サフィが町まで戻ったのは、まだ日も高い頃だった。
 黒猫亭へ足を向けようとすると、裏通りから人が出てくる。
「ん?」
「あっ」
 アディーと、サフィからすれば知らない少女が一人。
「アディー、また会いましたね」
「サフィさん……。先日はどうも」
 ぺこりと頭を下げるアディー。隣にいた少女はそんなアディーの頭をつかみ、
「どうもじゃないでしょ! ディーちゃん、ちゃんと文句言う時は言わないと!」
「文句? 無理やり連れ出したことですか?」
「そうだけどそうじゃなくて! 魔物を押しつけたことよ!」
「押しつけた?」
 心当たりのないサフィは首をかしげるが、アディーはまあまあ、と取りなす。
「け、喧嘩はよくないので……」
「そーゆーところでへたれるから調子に乗る人がいるんでしょ! 言うべき時はガツン! ってしないと!」
「あの。すみませんが、ボクには心当たりがありません。人違いでは?」
「人違い? アタシだってあなたに会ったもの、間違えようがないわ!」
「会った? ボクに?」
 まじまじと相手の顔を見つめる。魔導師風の可愛い女の子だが、見たことはない。
「やはり勘違いでは? ボクはあなたに会ったこともありませんが」
「えー? そんなはずは……。ねえ、ディーちゃん?」
「そ、そうです、ね」
 つかまれていたアディーもまた、まじまじとサフィを見つめる。
「サフィ、さん。ひとつ聞いてもいいでしょうか」
「なんでしょう」
「先日、月光洞窟に行きましたよね?」
「月光洞窟? ひと月ほど前になら」
「誰かと一緒でしたか?」
「いいえ? ボクは基本的に一人です。花の塔に行った時くらいですよ、誰かと組んだのは」
「……やっぱり」
 ぴしりと服を直したアディーは、サフィを見つめーーかと思うと視線をそらした。
「あの、サフィさん。あなたの偽物がいますよ」
「ボクの偽物?」
「変身魔法が得意な詐欺師が横行しているそうです。心当たり、ありませんか」
「変身魔法……。もしかして嘘つきシャルエンテ?」
「……? ねえ、ディーちゃん。どういうこと?」
 一人、理解をしていないルベルが首をかしげる。
「私が月光洞窟まで同行した相手はサフィではなかったということです。見た目は同じでしたが、思えば意思ある三叉槍トリアイナも使っていませんでしたし、そもそもサフィさんが人に魔物を押しつけて逃げるような真似はしないと思います」
「シャルエンテならありえなくもないかな。以前、あいつを騙してやったことがありますし」
「恨まれていたんですね。で、あなたの姿を使って悪事を働いていた。変身魔法の使い手ならそのくらいは簡単でしょう」
「最近、彼女もいろいろとヤバい橋を渡って、手配されているようですからね。ボクにいくつか責任を押しつけて、自分の仕事をやりやすくしようとしたんでしょう」
「つまり……。ディーちゃんに迷惑をかけたのはサフィちゃんじゃない、ってこと?」
「だからそう言っているでしょう」
 あきれた調子のサフィに、ルベルは素直に頭をさげた。
「ごめんなさい、アタシの早とちりでした」
「構いません。普段からロクなことをしていないのは事実ですから。それよりアディー、シャルエンテと月光洞窟に行ったということは、まさか月光石を?」
「それは採取しました」
「……まずいですね。二人とも、ボクに同行できますか?」
「何かあるんですか」
「移動しながら話しましょう。目的地は【花の塔】です」
 そう言って、サフィは歩き出す。アディーとルベルは顔を見合わせ、サフィの後をついて行った。