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王城公園。 魔物に囲まれた中において、オーサ・メイザーは冷静だった。 「うふふ。見てごらんなさい、この変わり果てた世界を」 闇色の光は柱となり、天高くそびえている。光からは次々と魔物が生まれ、飛びだし、いずこかへと消え去っていく。 遠くから聞こえるのは阿鼻叫喚。かおるのは血臭。 リオンの手は、意図せず震える。 「あ、あなた、なんてことを……」 「何を言っているの? 私は、ただ術式を起動させただけ。これが、ラストスペルの正体」 「これが、こんなものが?」 「そうよ。あははは! そうよ、ブライト・フェルカは300年も前に、すでに仕込んでいたのよ! 人類を破滅させるキーを!!」 天を仰ぎ、オーサは叫ぶ。 「この魔術は誰にも崩せないわ! この公園を中心にした魔法陣は、300年間、魔力を蓄えつづけてきた! そして、今も周囲の魔力を吸収しつづけている! もはや王都内で魔術なんて使えないわ! だから亜人を追放すべきじゃなかったのよ! 亜人さえいれば、対抗できたかもしれないのにね!!」 ギリ、とリオンは歯がみする。 「あ、あなた、自分が何をしたか、理解しているんですか!?」 「当たり前でしょう! 私は亜人オーサ・メイザー! 亜人の未来を紡ぐ女よ!!」 ぎゅっ、と目をつぶったリオンは、オーサの頬をはたく。 ぱん、と軽い音が響く。 「人間を皆殺しにしたって……。そんな血塗られた土地に、亜人の幸せなんかない!!」 「……綺麗事を。いいわ、どうせ人間は滅びるんだもの。いまさら手遅れよ! それとも、あなたが止めてみせる!?」 「もちろんっ!!」 「あなたは亜人だわ。亜人ならば、自分自身の中に宿る魔力を使って、対抗できるでしょう。けど、それで人類が救われたとしても、誰もあなたには感謝しない! なぜならあなたが亜人だから! 魔物が魔物から守ってくれたといったところで、感謝する人間なんていやしないわ!!」 「ッ……!!」 そうだ、と気づく。 自分が、亜人としての力を発揮すれば、あるいは何かができるかもしれない。少なくても、多少の人間は逃がせるはずだ。 だが、それは、自分の正体がバレることを意味する。 そうなれば、たとえ人類が救われたとしても、自分は王都にはいられない。それどころか、人類の居住域にすらいられなくなる。 両親とも、故郷の友人たちとも……、自分を好きだと言ってくれた少女さえも、もう会えなくなる。 「そうよ、亜人に立場なんてないの!! それを私が変えてあげようと言うのよ!! あなたは私に従うしかないのよ!!」 一転。オーサは妖艶な笑みを浮かべる。 「あなたは、人間も亜人もひきつける魅力があるわ。私と共に来なさい。亜人の国を作る、その旗頭になるのよ」 「誰がそんなこと……!」 「よく考えなさい。このままでは、人間はあなたを受け入れない。けれど、亜人は亜人に優しくするわ。人間に迫害されて生きるよりも、亜人のハーレムでも作った方が幸せよ? 亜人なら、人間にはできないプレイもできるわ」 くすくすと笑う。 「そう、あなたは私と共に来るしかないの。それ以外に選択肢はない。人間などという、屑のような生き物とは共に生きられないのよ!」 「……違う」 その言葉は、考える前に口から飛び出していた。 「違う! そんなのが正しいはずがない!」 「何が違うと言うの? そうしなければ、あなたは追放されるのよ!!」 「それがどうした!!」 家族にも、友人にも、仲間にも会えなくなるかもしれない。 それでも!! 「目の前の救える命を救わないで!! 何が軍人だッ!!」 ぐっ、と力を込める。力の出し方など教わったこともないが、すぐに、そんなものは教わる必要がないのだと気づいた。 子供だって、教えられずとも歩き方は学ぶ。それは、生物としての本能なのだ。 亜人としての本能が告げている。そのまま感情に身を任せろと。 そうすれば、後は応えてくれると!! 「させない……。滅亡なんて! 僕が、させるもんか!!」 胸の奥が熱い。 体の底から力が沸いて来る。 それは、銀色に輝いていた。リオンの全身が、美しい光に包まれている。 「これが、僕のーー幻装だ!!」 次の瞬間、リオンはその姿を変えていた。 銀色に輝く手足。長く伸びる尾に、兜を思わせる鱗。 機竜種。金属の鱗を持つ、亜人の中でも特に珍しい”隠蔽型”。 「くそっ!」 リオンは思い切りジャンプした。体がいつもより遥かに軽い。 建物を飛び越す勢いで飛び上がったリオンは、手近にいた猛禽のような魔物を殴り飛ばす。一撃で霧となった魔物には目もくれず、次の獲物へ。 地上を駆ける狼を踏み潰し、人を襲おうとしていた熊を蹴り抜き、火を吹く蜥蜴は殴りつける。 だが、それでも魔物の数はまったく減らない。それどころか、増える一方だ。 「なんとかしなきゃ……。でも、なんとかって、どうしたら!」 無我夢中で魔物を蹴散らしながら駆け抜ける。視界に入ったのは、見慣れた仲間たち。 「リトさん!」 「なっ……いや、リオンか!!」 幻装を振り上げ、目の前にいた魔物を切り倒したリトは、息を整える。その後ろでは、アレンがショートソードを構えていた。 と、リトの後ろから、クレアが飛び出してくる。 「リオン、よかった無事で!」 「わっ、と……。クレアこそ。リトさんも、アレンも、よくぞ無事で」 「無事とは言いがたいがな。というか、ここから出ることもできん」 汗を拭い、リトは言う。 「お前、今までどこにいたんだ」 「王城公園に! リトさん、オーサが、フェルカのラストスペルを発動させたんです! それ以上は、僕にはわからないんですけど……」 「クレアが解析した。こっちはわかってるぞ」 リトが視線で促すと、クレアは頷く。 「この魔術は、大気中の魔力を強制的に集め、魔物を形成しているわ。その術式に重ねがけして、魔物を形成するのではなく、別の……たとえば光とかを形成させるの。そのうえで術式を強化すれば、足りない魔力は、より効率的に魔力を集められる存在ーー魔物から集めるしかなくなる!」 ばっ、とクレアはノートを見せる。 そこに並ぶ数式の羅列は、リオンには意味もわからなかったが……。 「そ、そんなことが……」 「もちろん簡単じゃないわ! でも、やるしかない! フェルカの術式が起動したというなら、わたしがフェルカを超えるだけよ!!」 ごくりと喉が鳴る。それは、可能性の芽だ。 「……現状、魔力濃度が薄すぎて、よほど上位の術者でないと幻装さえ作れないようだ。あたしはなんとか作ったが、アレンは生成に失敗した」 「クレアの考えた術式も、もちろん起動に大量の魔力が必要だ。現状、それほどの魔力を集めるのは不可能だ。となれば、大量の媒介を使うしかない。それが、王城になら、ある」 「王城……。わかりました! じゃあ、僕が王城までの道を切り開きます!」 その言葉に、リトはにやりと笑った。 「言うようになったじゃないか。よし、じゃあそうしよう。リオン、アレン、クレアを守れ。こいつは今、魔術が一切使えない一般人だと思え」 「了解です!」 「じゃあ、教導隊! 出撃するぞ!」 「はい!!」 力強い返事とともに、四人は駆け出した。 |