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事件が起きて、一年が経過した。 被害状況の確認、原因や残った影響の確認、そして復興事業の開始。それらが、順を追って始まっている。 魔物により命を失った人は53名。負傷した人間は、その数十倍にものぼる。だが、起きた事件の規模を考えれば、むしろ死者の数は少なく済んだ方かもしれない。 オーサ・メイザーは逮捕され、今は地下牢にいる。遠からず死刑になるだろうが、それ以前、事件に関する情報や、術式に関することなど、精査が必要な点は多い。それらが解明されるまでは、彼女が死ぬこともないだろう。 季節さえ移り変わったが、町の被害は、いまだ癒えきっていない。だが、人々は、逞しく生き続けていた。 そんな中。王城で、式典が行われることになった。 様々な人々の証言から、あの日に活躍した者たちを讃える式典が行われることになったのだ。 報償を受けることになったのは、総勢22名。軍部に所属し、たくさんの魔物を屠った者。市民でありながら、市民の救護に尽力した者。国王陛下を魔物の魔手から守り抜いた者。 様々な者が集まる中に、教導隊の人間もいた。 リト・コーツ。魔物を蹴散らし、事件解決に助力した功績。 アレン・リベット。世紀の大罪人であるオーサ・メイザーを確保した功績。 そして、クレア・ウィルジーヌ。事件解決に際し、鍵となる魔術を作り上げた、最大にして最高の功績。 だが、その中にーーリオン・テイラーの姿はなかった。 彼とシン・ディレクは、事件の折、多くの人間に亜人としての姿を見られていた。そうなってしまえば、当然、亜人が軍部にいられるはずもない。 特に問題視されたのは、シン特務大尉だった。姫の護衛が亜人であったという事実、その人物が軍の中でも上位にいたという事実が問題視されていた。事件を起こしたのが亜人という点も問題に拍車をかけた。 それは、いくら姫がかばったところで、かばいきれるほどのものではなかった。 式典に集められた教導隊の三人は、他の表彰者と共に並ぶ。 修復された謁見の間。玉座には、国王カルロス・ジェルニアンの姿があった。以前は酒樽のように太っていたが、今は酒瓶ほどに痩せていた。 そのかたわらにはソフィア姫の姿もある。今日の彼女は、どこか、上の空だった。否、シンがいなくなってから、ずっとだ。 「では、勲章を授与する」 カルロスの宣言と共に、表彰式が始まった。ひとりずつ名前を呼ばれ、どのような功績をあげたか読み上げられ、国王から勲章を受けとる。 式は進み、クレアの番となる。 「クレア・ウィルジーヌ」 「はい」 呼ばれたクレアは、玉座の前まで進む。 「おぬしの作った魔術のおかげで、此度の事件は解決した。国王として、ひとりの人間として、礼を言おう。これからも、その才能を遺憾無く発揮し、人類の発展に協力して欲しい。その代わり、望むものはなんでも用意しよう」 「……」 国王のそばに控えていた側近が、勲章を差し出す。それを眺めたクレアは、ぱん、と弾いた。 「ッ!?」 激震が走った。国王が授与するという勲章を、床に落とすなど。 そんな凍った空気には構わず、クレアは口を開く。 「何が勲章よ。ちゃんちゃらおかしいわ」 はっきりと、そう言ってのける。そんな彼女の独演を邪魔できる者はいない。 「確かにきっかけを作ったのはわたしよ。でも、わたしは剣を作るだけで精一杯だった。あの状況で、命懸けでわたしの剣を届けてくれたのは誰? その男がここにいないのに、わたしが褒めたたえられるなんて、何の冗談?」 クレアは、国王カルロスに向かい、言ってのける。 「亜人リオン・テイラーこそが、事件を解決した本人です! 彼を含めた四人だからこそなしえた偉業です! なぜ彼だけが栄光を受けられないのですか!」 「……リオンは亜人だ。今回の事件を起こしたオーサと同じ」 「それがなんですか! 世界を憎んだのが亜人なら、世界を救ったのも亜人です! 国王! あなたの娘を守ったのは誰ですか! なぜ被害者がたったの53人しかいないと思っているのですか! 国中で、亜人たちが努力をしたからです!!」 「口を慎め! 誰の前だと思っている!」 「あなたが亜人を差別するから、オーサが事件を起こしたんでしょう!! この国の代表であるあなたが!! 表彰を受けるならば、亜人と共にでなければいけません!!」 その声に。誰より活力を手にしたのは、国王の隣に立つ姫だった。 「……よく言ったわ、クレア」 ソフィア姫は、国王に向かって言う。 「お父様、お父様もシンのことは知っていたはずよ。彼女がどれほど尽くしてくれたかも! それが、亜人だから追放するですって!?」 「そのことは何度も説明しただろう、ソフィア! ここは人間の国だ! 魔物の国じゃない!」 「魔物、魔物ですって!? あれほど魔物に襲われておきながら、まだ亜人と魔物の区別もつかないというの!? 人間だって悪人がいる、亜人だって悪人がいる! でも、大半の人間も亜人も同じよ! 善人なのよ! それらを踏みにじって、何が政治よ!!」 「姫!!」 「いいわよ、お父様がそんなこと言うなら! ソフィ、クーデターだって起こすわよ!」 「ソフィア!!」 ぴしゃりと叱り、国王は深々と息を吐く。 「……わしとて、亜人が悪だと考えるわけじゃない。リオン・テイラーの功績も認めよう。だが、人間と亜人は共に暮らせぬのだ」 「そんなことないわ。姫とシンが、それを否定する。お父様の時代は終わりよ。これからは、姫が世界を動かすわ」 「……」 国王は、姫を、クレアを見た。そして、室内でハラハラと情勢を見守る者たちを見る。 「……リト・コーツ」 「は、はい!」 名を呼ばれ、さしものリトも背筋を伸ばす。そんな彼女に、国王は言う。 「じゃじゃ馬娘を持つと、お互い苦労するな。クレアのこと、お前がきちんと見てやれ」 「は、はぁ……?」 こほん、と咳ばらいした国王は、側近たちに言う。 「国王カルロス・ジェルニアンの名のもとに命じる。今回の事件解決に多大なる貢献をしたリオン・テイラーとシン・ディレク特務大尉に、報償を渡す! 二人を探し、呼び戻せ!」 「よ、よろしいのですか!?」 あわてふためく側近に、カルロスは言う。 「なに。世界はどうせすぐ変わらんだろう。だが、その世界を運営する者が、なんとかするという顔でいるのだ。なら、後は好きにさせる」 そう言って、国王は自分の娘を見やる。 「これから起こる激動は、とんでもないものになるぞ。それは、自分でなんとかしなさい。ソフィア」 「もちろんよ!!」 胸を張る娘に、父親は優しく微笑んでいた。 |