嘘つきシャルエンテ。詐欺と窃盗の常習犯。
 サフィが”悪人だけ”を相手にするのに対し、シャルエンテは”誰でも”食い物にする。当然ながら色々なところで目をつけられているが、得意の変身魔法により姿を変えられるため、捕まったことは一度もない。
 そのゆえんは、彼女特有の魔法体系にある。
 普通の変身魔法は性別や種族を変えることが精一杯だが、シャルエンテは構造・・さえ変化させる。
 すなわち鳥にも魚にも、犬猫や野うさぎ、トカゲに蛙と、変化できるレパートリーは枚挙に暇がない。
 この魔法が使えるのは知られる限りシャルエンテ一人だけ。ゆえに彼女を捉えることは困難なのだ。
 そしてそれは、今もそう。
「くふふ」
 こそこそと守護者の間を歩く小さなトカゲ。その正体は、当然シャルエンテだ。
「ヤバい魔物はサフィに任せようって思っていたけど……。とんだ掘り出し物だわ」
 探索魔法により、サフィは扉を開く前からスピリットの存在に気付いていた。同時にサフィたちが迫っていることも理解していたので、魔物を押し付けようと隠れていたのだ。
 サフィがやられた時にはヤバいと思ったが、まさか同行の陰キャがここまでやれるとは。
「ラッキーラッキー、っと」
 シャルエンテはこそこそ、奥の扉に取りつく。サフィたちは小さなトカゲなど気付かぬまま、最奥の扉を開いた。
「おおっ」
 守護者の間から進んだ先。そこは宝物庫そのものだった。
 キラキラと輝く金銀財宝。それらが小山になって積まれている。もちろん金目のものも欲しいが、最も欲しいのはそれではない。
 最上級のお宝ーー【幻惑の鏡】だ。
 鏡を見せた相手の意識を奪い、意のままに操ることができるようになるアイテム。それさえ使えば、もう窃盗なんて面倒な真似をする必要もないし、詐欺を働いて追いかけられるような手間をかける必要もなくなる。
 トカゲとなったシャルエンテはこそこそとお宝の中を探して回る。鏡はどこか、と。
「……?」
 だが、お宝の山に鏡が見当たらない。黄金の像も銀のティアラもある、ルビーの指輪やエメラルドのネックレスもある。だが、肝心の鏡だけが見つからない。
「どう、して……」
 ふと。シャルエンテは上を見上げた。そして、絶句する。
「……!!」
 宝物庫の天井。大きさは先ほどの守護者がいた部屋と同じくらいだろうか。
 その天井いっぱいに、キラキラとした輝きが映っている。否、反射している。
「ま、さか」
 天井いっぱいのーー鏡。
「これ、が……。幻惑の鏡」
 あんな巨大な鏡をどうしろと言うのか。
 そう思った次の瞬間、
「ッ!?」
 ぽん、と全身が煙に包まれた。気付けば、兎獣人の姿に戻っている。
「か、解呪魔法!? なんで……」
「なんでというのはいささか甘すぎるでしょう。嘘つきシャルエンテ」
 冷めきった声に振り返る。トリアイナを構えたサフィが、目の前にいた。その後ろでは、彼女の仲間である二人も構えている。
「ボクがあなたの変身魔法を見破れないとでも? 人の名前を使って、好き放題してくれたようじゃないですか」
「サ、サフィ……。まあまあ、どうどう」
「まあ、アウトロー同士ですので? 実力ある者がその他の者を虐げるのは当然ですが。それはすなわち、今ここでボコボコにされても文句は言えないということですね?」
「いや、まあ、その、あはは」
「……と、思いましたが」
 すっ、と槍を引いた。その挙動に、両手をあげていたシャルエンテも首をかしげる。
「あなたとの付き合いも短くはありませんし、今後、ボクに迷惑をかけないと言うのであれば、ここは見逃しましょう」
「……どういう風の吹き回しさ。あのサフィらしくもない」
「なに。人に誇れないことはしたくない気分なんですよ」
 サフィは天井を見上げ、
「あれが幻惑の鏡ですか。あの手のマジックアイテムは、少しでも破損させると効力を失う。つまるところ、あの鏡は動かしようがありません」
「……そのようだね」
「お互い、狙っていた財宝が手に入らなかったんです。ここは宝物庫の財宝で手打ちにしましょう」
「ちっ。あーあ、大損だね」
「これだけの財宝があるんだから、とんとんでしょう」
「あんたはね。こっちは投資してるの。こんな黄金細工、異界じゃちょいちょい出るやつじゃん。町中のチンピラならともかく、こちとら大泥棒よ? この程度じゃ大損だってーの」
「それは知りませんでした」
「よく言うわ。ま、貰えるもんは貰っておくけどさ。お宝まで分けるなんて、本当に気持ち悪いね」
 サフィはちらりと後ろを見やる。仲間の笑顔を見たサフィは、くすりと笑った。
「そういう人らなんですよ、この人たちは」

☆   ☆   ☆   ☆


 持ち帰ることのできる財宝を持ち帰り、シャルエンテは姿を消した。
 アディー、ルベル、サフィの三人は、ゆっくりと帰路につく。遠くに見える夕日で、三人の影は長く伸びていた。
「結果的に、シャルエンテを追いかける必要はありませんでしたね」
「まさか持ち帰れないお宝もあるなんて……。未開拓地域って奥が深いね」
「まあ、色々と理屈に合わないことが起きるっていうのが未開拓地域ですからね。誰がなぜ、どうやって作ったのかも分かっていない。迷宮が自然現象で発生することはないでしょうし」
「たしか、千年以上前から未開拓地域を探索した人っているんですよね」
「ええ。そういう連中の残した古文書を漁るのは楽しいですよ。アディーもやりますか?」
「あっ、いえ、私は……」
 ぴたり、とサフィが足を止める。つられて二人も足を止めた。
「では、アディー。鑑定士を雇いませんか」
「鑑定士?」
「ええ。実は有能な鑑定士が暇していましてね。見たところ、アディーもルベルも鑑定は苦手でしょう」
「それは、まあ」
 鑑定眼はやはり本職でなければ難しいところが発生する。その点、武闘家であるアディーと見習い魔法使いのルベルでは、とてもではないけれど真贋の鑑定も、重要度を調べることもできない。
「ボクが誰かと行動したことはありません。この目がありますからね。でも、あなたたちは、ボクを差別しなさそうだ。あなたたちになら雇われてあげてもいいですよ」
 アディーとルベルは顔を見合わせ、にこりと笑った。
「それじゃあ、よろしくお願いします。サフィさん」
「こちらこそ。アディー・ヒーリ」
 ぐっと握手を交わす。
 そのぬくもりは、サフィが久しく忘れていたものだった。