「へ?」
 女性客は、アディーに二通の封筒を差し出した。思わず受け取ってしまう。
 表書きにはアディー様とあり、招待状と書かれていた。
「な、なんでしょう。これ」
「招待状っす。そうそう、申し遅れました。ウチはファスト・メシアム。【ロードクロイツ】のメンバーっす」
「ロードクロイツ……!?」
 冒険者をやっていれば、知らない者はいない。
 押しも押されぬ超一流。最強の名を誇り、深層にだって易々ともぐることのできる化物キャラバンだ。
「知っての通り、ロードクロイツは有名なキャラバンっすからね。キャラバンの代表みたいな真似もしてるんすよ。そんで年に一度、交流会って名目で各キャラバンの代表を集めて、パーティーをやるんす。それはその招待状」
「わ、私にですか……!?」
「というか、あんたがたのパーティ全員が参加できるように、っす。その招待状1枚で二人まで参加できるっすから」
「な、なんでまた」
「さあ? うちの団長が持ってけって言うから持ってきただけっすからね。詳しいことはパーティーの時にでも団長に聞いて欲しいっす」
「だ、団長って」
「もちろん、【魔女】ベリーク・テスターっすよ」
 魔女。魔法使いの女性なら無数にいる中で、その名を名乗ることができるのはただ一人だけ。
 あらゆる魔法使いの頂点と言われ、特に治療系の魔法において彼女の右に出る者はいないという凄腕魔法使いだ。
「じゃ、確かに渡したっすからね」
 ひらひら、と手を振り、ファストは店を出ていってしまった。
 アディーは手の中に残された招待状に視線を落とす。
「ロードクロイツって有名な人だよね? そこのパーティーに行けるんだ!?」
「大手ならリーダークラスは参加しているけど、四人しかいないキャラバンで誘われるのは前代未聞ねぇ」
「どうするんですか、アディー」
 サフィに問われ、アディーは現実に戻ってくる。
「え? ど、どうって」
「参加するのかと聞いているんですよ」
「参加って」
「パーティーですよ? 社交場です。ドのつくポンコツ対人能力しかないアディーには荷が重いと思いますが」
「あー……」
 社交場。人と交流する場。むり。ちょうむり。ぜったいむり。
 ーーと、言いたいところではあるのだが。
「でもこの招待状、私に持ってきた、ってことは……」
「まあ、アディーに参加してもらいたいから、ってのが妥当ですよね。本当に何したんですか。ロードクロイツに目をつけられるなんて」
「な、な、な、何もしてないですよ!?」
 そう、アディー宛の招待状。不参加となれば当然、余計に目立つ。
 つまるところ、この招待状を発行された時点で逃げ場はないわけだ。
「……行かなきゃダメでしょうか」
「まあ、逃げてもいいですけど、最強に目をつけられている以上、後々にどんな悪いことがあってもボクは知りません」
「サフィ、冷たい……」
「まあまあ! 大丈夫だよ、ディーちゃん。アタシたちも一緒に行けるんだし」
 がばっ、とルベルが抱きついてくる。女の子の匂いがしたおかげか、少し落ち着いた。
「一人じゃキツいかもしれないけど、まあ四人いればね。他のキャラバンだって二人ずつしか参加していないのだし」
「エメルだって。たぶんエレメンタルバースも参加しますよ、これ。気まずいんじゃないんですか?」
「大人は気まずくても社交ができるものよ。ねえ、エミリーさん?」
「なんでそこでこっちに振るのかしらね」
「うふふ。わたしはエミリーさんも素敵だと思うわ」
「あら、ありがとう。でも遠慮しておくわね」
「つれないのねぇ」
「さておき。アディー、あなたドレスは持っているの?」
「えっ」
 エミリーはため息ひとつ、
「その様子じゃ正装なんて持ってないわね」
「いつもの服じゃ」
「いいわけないでしょ。社交場で」
「……」
 それはそうだ。
 エミリーはルベルとエメルを等分に見やり、
「二人でアディーとサフィの服、用意してあげて」
「はーい!」
「ちょっと、なんでボクまで」
「アウトローのあなたもドレスなんかないでしょ。いいから、さっさと買ってくる!」
「ぐっ……!」
「ちょうど大通りに可愛いのを置いてる店があるから、そこ行こー!」
「えっ、あっ、あの、なるべく地味なやつが」
「ドレスに地味なんかあるものですか! ほらほら!」
 女性が揃うとかしましい、などと言うが。
 アディーは賑やかな面々に連れ出されてしまった。