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アディー・ヒーリ。16歳。クラスは武闘家。職業、一応冒険者。 一応とつくのは、冒険者として目ぼしい成果がなーんにもないからである。 「おう、荷物持ち。これも頼む」 「あっ、はい」 仲間に頼まれ、麻布袋を担ぐ。冒険者というかただの運搬業者。 長すぎる黒い前髪はヤボったく、せっかくのショートカットが意味あるんだかないんだか。長袖長ズボンに似た武闘着姿だが、武闘家というよりただの浮浪者。 ”異界”の探検は複数で行くのが大原則だ。一般的には10〜20人程度、大所帯だと50人以上で組むところもある。 遠征すればそれだけ食料も必要だし、現地調達するにしても人数はなにかと必要。そんなわけで、アディーも中堅キャラバン【ブライトヘヴン】に混ぜてもらっている。 混ざってはいるが、まあ役に立ってるわけじゃない。魔法が得意というわけでもなし、魔物との戦闘で役立つわけでなし。 女にしては力があるというわけで、荷物を持って随伴してはいるものの、お荷物は背中の方か歩いている方かという話。 「……」 というか仲間たちも、仲間という意識がないというか、なんだったら魔獣使いが連れているワンコ(3歳、メス)の方が可愛がられている感。 会話は苦手でコミュニケーション能力は皆無通り越して絶無。これでは背中を預けるに預けられない。 今回探索している【クロス平原】は、森林と草原の境界域に当たる。森林に入らない限り強い魔物が出るような場所でもなく、おかげと言うか、アディーも探索に連れてって貰っているが。 まあ半分はお情けである。誰かがそう言っているわけじゃない。だがアディーも自分でよーく分かっている。 アディーに荷物を預けたメンバーは、うーんと背伸びをした。 「団長〜。そろそろ撤退しましょうや、このあたりの目ぼしいもんは採集し終えたでしょ」 「んー、そうだなぁ」 団長のペリドはおひとよしなので、明確に足手まといのアディーでも無下にしないが、いつまで甘えていられるやら。 「ま、さっき見つけた一角イノシシの牙と肉だけでも成果としては十分か」 「一番高値のツノだけなかったのは残念っしたけどね」 「ま、労せず拾いもんをしたんだし、文句は言えないさ。俺たちだけじゃ一角イノシシは手に余る相手だし。肉だけで荷車いっぱいだろ?」 「どうなんだ荷物持ち」 「えっ、あっ、は、はい……」 アディーが頷くと、団長はにやりと笑った。 「よし、帰還するか。総員、撤退用意!!」 「おー!!」 「お、おぉ……」 アディーの小さな小さな声は、みんなの歓声にまぎれて消えた。 異界。異なる世界という名前ではあるものの、いわゆる”人間界”とは地続きだ。 未開拓地域の総称で、人々の生活圏とは何もかもが違うことから、異界と呼ばれているに過ぎない。 そんな未開地域に分け入り、成果を持ち帰る職業が冒険者。一説には、異界にはあらゆる願いを叶えるという”秘宝”があるとされ、冒険者たちは一攫千金を夢見て今日もあぶく銭を稼ぎに行く。 帰還する道すがら。夜は交代制で眠りにつくのだが、アディーは今日も眠れそうになかった。 「……」 役立たず。足手まとい。 そう言われたことは一度だってない。それは団長であるペリドの人徳だろう。だが、誰だって内心はそう思っているに違いない。 根拠のない確信があるアディーは、ただ漫然と眠ることができない。 自然、寝床を抜け出し、今日も未開の森を歩いていた。 「はぁ……」 せめて目を見ずとも会話できれば一歩前進なのだが、それさえできない。他人が怖い。知らない相手ではないのだけど、どう思われているか聞きたくない。 「このままじゃなぁ……」 ため息混じりに夜闇に支配された森を歩いている。 そう、森を歩いているのだ。 夜の闇が降りた森は、月明かりなど入らない。魔法光など使えば一発で魔物に囲まれてしまうような場所なので、光も使えない。なのにアディーは平然と歩いている。 目で見ているわけではない。ほんのわずかな風の音、手足から伝わる感触、微細な魔力の流れ。そんな些細な根拠で足場を決めているのだ。 「ん?」 ふと足を止める。がさがさと下草を揺らしながら現れたのは、一角イノシシ。 全長は3メートルほど。絶大なパワーと魔力の通うツノを持ち、ベテラン冒険者でも単独で狩るのは絶対に避けたい魔獣。 お荷物の荷物持ちなどが出会えば即死は免れない相手だが、 「イノシシ……。まあ、ツノならいくつあってもいっかな……」 アディーは拳を握ると、地面を蹴った。 暗闇の中でも歩けてしまうほどの超感覚は、夜の狩人である一角イノシシを前にしても変わらない。 「ぶもおおおおおおお!!」 イノシシがツノを振り回すが、枝に幹に、足場に困らないこの場所では回避など造作もない。 「ごめんね」 くるんと一回転。スピードの乗った拳を横っ腹にぶちこむ。 「ッ!!」 一角イノシシはまっとうに殴り合うと、とんでもない耐久性を誇る。特に正面はツノと牙という二つの武器があり、突進力も相まって厄介な相手だ。 だが、横っ腹はそうでもない。分厚い毛皮に守られてはいるものの、急所が丸見えの位置なのだ。当然、イノシシもそのことは分かっているから、普通は横っ腹など見せたりしない。 ただ、アディーが早かっただけだ。 アディーに殴られたイノシシは、ぐらりとよろめくと、そのまま地面に倒れた。 「えっと、ごめんなさい」 アディーはイノシシのツノへ足をかけると、ばきんとへし折る。ツノなら小さな鞄にも入る程度。それでいて魔法薬の原材料になるおかげで高値がつく。 要するに、換金効率の良い素材なのだ。 「このくらいしか持って帰れないしね……」 キャラバンとして一角イノシシを持って帰れば、まあまあの金になる。だが、そのためにはキャラバンの仲間に一角イノシシを倒したと言わなければいけない。 当然、どうやって倒したとなる。お荷物の荷物持ちが勝てるような相手ではないからだ。 『どうやって倒した?』 『殴って倒しました』 『すごいじゃないか、じゃあやってみてくれ』 こんなことを言われた日には死ねる。 なぜ荷物持ちなんてやっているのか。その理由はひとつ。 「はぁ……。人目のないところだけで戦えるならなぁ」 極端な人間恐怖症と絶無なコミュニケーション能力のせいで、アディーはチーム戦というのがまったくできない。 誰かに見られてると思うと緊張して魔法が発動しないし、テンパって仲間を殴り飛ばしてしまうことも十分に考えられる。 結局、ソロでしか狩りができない。ならソロで探索すればいいじゃないかとも言われそうだが、ソロ探索では素材を持ち帰れないので、たいした実入りにもならない。 一角イノシシのツノだって効率良く売れる素材ではあるが、ぶっちゃけ牙と肉をまるまる持ち帰った方が倍くらいの高値になる。効率が良いだけで、それで生活できるわけじゃない。 「……早くやめたい」 それはそれとして、キャラバンでお荷物扱いされていると思うと心が痛む。今の目標は、キャラバン脱退。 もちろん、そんなことしたら明日から生活できない。じゃあまともな仕事につけるかって言ったら、酒場の店員も鍛冶屋の職人もお屋敷のメイドも勤まるわけない。 つまるところ、冒険者として生きていくしか、アディーには選択肢がないのであった。 |