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 昼過ぎ。パレードが開始された。
 予定通り王城を出たパレード隊は、規定のルートを進んでいく。たまに入る連絡では、予定通り進んでいるようだ。
 リオンが警備を担当しているのは、そんな規定ルートの終盤近く。王城まで戻る一直線の道で、市民の誘導を行う係だ。
「立ち止まらないでくださーい! 通路を塞がないでー! そこは場所取り禁止ですよー!」
 一生懸命に声を張り上げながら、人の流れを誘導する。かたやではアレンが規制線をキープしており、かたやではクレアが場所取りしている連中に注意をしている。一方でリトは、
「ええい、座り込むなと言っているだろうが!!」
「先輩! 幻装は駄目です!!」
 後輩らしい軍人に羽交い締めにされていた。なぜあの人は仕事を増やしているのだろう……。
 それにしても、と周囲を見渡す。
 本当に人出が多い。通りの向こう側は見渡せず、規制線の内側だけが不自然に空間として空いている。
 やはり、だれもかれも、王族を見たいのだ。特に今日は、あまり表に出ないという姫まで出る。それだけ、観客も多い。
「この中に、テロリストが……」
 混じっているかもしれない。そう思うと、ごくり、と喉がなる。
 緊張の面持ちで待つこといくばくか。
「来たぞぉ!」
 観客の声に、思わず通りの向こう側を見た。
 先頭は白馬に乗った近衛隊員。その後ろを護衛が続き、そして、豪奢な馬車が続く。
 開けた馬車には、二人の姿があった。かたやは丸々と太った初老の男性。国王カルロス・ジェルニアンだ。
 そして、その隣にいるのは、豪奢なドレスを身に纏った女性だった。黄金色の髪に、すっきりした顔立ち。絶世の美女というわけではないが、愛嬌のある、なんとなく素朴な感じがする出で立ちだ。
「あれがお姫様……」
 リオンも、姫を見るのは初めてだ。親子そろって表情が少し固いが、やはり疲れが出てきているのだろうか。
 そのまま馬車が進んでいく、その途中。
「ッ!? あ、おい!!」
 突然、先頭を歩む馬が暴れ出した。騎手の命令も聞かず、ヒヒヒンと鳴き叫ぶ。
「な、なんだろう?」
 リオンも首をかしげていると、そのまま馬が駆け出した。
「何をしているのだ馬鹿者!!」
 群集の列からリトが飛び出し、多節剣で馬の足を払う。倒れ伏す馬、
投げ出される騎手。だが、そんなものに構う暇はない。
「陛下!!」
 叫んだのは誰だったか。馬が暴れ、近衛隊の注意がそれた、わずかな瞬間。その瞬間に、群集からいくつもの影が飛び出していた。
「ッ!!」
 王のすぐ近くにいた近衛隊員が、影を弾く。空中でくるくると回転しながら着地したのは、人とも狼ともつかない何者かたち。手にきらめくのは、ナイフのごとき鋭さを持つ爪。
「魔物!?」
「仕留めろ!!」
 慌てて近衛隊員たちが幻装を作る中、狼人間たちは散開した。一部は王族へ、一部は群集の方へ走っていく。その目は血走っており、どう見ても正気とは思えない。
 その目を見た時、リオンは駆け出していた。
「さっせない!!」
 観客と狼人間の間に飛び込んだリオン。振り上げた爪を、ぎりぎり支給品のナイフで受け止める。
「ぐらぁ!!」
 叫ぶ狼は、そのまま爪を翻す。リオンの腕が裂かれ、血が飛び散る。ヤバいと思った次の瞬間、
「よくやったリオン!!」
 突然、目の前にいた狼が弾かれた。目の前を鋼鉄がよぎるーーリトの【気まぐれな蛇の女王リープスネイク】だ!
「ふざけろ!!」
 リトの振るう剣が狼を打ちのめす。たったの一撃で、相手は見事に昏倒した。
 見れば、周囲に散っていた狼たちも、近衛隊に取り押さえられている。ほっとしたのもつかの間、ずきんと腕が痛んだ。
「いてて……」
「ちょっとあなた」
 振り返ると、観客の姿があった。フードを目深にかぶってはいるが、声は女のものだ。
「だ、大丈夫なの? 血がたくさん……」
「大丈夫ですよ、それよりお怪我はありませんか?」
 やせ我慢だったが、そう言った。市民に、痛くて痛くてダメです、とは言えない。
「ソ……、あたしは大丈夫、だけど。もうっ、シンたら、こんな時に何をしているのよ! あなた、すぐ手当しなきゃ!」
「お気になさらず。それが僕の仕事ですから」
 無理やり笑い、それでも我慢の限界だったので、一礼して仲間のもとに向かう。
「リオン!」
 すぐさま駆け寄ってきたのはクレアだ。遅れて、アレンとリトも来てくれる。
「よくやったぞ、リオン! よくぞ市民を守った!」
 リオンを褒めながら、リトは腰のポーチから魔術の媒介となる石を取り出す。
 ぶつぶつと口の中で小さくつぶやくと、石が輝き、中に宿る魔力がほどける。糸状になった魔力はリオンの腕に絡み付くと、青白い光を発した。
「あ……」
 徐々に痛みが引いていく。治癒の魔術か。
 やがて、先ほどの傷は跡形もなくなってしまった。
「一応、治療はしたが、後で専門の医者に診てもらえ。あたしは本職じゃないからな、綺麗にくっついたか分からん」
「ありがとうございます」
「なに。お前こそよくやった。近衛の連中、王族しか守りはしないからな。お前がいなかったら、市民が傷つけられているところだった」
「それはいいけど! 無茶しすぎよ、自分が殺されたらどうするつもりだったの!」
 ぷんすかと怒っているクレアに、アレンは言う。
「市民を守って殉職するなら本望だろう」
「そんなわけないでしょ! こっちだって仕事なんだから! 命を投げ出すのは違うわ!」
「我が身を盾にするのは軍務だろう!」
「おい、お前ら、反省会は後にしろ。いったん下がるぞ」
 周囲を見渡せば、今の騒動で群集たちは混乱寸前だ。それを、警備についていた軍人たちが必死になだめている。
「リオン、お前は治療直後で体力を消耗しているはずだ。待機所に下がれ。クレア、アレン! 市民誘導!」
「はい」
「はーい」
「わ、わかりました!」
 一人だけ待機を命じられたリオンは、群集から離れる方向に向かう。王城前広場には、今回のパレードに合わせた警備部門の待機所がある。
 そこに向かおうとしたリオンは、自分に送られている視線に気付かなかった。

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 一方、その頃。
 パレードから少し離れたところにある路地裏。そこに、フードを目深にかぶった人物の姿がある。
「ちょっと、シン!」
 少女の声に、闇から影がにじみ出す。
 それは、闇色のスーツを着た長身の女だった。姫付きの護衛、シン・ディレクだ。
 シンの姿を認めた少女は、フードを下ろす。その下から、美しい金髪がこぼれ落ちた。
 ソフィア・ジェルニアン。姫その人であった。
 ソフィアはシンをにらみ、
「お呼びですか」
「お呼びじゃないわよ! ソフィの護衛をするのがあなたの仕事でしょう! 何をしていたのよ!」
「護衛ですが」
「だってあの狼、ソフィを斬ろうとしていたじゃない!」
「あの一撃は、軍務の少年がカバーできると分かっていましたので。それよりも、狙撃を潰すのに手間取りました」
「狙撃?」
「こいつですが」
 ひょい、とシンが持ち上げたのは、シンと同じように闇色のスーツを身に纏った男だった。完全に気絶しているが、その顔は先ほど暴れていた連中と同じ、狼のそれだ。
「建物の上から狙っていました。下で暴れた連中は陽動でしょう。最初に馬が暴れたのは、こいつの狙撃に馬が驚いたからです。馬は人間以上に敏感ですから」
 そう言って、男が持っていたらしい武器を見せる。媒介をエネルギー源に、魔術による弾が飛び出す武器だ。金がかかる上に、魔物相手にはたいした威力も出ない武器だが、命中させられれば、人間程度は殺すことができる。
 それを見たソフィアは、
「……なに仕事してるのよ!?」
「仕事をしていたんですが」
「もうっ、それならそうと言いなさいよ!」
「今言いました」
 男を担ぎ直したシンは、
「トラブルが発生した以上、お遊びはおしまいです。戻っていただきますよ、姫」
「……しょうがないわね。サブリナにも悪いことしちゃったわ」
 替え玉に使ったメイドの名を呼びつつ、姫は嘆息する。
「あーあ、ちょっと町で遊ぶだけのつもりだったんだけどなぁ」
「入れ替わったサブリナを見た時の酒樽は物凄い表情をしていましたが」
「だって言ってないもん。大丈夫、サブリナ、ソフィに似てたでしょ。同じ格好だし、金髪だし」
「顔が違います」
「みんなソフィの顔なんて知らないもん」
 ソフィアからすれば、ようよう城から出られるチャンスだったのだ。このチャンス、みすみす逃すつもりはなかった。もちろん護衛としてはシンがついてきていたし、特に不安もなかったのだが……。
 まさか、本当にテロが起きるとは。
「それにしても、ソフィを守ったあの軍人、とってもかっこよかったわね!」
「あの少年ですか。まあ、身を呈して守るというのは、軍務としては適切ですね」
「でも、なかなか実際にできることじゃないわ! そうだ、シン、彼を近衛にしましょ! シンの部下に!」
「近衛隊に、ですか」
「そうよ、ソフィを守る役目なら、やっぱり、いざって時に動ける人でなきゃ!」
「一理はありますが……。わかりました、彼の所属を調べます」
「お願いね! ふふん、パレードもたまには悪くないわね!」
 鼻歌交じりに王城を目指す姫。シンはその後ろで、狙撃手を引きずりながら、どうやって彼の所属を調べようかと考えていた。