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街道を進みながら、サフィは言う。 「ボクが花の塔でリビングメイルを狩ったのも、最終目的は塔の秘宝を手に入れるためです」 「塔の秘宝?」 「はい。花の塔は古いダンジョンですが、未開拓階層があることが最近の研究でわかってきたんです」 「未開拓階層……」 それはどこのダンジョンでもままありうる話だ。あまたのキャラバンが挑戦したとは言っても、人間がやることなら見落としだってある。 「古文書の解読に成功した学者の話では、花の塔はもともと”城”だったようなんです。つまり、花の塔は尖塔の一部であり、上ではなく下に進むのが正解であると」 「地中に城が?」 「土で建物を埋設させる技法は珍しくないでしょう」 「それはそうですけど、規模が大きすぎるような……」 「未開拓地域に常識は通用しません。そして、花の塔で下層へ進むための鍵、それが【邪魂の像シードル】だそうです」 「邪魂の像シードル?」 「月光石を核に、レミアムの水で研磨した像と言われています。特殊な技法が必要だとのことで、その技法は公式には解明されていません。けど、それを解明した商人がいます」 「まさかそれが、シャルエンテさん?」 「正解です。彼女はアウトローの中でも特に掟破りで、儲けるためならなんでもするタイプです。ただ、知識と頭の良さは本物で、学者でも解明できなかった花の塔を攻略する方法を見つけ出したんです」 「なんでそれを知ってるの?」 ルベルの問いかけに、サフィは平然と 「ボクは彼女から邪魂の像シードルの作り方を盗みましたからね」 「……わるわるだー」 「秘匿された知識を公開しただけですよ。ボクが邪魂の像シードルの作り方を知ってるから、焦り出したんでしょう。それでボクの姿を真似てアディーを使い、材料となる月光石を採取した」 「でも、それなら……」 「おそらく彼女は像を完成させているでしょう。ということは、花の塔を降りています」 「でもでも、冒険なら成果は早いもの勝ちでしょ? シャルエンテさんのやろうとしていることは間違っていないんじゃ?」 「まっとうな人間がまっとうに財宝を手に入れるならボクだって横槍しませんよ。けど、花の塔に眠る秘宝は別です。シャルエンテみたいなタイプが手に入れるのは絶対にまずい」 「どういう秘宝なんですか」 「古文書に記された名前は【幻惑の鏡】。なんでも、鏡を見た相手の意識を意のままに操ることができるようになるアイテムーー平たく言えば、相手を催眠状態にするアイテムです」 「……なるほど、まずそうですね」 相手を意のままにできるアイテム。普通の人が手に入れても色々と心が乱されそうな道具ではあるが、ましてや犯罪上等な人物が手に入れたとなれば……。 「まあ、幻惑の鏡なんてボクには通じないかもしれませんが、ボクとて社会の混乱を望んでいるわけじゃありません。シャルエンテを止めるなら今しかない」 「サフィには通じないの?」 「……」 サフィは黙って片目を覆い隠していた眼帯を剥がした。 まるで宝石のような、綺麗な紅い瞳。 「見ての通りです」 「……何それ? 充血?」 「バカですか」 「ディーちゃーん! 面と向かってバカって言われたー!!」 アディーは苦笑し、 「紅色の光彩に、深紅の瞳孔。通常ではありえない瞳の色ですね。いわゆる忌み児の特徴です」 「忌み児って……」 「ボクの体内にはいくらか闇の魔力があります。普通の人間なら闇の魔力は体内に入っただけで体調を崩しますが、ボクは自分の体内で闇の魔力を生成できる。いわば、魔獣と同じです」 魔獣と同じとは言うが、それは魔力の質に関する話。肉体はあくまで人間であり、過去の事例を見ても、普通に生活する分には問題がない。だが、周囲はそういう目では見ないだろう。 アディーの持つ、闇の魔力を受け入れられる才能とはまた違う。生まれながらに”闇の魔力を持っている”という才能。 それは光の種族にとって、完全な異質の才能だ。 「ボクは幼い頃に天涯孤独となりました。忌み児の力ーー光と闇の両魔力を生かし、なんとか生きてきたんです。そのせいで敵も多いですし、そもそも受け入れてくれる人なんていません。まあ、それは余談ですが」 サフィは眼帯を戻しながら、 「闇の魔力が混じるせいで、ボクは魔法に対する抵抗力が人よりもかなり強い。幻惑の鏡と言えど、ボクを操作するのはそう簡単ではないでしょう。だから、これはボク個人としては問題じゃないんです。わかりますか?」 「……でも、それなら無理してシャルエンテさんを追いかける必要なんてないんじゃ?」 「さっきも言ったでしょう。ボクとて社会の混乱を望むわけじゃないんです。安定していないとボクも生活しにくくなりますしね」 サフィの言葉に、アディーはくすりと笑った。 「何かおかしいですか?」 「あっ、その、いえ。ただ、もう少し素直になってもいいんじゃないかな、なんて」 「素直に?」 「私は、いつだってボッチでした。でもそれは、私が人とうまく協調できないだけです。サフィさんみたいに、自分ではどうにもならない理由で迫害されているわけじゃなくて、ただ私の努力が足りないだけ……。あなたは一人で立派に生きて、それでいて社会の秩序を乱そうとしているシャルエンテさんを止めようとまでしている。立派なことじゃないですか」 「……」 「私も今はルベルがいますけど、サフィさんだって、こういうことしてるって皆が知れば、認めてくれると思うんです。たとえ忌み児だとしても」 「そうそう人はうまくありませんよ。異物は排除する方が集団としてはいいんです」 「排除されたっていいじゃないですか。どこかで認めてくれる人だっているんだから」 「……ふん。ほら、もうすぐ花の塔ですよ。気を引き締めてください」 槍を手に取るサフィ。その横顔は、少しだけ赤く染まっていた。 そんなサフィを、アディーとルベルは微笑ましく見守っていた。 花の塔1階。そこは2階へ昇る螺旋階段しかない、開けたスペースだった。 だが、今はその中央に、下り階段が存在している。 「やはりシャルエンテが先行したようですね。追いかけましょう」 頷き合い、三人は薄暗い階段を照らしながら駆け降りる。すると、開けたフロアに出た。 天井が高く、明かりでは照らしきれない。レンガで作られた通路がどこまでも伸びているように感じられる。そこここに並ぶ柱は、アディーが抱えられないほどに太かった。 「ここは……」 「学者の研究通りなら、城のどこかということになるでしょうね。お宝がどこにあるかは分かりませんが、普通なら宝物庫といったところでしょうか」 「倉庫なんてどこにあるか分からないよね?」 「別に倉庫の場所を知りたいわけじゃありません。シャルエンテの居場所を知りたいだけです」 「それも調べようがないんじゃ……」 「それはボクが」 サフィは屈みこみ、地面に手をつける。 「出よ我が血肉。立ち上がれ南洋の風。《サモンレスク》」 ぼこぼこと床石が動き、小さな人形たちが生まれる。四角いブロックを繋ぎ合わせたような不格好さだが、最低限動作はするようだ。 「ボクの作ったゴーレムです。未知のお宝を探せ、なんて面倒なプログラムはできませんが、生きている人間を探せ、なんてのは割とできます。もともとは救助用の魔法ですから」 「じゃあ、この子たちで……」 「シャルエンテを捜索します。行け!」 ぱたぱたと手足を動かしながら、ゴーレムたちが駆けていく。 「今ので、こちらが追いかけていることもすぐにバレると思います。急ぎますよ」 槍を振り回しながら、サフィはゴーレムを追いかける。そのすぐ後を、ルベルとアディーは走り出した。 |