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王城までの道のりは、すでに地獄だった。 あちこちに魔物が徘徊しており、それらをリトとリオンが蹴散らしていく。 そこかしこに転がっている人間は、同じく転戦しているらしい警邏隊に任せざるをえなかった。動かない人間に構っている余裕はなかった。 メインストリートを駆け抜ける。王城の門は、何かで殴られたようにひしゃげていた。まともに開閉すらできなくなっていたが、隙間を抜けて城の中に入る。 「どこに行けばいいんですか!」 「謁見の間だ!」 先頭を進むリオンはアレンに聞きつつ、しかし足を止める。 「くっ……! 城の中にまで!?」 魔物だ。両腕が丸太のように太い類人猿。城の通路は狭くないが、暴れ回るには物足りない。 リオンが構えた直後、 「せえああああああああ!!」 叫び声とともに、魔物の姿が消し飛ぶ。後ろから飛び出してきたのは、翼を持つ女。 「シンさん!?」 「君達は……リオン君? 君も亜人だったのですか」 驚愕を浮かべるシン・ディレク。その後ろに、ソフィア姫とお付きのメイドまで連れている。 「姫様、よくぞご無事で」 「ソフィのことはいいわ。それより、ここも危ないわよ!」 「いえ、この先に……謁見の間に行きたいんですが」 「え、謁見の間!? 何しに!」 「謁見の間に、巨大媒介があるはずです!」 叫んだのはアレンだ。 それを聞いて、シンもハッとする。 「確かにあります。リベット家から贈られた彫刻……あれは魔力媒介を用いて作られたものです」 「媒介……。でも、魔術を使ったところで、焼石に水でしょ!」 「クレアがなんとかしてくれます!!」 力強く言ったのは、本人ではなく、リオンだった。 「状況は最悪かもしれません。でも、このまま手をこまねいたら、町中の人が殺されてしまう! なんとかしなきゃいけないんです!」 「それは、そうだけど……。勝算はあるのね!?」 クレアは頷く。 「理論上は。やれるかやれないか、やってみるしかありません」 「……わかったわ。ソフィア・ジェルニアンが命じます! 教導隊、謁見の間に赴き、事態を打開なさい! シン、サブリナ! この者たちの援護を!」 「現状、姫をお守りするので手一杯なのですが」 「なんとかしなさい! あなたはソフィの護衛でしょう!!」 「ふっ。了解しました。では、皆さん、無理やりショートカットします。対衝撃防御!!」 ぐっ、と力を込めたシンは、いきなり天井をぶち破った。 「っ!?」 石造りの廊下を貫通し、上の階層へと通路を作る。謁見の間は、この方が近い。 「こちらへ!」 今度はシンが案内役となった。 広くなった通路を駆け抜ける。右に左に、たまに壁をぶち壊し。 最後には謁見の間の扉を蹴破って、中に飛び込んだ。 いつか見た玉座。その後ろに、青い光をたたえるオブジェ。 「あれが媒介だ!」 「任せて!」 クレアは媒介に飛びつくと、杖でそれを叩きながら、詠唱を始める。 「記憶を喰らいし幻想を。紡げ紡げよ桃源郷。天の剣、地の長杖」 オブジェが放つ光が徐々に増し、部屋が青く染まっていく。 「一夜限りの饗宴を。英雄振るいし一閃を。鳴り響く鈴、轟く鬨の声」 杖を中心に光が集まり、うねり、渦を巻いていく。 「闇を抱き、光を喰らい、それでも叶わぬ夢の中。来たれ神界、悪鬼の剛腕」 その場にいる誰も、クレアが何をしているのかは理解できていない。だが、今は、彼女を信じるしかないのだ。 クレア・ウィルジーヌという天才が、天才魔術師を超えることを。 「走れ走れ! 晴れよ混濁! 吠えろ刃風! 汝が力は誰が為か!」 光が変化する。杖とともに。 ただの短い杖だったものが、姿を変えていく。より細く。より長く。より硬質に。 「我が名のもとに、ここに誓う! 祓魔の王者はここに在り!!」 それは、一振りの剣。 青く輝く、長大なる剣! 「幻装!! 【悪夢を切り分ける者】!!」 振り上げた剣。けれど、クレアはふらふらとよろめく。慌ててリオンが支えると、荒い息を吐きながら、クレアは剣を差し出した。 「ごめん、リオン……。これめっちゃ重い」 「あ、うん……うわっ」 受けとると、確かにずしりと重かった。その重みが、頼もしく感じる。 「これは、わたしの杖と媒介に込められた魔力を全部使って作った、一種の幻装……。これを使えば、理論上、フェルカの術式に後から介入できる」 「これをどうすればいいの?」 「術式の中心に刺して、現象そのものにアクセスするの。フェルカの術式が、解析した通りなら、イメージを注ぎ込むだけで完成するはず……」 「つまり、公園の花時計に、これを刺せばいいんだね?」 こくりと頷く。クレアは震える手で、 「お願い、リオン……。それを使って、願って。あなたならできる。あなたは、本物の英雄になる」 「任せて」 クレアの手を握り返し、リオンは力強く頷く。 その姿を見て安心したのか、クレアはふっと目を閉じて意識を失った。 床にクレアを寝かせ、リオンは仲間たちを振り返る。 「行ってきます」 「王城公園は現象の中心地だ。魔物の数が多いぞ」 「クレアと約束しましたし」 ふっ、と笑ったリトは、いいだろう、と頷く。 「シン大尉、ソフィア姫。危険ですから、こちらでお待ちください。後は我々が。申し訳ありませんが、クレアを頼みます」 「心得ました。……正直、あなたがたを援護する余裕は、もうありません」 苦笑するシンは、顔中に汗を浮かべている。当たり前だ。ここに至るまで、壁も天井もぶち抜いてきた。いくら亜人でも、それだけの魔力を蓄えているわけがない。すでに目一杯なのだ。 それがわかっているからこそ、ソフィも無理は言わなかった。ただ、リオンに向いてのみ、ぎゅっと拳を握って言う。 「ファイトよ、リオン! あなたはこのソフィが認めた男なんだからね!」 「もちろんです!」 「あの、クレアさんの手当は、こちらでしておきますね。たぶん魔力を使いすぎての中毒ですから」 後ろでサブリナがクレアのそばに屈み込み、様子を見ている。この状態なら、任せても問題ないだろう。 「じゃあ、行きます!」 青い剣を手にし、リオンは窓から飛び出した。 その後を、二人の仲間がついて行く。 「頼んだわよ。リオン」 ソフィアは、ぽつりと呟いた。 |