2週間後、アディーたちはロードクロイツと共に深層へ探索することになった。
 とはいえ、本気の探索を行うロードクロイツにまぎれる形。実質的に戦闘さえ行う必要はない。魔法力で浮き上がる木馬に乗りながら、アディーたちは荷物とともに移動するだけだ。
「いやあ、これだけ大所帯なのは久々だね」
 同じく荷物状態のアレッサは、なんだか楽しそうだった。
「深層までは1週間ほどかかる。道中のんびり行こうよ」
「それはいいんですけど」
 ルベルは首をかしげ、
「アレッサさんまで木馬に乗っちゃって、戦わないんですか?」
「戦う必要がないもの。雑魚相手じゃ戦うのも面倒だし」
「雑魚って……。他の人、そんなに強いんですか?」
「うーん。兵隊の強さはマチマチだけどね。幹部級ならみんな強いよ。そうだなぁ、君たちで言うところの、サフィちゃんよりも強いくらい」
「……」
 名指しされたサフィだったが、ちらりとアレッサを見ただけで、特に何も言わなかった。
「インテリジェンスを持つ人もいるし、単純に魔力運用が上手い人もいるね。親分なんかはコントロールお化けさ」
「コントロールお化け?」
「魔力の運用が桁違いに上手い。君も魔法を扱うなら分かると思うけど、魔力なんてのは定量的に計れるものじゃない。自分の感覚で、なんとなくこのくらい、って使い方をするものだ。だから同じ効果を綺麗に出すことはほぼ不可能」
 だけど、とアレッサは続ける。
「親分はきっちり同じだけの魔力量をコントロールすることができる。彼女は魔力量が飛び抜けているわけでも、格闘技術に優れているわけでもない。ただコントロールだけで”壁”を突破したんだ。だからお化け」
「へー。スゴいんですね」
「そりゃ、そうでなければロードクロイツを率いるなんてことはできないだろうさ」
 冒険者というのは、大なり小なり荒くれだ。
 自然と自分より弱い者には従いにくくなる。強さは異界探索においても絶対条件であり、それを有するがゆえに頭領を張っていられるのだ。
「まあ、強さだけならワタシが一番かもだけどね」
「戦いで、ですか?」
「まあそう。正確に言うなら、殺し合いで、かな」
 そう言って、アレッサはニヤリと笑う。
「ワタシはね。命の奪い合いってのが好きなんだ」
 アディーたちは眉をひそめるが、アレッサは気にしない。
「昔、まだワタシが最強なんて呼ばれる前のガキだった頃、命を失いかけたことがあってね。あの時の強襲者は強かったさ。その時は命からがら逃げ出して、ようやく生き延びた」
「アレッサさんでもそんなことが……」
「そりゃ、生まれながらに最強って人は誰もいないさ。ワタシはそれから、あの強襲者に追いつきたくて、必死に努力した。その成果がこれさ」
「努力の成果……」
「努力は裏切らないよ。最強のワタシが保証する。まあ、人間は簡単に裏切るんだけどね」
 くすくすと笑い、アレッサは舐め回すような目でアディーを見つめる。
「ねえ、アディー・ヒーリ?」
「……私は、ルベルたちを信じていますよ」
「こりゃ失敬」
 くすくす笑うアレッサ。微妙な空気のまま、木馬は深層へと突き進んでいく。

☆   ☆   ☆   ☆


 中層の端には四日ほどで到着した。予定より少し早めの行軍だ。
 そこは崖の上だった。遠くには巨大な岩山が、崖から遥か下の方には木々が見える。深層にアプローチするルートのひとつ、【バレリア森林】だ。
 アディーにとっても、バレリア森林は未踏の地域。だが、空気からして違うことは、一瞬でわかった。
 言葉では形容しがたい。まるで”殺意”が肩にのしかかったような、妙な威圧感があるのだ。
 その日は深層に入らず、手前の岩場でキャンプすることになった。交代で見張りをしながら食事の用意をする。
 ちなみに料理はエメルが手伝っている。彼女の腕前は本物で、ロードクロイツの中でもすでに評判だ。一方でアディーは、芋の皮剥きに時間をかけすぎて怒られた。
 基本的に人と協力するタイプのプレイは戦力外のアディーは、仕方なく森林を眺めながら見張りをしていることしかできないのである。
 すると、そんなアディーの横に一人の女性がしゃがみこんだ。
「どうかしら、調子は」
「ひっ」
「あら、つれないわね」
 くすりと笑ったのはロードクロイツ頭領のベリークだ。
「あ、あの、何か……」
「深層に入る前に、あなたたちの話を聞いておきたいと思って」
「話ならルベルが……」
「みんなにそれぞれ聞きたいのよ。冒険者なんて、同じキャラバンでも同じ目的とは限らないのだから」
「……」
 たしかに、アディーたちはそれぞれ夢も目的も少し違うが。
 だからといってお喋りが得意になるわけではないーー!
「まあ、そんな難しいことを聞くつもりはないわ。あなた、秘宝を手に入れたら何を願いたい?」
「えっ、あの、いえ、と、特には」
「ふふっ。隠しているのかしら?」
「そ、そういうわけでは」
「でも、あなたは秘宝に挑戦するだけの力がある」
「っ!?」
「隠していても見ればわかるわ。魔力の流れが違うもの」
 さすがはコントロールだけでロードクロイツの頂点となった女。
 隠し事はできない、というわけか。
「まあ、あなたが何かを隠していても関係ないわ。ただ、秘宝を手に入れるには協力して貰わないといけないかもしれない」
「え?」
「秘宝には番人がいるとされる。我々は、その数を6と見ているの」
「6人の、番人ですか」
 ベリークは頷き、
「手に入れたメダルにはそれぞれ違う魔物が刻印されている。おそらくはそれが番人の姿。その強さは未知数だけれど、秘宝の番人なのだから並の魔物であるはずがない」
 それはそうだ。
「ロードクロイツで優秀な戦力となれるのは、幹部を含めても五人。他のメンバーも弱くはないけど、伝説の宝を守る相手にどこまで戦えるか分からない」
 だから仲間を探していたのかーー。
 優秀な人材がいるはずのロードクロイツがメンバー集めをしていたのは疑問だったが、それで合点がいく。
「本当はもう一人、オプリアという子がいたのだけど、メダルを集めていた時に亡くなってしまったの。その穴が埋められていない」
 優秀な戦闘力を持つ冒険者は限られる。穴とは言うが、そうそう埋められるものではないのだろう。
「だから、あなたがオプリアの分まで時間稼ぎしてくれると助かるわ」
「……死なないように努力はします、が」
「うふふ。十分よ。時間さえあれば、アレッサが残りを片付けると思うわ」
「アレッサさん……」
 アディーはふと、疑問を口にした。
「あの。彼女は、なんでそんなに強いのでしょう」
「本人は努力をしたと言っているけど?」
「努力だけで最強になったり、深層にソロで潜れたりするものでしょうか」
「……。詳しいことは誰もわかっていない。けど、彼女は魔獣となんらかの関係があるんじゃないか、と見ているわ」
 こんなことを言っていいのかわからないけど、とベリークは言う。
「彼女から闇を感じたことがある。いえ、本当に闇の魔力を有する人間はたまにいるけど。彼女は底が知れていない。それは今も、よ」
「……でも、キャラバンには加えているんですね」
「必要だから。私は必要ならなんでもする女よ」
 だから、とアディーの肩に手を置いた。
「あなたを必要としているのよ。アディーさん」
 じゃあよろしくね、と立ち去るベリーク。彼女の言葉の意味を、アディーはじっと考えていた。