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巨大な石人は両腕を振り上げる。 「散開しろッ!!」 叫びながら、サフィは飛び出していた。その後ろを豪腕と共に暴風が吹き抜ける。 幸いと言うべきか、部屋は広く、逃げ場は多い。距離を置いたサフィは、改めて敵をにらんだ。 「ゴーレム……。いや、守護石像!? 迂闊でした!」 それはそうだ。未開拓の宝物庫。防衛がいないなんて思う方がおかしいではないか。 ガーゴイルという魔物は、主に宝物が存在する場所に自然発生する。まるで金品を守るように存在することから、守護石像と名付けられた。 主に貴金属をコアにして生まれる彼らは、他の魔物と同様に人間を襲う性質がありーーそして、強固な体を持っている。 「なにせ体が石みたいなものですからね……!」 トリアイナで一撃。振り回した槍の一撃をもってしても、石像はかすり傷さえつかない。 そう、これが石像たちの厄介なところだ。剣や槍でダメージを与えることが難しい。強固な体を破壊するには、鎚などの叩き潰す武器か、魔法による破砕が有効だ。 だがーー。 「……」 ちらりと後ろを見る。なんとか逃げた様子のアディーとルベルだが、あの二人は戦力として期待できない。 アディーは素手の武闘家だ。鍛えあげた武闘家ならば石像も破壊できるというが、アディーにそこまで期待はしていない。 ーー実際は闇モードなら十分に可能だが、サフィはその事実を知らない。 そしてルベル。ここまでの道中でも、彼女が魔法使いとして使い物にならないことはすでに理解している。攻撃魔法などろくに扱えない魔法使いでは、石像の相手は難しかろう。 「またボク一人、ですか」 いつだってそうだ。いつだって自分一人でやるしかない。 本来なら、こんな面倒な相手はアディーやルベルに押し付けて、自分は逃げてしまった方が無難だ。巨体を誇る石像だけに、狭い通路に逃げ込めば追いかけてこられないだろう。 だが、そうすれば、どんくさいルベルは確実に死ぬし、アディーもなんだかんだルベルと結果を共にしてしまうだろう。 そう、二人とも死ぬ。ルベルも……。そして、アディー・ヒーリも。 「……ちっ!!」 サフィは槍を握り直し、 「ガーゴイル!! こっちだ!!」 身を低くしながら突っ込む。全身をひねり、全力全開で槍を突き出す! 「ぐっ!!」 だが、弾かれる。 石を槍で殴ったところで、割れるわけではない。相性が悪いことに変わりはない。 お返しとばかり、石像は腕を振り上げ、打ち下ろす。 「いっ!?」 パンチ一発で床石が割れた。やはりこれだけの巨体、パワーも並ではない。 部屋は広く、余計な柱などがない。最初から石像が暴れることを想定しているような作りだ。パッと見渡す限り部屋に宝物の類はなく、奥にさらなる扉がある。最初から、この部屋は門番の控え室というわけか。 石像は、なおもサフィを狙い続ける。どうやら完全に敵性と認識したらしい。 「それ、なら……!! トリアイナ!!」 「NAI」 その目を覆い隠した眼帯を取り去り、投げ捨てる。 深紅の瞳が魔物を捉えた。 「魔力鎚!! 展開!!!」 槍先を魔力で覆った、強引なハンマー。 トリアイナは賢い武器だ。サフィが魔力を注ぎ込めば、勝手に制御して自在に武器を作ってくれる。 ただ、いつもの魔力刃とは違い、ハンマーはかなりの魔力を消費する。長時間の戦闘は無理だ。 「ふっ!!」 短期で、一気に沈めるしかない。 動きのにぶい石像を、後ろから殴りつける。衝撃に、腕の一部が欠け落ちた。 「よっしゃああああああああ!!」 ぶんぶんとハンマーを振り回す。数回の打撃で、徐々に腕がひび割れていく。 「砕けろッ!!」 全体重と共に、ハンマーを打ち下ろす。そのまま、力任せに振り抜いた。 砕ける腕石。パラパラと落ちた石はとうとう腕を支えられなくなり、まるごとゴトンと地面に落ちた。 「よしっ!」 これで腕をひとつ破壊した。片腕ならば相手の攻撃手段は限られるーー。 そう思った、次の瞬間。 「サフィ!! 逃げて!!」 「え? っ!?」 腕が跳んだ。 跳びはねた腕から逃げきれず、そのまま掴まれてしまう。 「こ、いつ……。ガーゴイルじゃない!?」 「サフィさん!! こいつは岩石生命体……!! 石そのものが魔物です!!」 「そういうことかッ……!!」 ガーゴイルは、貴金属をコアにしたひとつの魔物だ。ゆえに粉砕すれば倒すことができる。 一方で、岩石生命体と呼ばれる魔物は、岩や泥、鉄などがそのまま意思を持っている。いわば群体で、それぞれが別個の魔物だ。 「こいつ、腕と体は別の魔物だったの……!? くそっ!!」 巨大な腕につかまれて身動きができない。サフィが気付いた時にはすでに遅く、そのまま意識を失った。 |