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翌日。その場所に辿り着いた。 そこは岩山の麓だった。山そのものは遠くから見えていたが、頂点は雲の中に入っており、見ることができない。 岩肌はほとんど垂直に近い。そんな岩壁のさなかに、巨大な門があった。 見上げるほど巨大な石の門だ。その下には、小さな切りかけが6つ。穴の下には、それぞれ古代語で何かが書かれている。アディーには読めないが、あるいは、それが昨日言っていた魔獣の名前だろうか。 門は押しても引いてもびくともしなかった。ロードクロイツのメンバーが揃っても動かず、何か魔法の仕掛けがあるのだということまでは分かっているようだ。 「……」 レギアルが1枚ずつ、メダルを嵌め込んでいく。 6つ目のメダルが嵌まると、今まで何をしても動かなかったはずの門が、ぎしりと動き始めた。 おお、とメンバーの中からもどよめきが生まれる。 ゆっくりと動いた扉。その向こう側には少し上り坂となっている通路が続いていた。 「行くわよ」 ファストを先頭としながら、キャラバンは坂道を上っていく。やがて、開けた場所に出た。 「ッ……!?」 花畑の中央に、石畳が敷かれている。ところどころには崩れかけた石柱が並んでいるが、天井らしきものは見当たらない。 ただ、どれもこれも呆れた大きさだ。何もかもを三倍量にしたようなサイズ感。石柱一本が家一軒のようにそびえ立ち、石畳1枚だけでテントを広げられるほどに大きい。 花畑も広く、反対側が霞んで見えるほどの広さだ。 「これは……。神殿?」 「そんな雰囲気ね」 カツカツと石畳を鳴らしながら進んでいく。花畑の中央には祭壇があり、その回りを6つの石像が囲んでいた。 三つ首の犬。多腕の骸骨。牛頭の戦士。目のない蜥蜴。一風変わった鎧。そして、どこか愛らしい狐のような獣。 石像は他のサイズ感と比べると、かなりこじんまりとしている。1メートルほどの高さがある台座に、やはり1メートル程度の石像が乗っている形だ。 それぞれの石像は不自然なほど綺麗だ。いつ作られたものかも分からないのに、全く風化していない。石畳や石柱が崩れているところを見ると、かなり異様な姿である。 「これが守護者、かしら?」 「うーん。でも、お宝もなんもないっすね。守護者ってのも襲ってこないし」 「何か条件でもあるんでしょうか」 「何か足りないとすると、また情報を集めないといけないわね」 石像や祭壇を調べてみるが、特別なものは何もない。祭壇には古代語が刻まれている。 [闇は光に背を向ける] 祭壇や台座に突起のようなものもなく、何かがスイッチというわけではない様子。 「まさか、このだだっぴろい場所をほっくりかえして回るんすかぁ? 何ヵ月かかるか分からないっすよ」 「ワタシはパス」 「最悪そうなるかもしれないわね……」 協議するロードクロイツを横目に、ルベルはアディーに耳打ちする。 「なんだかもめてるみたいだね……」 「扉が開いたのに何も起きないからでしょう」 「そういうのってよくあるの?」 「まあ、迷宮では珍しくないかと思いますよ。入ってみてもスカだったってこともありますし、開いただけでは条件を満たしていないという場合もあります」 「今回はどっちかな?」 「……想像ですけど、まだ条件を満たしていないだけだと思います」 「なんで?」 「扉を開く条件が重すぎます。6枚のメダル、しかも6枚目は中層の隠されたエリアにあったなんて、普通に探索していたら発見は困難ですから」 「異界ならそういうこともあるんじゃないの?」 「これは言葉にはしにくいんですけど、異界の謎というのは、どこか”解かれる前提”であるような感じがするんです」 「前提……?」 アディーは頷き、 「どう考えても人間が作ったはずがないんですけど、まるで人間が作ったナゾナゾみたいなところがあるんです。絶対に解けないっていうことはなくて、何か条件を満たせば解決は可能なんです」 「神様でもいるっていうこと?」 「否定はしません。たとえば、自然にできた洞窟では人間が入れない空間も当然ながら存在しますよね? 異界のダンジョンにはそういうものがないんです。人間はここまで到達していないのに……」 「分かるような、分からないような。じゃあ、ここも何か条件が必要ってことかな?」 「そうですね。普通に考えたら、石像と祭壇がヒントでしょうが」 石像を見上げる。狐のような像が乗っている。 「……たとえば」 アディーが石像に力を込めてみると、ずずっ、と石像が動いた。 「これ、動きますね」 「本当だ! じゃあ、何か正しい向きにするとか?」 「ノーヒントで6つの石像を動かすのは……。いえ、そういえば」 祭壇に刻まれた古代文字。 「これ、石像を祭壇に背中を向ける方向にしたらいいのでは?」 「なんで?」 「光に背を向ける闇……。闇が魔物のことなら、背中を向ければいいのでは、と」 「なるほど! ファストさーん!」 自分の考えを他人に披露できないアディーにかわり、ルベルがロードクロイツのメンバーに考えを話す。 それならやってみようと、めいめいが石像を動かしていく。 「よいしょおおおおお!!」 ずりずりと動く石像。その向きが揃って岩壁に向いた瞬間、地面が揺れた。 「ッ!?」 「総員散開!!」 ベリークの号令と共に全員が散る。揺れが酷くなったかと思うと、周囲を囲んでいた岩壁が破裂した。 「なッ!?」 岩壁の中から、魔獣たちが現れる。事前の情報通りだが、実際に目の当たりにすると全然違う。 「総員!! 接敵!!」 各自が担当する魔獣に向かって突撃していく。しかし、次の瞬間には名前も覚えていない隊員がヘカトンケイルに踏み潰された。 一匹一匹の魔物が桁違いのサイズだ。それぞれ見上げるほど大きな魔物が、命を取らんとキャラバンのメンバーに迫ってくる! 「やっはー!! いいじゃんいいじゃん!! 最高じゃん!?」 嬉しそうに剣を抜くアレッサは、そのままヘカトンケイルに斬りかかる。骨の腕に剣が当たり、 「ッ!!」 弾かれる。 フンババの鱗さえ切り裂くアレッサの剣でも、ヘカトンケイルの体を両断するには至らない。 「うわああああああああ!?」 その事実が、一気にパニックを煽った。最強でも敵わないと、一瞬だけでも思ってしまったメンバーから逃げ出そうとする。 だが。 「おいバカ!! そっちは……!!」 ヘカトンケイルから逃げた隊員が、ミノタウロスが持つ斧によって粉砕された。 血と肉が飛び散り、花を汚していく。 「やらせるもんすかぁぁぁぁぁ!! 炎獣モード!!!」 ファストが、バレウスが、レギアルがそれぞれ魔力を放出する。誰も彼も一騎当千、その全力で立ち向かう。 対する魔物たちも容赦がない。ケルベロスが炎を吐き、ミノタウロスの豪腕が石柱を吹っ飛ばす。それぞれ相手をしているが、なかば乱戦状態。 誰も彼も、他人に構う余裕がない。 「アディー!! カーバンクルです!!」 はっとした。岩壁から駆け降りてくるのは、金色の毛並みを持つ狐のような生き物だ。ただ、その速度が尋常じゃない。 「は、早っ!?」 目にも止まらぬとは言うが、まさにそれ。まばたきしている間に、魔法弾さえ越える速度で走り抜けてしまう。 「あんな速度で走る相手をどう捕まえるっていうのよ……」 「下手に突っ込んだら、他の魔獣に殺されそうですね」 「でも、ほっとくわけにはいかないようです」 尋常じゃない速度。だが、カーバンクルが周囲に空気を巻き込むせいで、走り抜けた後は暴風が吹き荒れている。ただでさえギリギリの戦闘をしているロードクロイツの合間を暴風が吹けば、戦闘に差し障る。 本当は逃げたい。だが、やるしかない。 だって、伝説の秘宝は目の前なのだ。ここで”冒険”しないならーー冒険者じゃない!! 「とにかく、私たちはカーバンクル捕獲に全力を尽くします!」 |