|
「どうするつもり?」 アディーの考えは否定せず、サフィは三叉槍を構えながら問いかける。 アディーもガントレットの装着を確認しながら、 「おそらくですが、あの速度です、制御に魔力を使っていると思います。なので、大気中の魔力濃度を下げてしまえば、その空間では速度が落ちるかと」 「それはそうだろうけど……。そんなの、どうやってやるの?」 アディーはサフィを見下ろし、 「サフィさん、たしかゴーレム召喚を使えましたよね? それでいきましょう」 「ゴーレム? そんなのカーバンクルを捕まえられるようなものじゃないけど……」 「違います。ゴーレムを作るということは、空間の魔力を消費するということです。無理やり数を作れば、そこでは他の魔法が若干影響を受けるはず」 「……!! なるほど、その手か!!」 「エメルさんとルベルも、魔法を使って下さい。なるべく空間の魔力濃度を下げるよう、吹き上がるような魔法がいいです」 「おーらい」 「任せて!」 サフィは三叉槍を地面に突き刺す。エメルは剣を掲げ、ルベルは杖を構えた。 「捕獲はアディー、頼むよ」 「はい」 アディーはそっとポーチから魔石を取り出し、口に含む。 がりっと噛み砕くと、全身を闇が包み込んだ。 「今です!!」 「《サモンレスク》っ!!!」 「《ボルケーノ》!!!」 「《アイスレイン》!!!」 三人の魔法が同時に発動する。 地面から炎が吹き上がり、ところどころでゴーレムが屹立する。空からは氷が降り注ぎ、周囲を荒らす。 ただでさえ乱戦、そのうえピンポイントで魔力を消費した。勢いの強すぎるカーバンクルはそのまま突っ込み、 「っ!!」 同時。アディーは跳ねた。 全力の突進。刹那、速度の落ちたカーバンクルとアディーの動きが重なりーー。 「取った!!」 正面からカーバンクルを抱きかかえたアディーは、そのまま地面をスライディングして止まった。 「やった!?」 「すごい!!」 仲間たちが駆け寄って来る。つかまったカーバンクルはおとなしかった。 顔をくしくしと撫でてから、カーバンクルはアディーを見上げる。 「お見事。君の勝ちだ」 「ッ!?」 「しゃ、しゃべった!?」 「なんだい。しゃべってはいけないのか」 「そ、そういうわけではありませんが……。あの、あなた方はいったい?」 「僕らは守護獣。勇者様から賢者の石を託された者たち」 「勇者様から……!?」 カーバンクルは顔を撫でながら、 「勇者様はおっしゃった。宝を守れ。そして、ここまで”冒険”してきた者の願いを叶えよ、と」 「じゃあ、異界は……勇者様が、作った? まさか、秘宝の力で?」 「賢者の石は純粋なる力。無限から力を引き出すことができる。事実上、賢者の石を使って出来ないことはない。ただ、そのためには僕らが持つ6つの石の欠片を合わせないと駄目だけど」 すると、カーバンクルはうーんと首を持ち上げた。首の下に、赤い石の欠片が光っている。 アディーがそれを取ると、ふわりと魔力を感じた。 「じゃあ、頑張って。他の獣たちはもっと強いよ」 「は、はい」 カーバンクルを抱えながら振り返る。その時、鉄巨人がずしんと倒れた。 「はははは!! やった、やったわ!! 手に入れたぞ、賢者の石!!」 快哉を上げているのは魔女ベリークだ。彼女も守護獣を倒したらしい。その手に輝く宝石は、賢者の石だ。 「ひゅう、やるね。さすが親分」 一方で、ヘカトンケイルをみじん切りにしたらしいアレッサも、剣を振りながらベリークに近づく。 「そういえば親分。だいぶ前に聞いたけど……。秘宝を手に入れて、どうするんだっけ?」 「決まっているでしょう。若さよ! 永遠の若さを手に入れるのよ!」 「ああ、そうだった。賢者の石に眠る無限の魔力で、若さを維持したいんだっけ?」 「そうよ! この美貌を失うなんて冗談じゃないわ! そのために冒険をしてきたのだもの!!」 「なるほどなるほど。それ、つまんないね?」 「……は?」 音はなかった。 ベリークの背中から、剣が突き出している。その切っ先が赤く濡れている。 「あっ、ぁぁ……!! あ、あんたは!! あんたって奴は!!」 「言ったでしょ、親分。冒険者っていうのはね、命を奪わなきゃ冒険者じゃないんだ。永遠の命なんて一番冒険者から遠い存在だよ? そんなもの、ワタシはいらない」 「アレッサぁぁぁ!!」 ベリークの右手に魔力が集中する。次の瞬間、アレッサの剣が腕を斬り落としていた。 「そうそう、そうこなくっちゃ。冒険者の殺意……。それこそワタシが求めたものだよ?」 「この……。バケモノ、がっ……!!」 ゆっくりとベリークは崩れ落ちる。 気づけば、他のメンバーも倒れ、守護獣たちが暴れる音もなくなっていた。 アレッサはベリークの持っていた賢者の石を奪った。同時、目についたらしい銀色のペンダントを手に取る。 「石を入れるのに丁度いいね」 ベリークの首からペンダントを奪うと、その中に賢者の石を入れた。遠目にも強い魔力が輝いていることがわかる。 「……うーん。あいつが手に入れるのかぁ」 「カーバンクル?」 アディーに抱えられたままのカーバンクルは、じっとアレッサを見つめている。 「あいつが勝つんじゃちょっと違うんだけどなぁ」 「カーバンクル、あなたはアレッサさんを知っているんですか?」 「アレッサというの? 彼女はさ、魔獣だよ」 「……えっ」 したたる血を振り払う女を見ながら、カーバンクルは平然と言う。 「見れば分かるよ。彼女は人間じゃない、魔獣だ。賢者の石は純粋な力の塊、魔獣が使っても使いこなすことはできる。けど、いいのかなぁ。勇者様は人間の冒険者にって言っていたのに」 「魔獣、って……。彼女はどう見ても人間じゃ……」 「どう見えているのか知らないけど、見れば分かるじゃないか」 そこで、アレッサはこちらに気づいたらしい。子供が小枝を振り回すように、剣を振り回しながら近づいてくる。 「いやあ、アディー。賢者の石を手に入れたんだね。さすが、ワタシが見込んだ冒険者だ」 「……アレッサさん。他の人はどうしたんですか」 「適当に斬ったよ。まあ、強い人が多いから、半分くらいは生きてるんじゃない? 親分は死んだと思うけど」 けらけらと笑いながら、アレッサはカーバンクルを見つめる。 「やあ、カーバンクル。はじめましてかな、一応」 「魔獣。お前が賢者の石なんか集めてどうするのさ」 「ワタシは命を奪うのが専門だよ? 賢者の石を使えば、開拓地域に魔獣を呼べる。アラバスターを始めとする、あらゆる場所が魔物の溢れる場所となる!」 「混沌が望みかい?」 「違うね! ワタシの望みは命が奪われる瞬間だ! その瞬間を見たいんだ! 残酷なまでの殺意と悪意、それこそが冒険さ!!」 だから、とアレッサは剣を構える。胸元で、銀のペンダントが輝いていた。 「アディー・ヒーリ。賢者の石、渡してくれないかな?」 |