|
花の塔3階。 そこはリビングメイルーー動く鎧の巣窟だ。どこからともなく湧き出てくる鎧たちは、機械的に近づく生命体を攻撃する。 「ふっ!!」 それら鎧たちの群れを、サフィの槍が引き裂いていく。 「トリアイナ!! 魔力刃展開!!」 「NAI」 三ツ又に分かれた槍の先端。その先に魔力の刃が生まれ、三叉槍から刃槍へと変化する。 「ぶった切れろ!!」 サフィが槍を振り回すたび、鎧たちが引き裂かれ、魔石へと還っていく。 アディーはそんなサフィの動きを見極めながら、ひょいひょいと魔石を拾っていった。腐っても武闘家、さすがに味方の攻撃を貰うようなヘマはできない。 「……」 確かに凄い。アディーより明らかに年下だし、小柄だ。なのにリビングメイル相手に力負けしていない。それどころか、無理やり押し込んでいる。 おそらくは強化術だろう。その魔力運用も凄いが、使っている武器も凄い。 「トリアイナ!! 魔力球放射!!」 「NAI」 生まれた魔力の塊が、背後から迫っていた鎧を殴り飛ばす。こちらは一撃で破壊するほどの威力ではないが、鎧が大きくへこんでいた。 「あの槍、やっぱり……」 声で命令を聞き、声で返している。明らかに意思がある。 非常に珍しい意思のある武器だ。 「はッ!!」 湧き出ていた最後の鎧を砕くと、サフィは槍を一閃し、ぴたりと止めた。 「ふう。あらかた倒しましたか」 「はい、お疲れ様です」 「たいしたことじゃないです。魔石は?」 「あらかた回収してあります」 「……ふうん。存外、使えるじゃないですか」 アディーから魔石の入った革袋を受け取ったサフィは、その中身を確認する。 「まあまあかな。これくらいあれば事足りるでしょう」 「あの。ひとつ聞いてもいいですか?」 「何か」 「その槍は……」 サフィは手に持っていた三叉槍を見やり、 「この子はトリアイナ。ボクの相棒です。トリアイナ、挨拶」 「Υεια σου」 「……なんて?」 「こんにちは、ですよ」 「はぁ……」 アディーはまじまじと槍を見つめ、 「意思ある武器なんて珍しいですね。最前線の人ですら持っていないことが多いのに」 「まあ、裏街道を歩いているとこんなものも手に入るんです。トリアイナは寡黙ですけど、ボクの頼みを聞いてくれますし、魔力を預けておけばボクの代わりに制御してくれます。便利ですよ」 「それはそうでしょうけど……」 便利とは言うが、言うほど簡単ではない。 意思のある武器は、その名の通り、自我がある。彼らが手を貸そうと思う相手にしか手を貸さない。 つまるところ、サフィはトリアイナに認められた主ということだ。 「……」 ただの小悪党がリビングメイルを一蹴することはないし、自我を持つ武器に認められることもない。彼女のやり方は決して誉められたものではないだろうが、それだけの冒険者ではないということだ。 「ちょっと待っててください」 「え? はい」 サフィは座り込むと、リビングメイルの魔石を取り出した。 拾い集めた中でも比較的大きいそれを、サフィはまじまじと見つめる。 「ふむ……。ここか」 サフィがつん、と指で突くと、魔石がほどけていく。 「ッ!?」 そう、ほどけていくとしか表現のしようがない。魔石の表面から糸状の何かがはらはらと落ちていく。サフィの指先はそれらを絡めとり、小さなレンズ状に加工していく。 「いよっ」 くるんと巻き取ると、魔石は一枚のレンズになった。ちょうど親指と人差し指で輪っかを作るとこれくらいになるだろうか。 「はい、報酬です」 「え?」 「これが鑑定に使えるモノクルの材料です。フレームは自分で作ってください。このレンズを通して見ると、偏光が少なくなりますし、素材に宿った魔力質を比べることができるようになります。まあ、鑑定には少しコツが要りますけど、あなたならできるでしょ」 「わ、私が?」 「あなた、ただのネクラかと思いましたけど、なかなかどうしてベテランですね? でなきゃボクの動きに合わせて魔石回収なんて無理でしょう」 どきりとしたが、サフィは気にせず続ける。 「それだけの力があればこのレンズも使いこなせるはずです。魔石拾いの報酬くらいにはちょうどいいでしょう」 「あ、ありがとう、ございます」 レンズを受け取ったアディーは、布切れに包みポーチに仕舞った。 「あの、ちょっと意外でした」 「何がです?」 「報酬を出したことが、です」 てっきりタダ働きかと。 するとサフィは鼻で笑い、 「まあ、クソザコのチンピラだったらそうしましたけどね。あなたはそうじゃないし、迂闊なことして敵に回しても良くなさそうですから」 「そ、そんなに凄くはないですよ?」 「凄いとは言ってません。ボクより強いとも思ってません」 はっきり言う人だ。 「まっ、機嫌がいいってことですよ。ほら、行きましょう。ほっとくとまたぞろリビングメイルが湧いてきますよ」 「あっ、は、はい」 サフィに促され、アディーは荷物を抱え直した。 未開拓地域ーー”異界”から帰る街道上。 町が見えてきたところで、サフィは軽く手をあげた。 「それじゃあこのへんで」 「あっ、はい」 「ゆきずりで連れて行きましたけど、あなたは悪くないです。またボクが使ってあげてもいいですよ」 「あっ、えっ、はい?」 「それじゃ」 ぱっ、と姿を消したサフィ。どこからか、ガサガサと草木の揺れる音がする。 アディーは首をかしげながら、 「私、何かしたっけ……」 魔石を拾い集めただけなのだが、あの人に何か気に入られるようなことでもあったのだろうか。 「まあ、そんなに悪い人じゃなさそうだし……」 確かに詐欺やら何やら、アウトローとの付き合いもありそうだが。 言うほど悪い人のようには思えないのだ。 アディーはポーチに入れたレンズの感触を味わいながら、そんなことを思った。 ぴょこんと生えたウサギ耳。 兎獣人の少女は、ふふん、と鼻を鳴らす。 「ちょうどいいじゃない。アディー・ヒーリね」 つぶやき、少女は裏街道を走り出す。 「あいつを使えば……。【邪魂の像シードル】、作れそうじゃない?」 |