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■夢と現のハザマ
「どうなってるんだよ!?」 聡は先輩や後輩と遊んでいた時、いきなり化物の群れに襲われた。逃げながら戦ったが、部活仲間とは別れてしまった。 「くそっ、一体何が起きているってんだ!?」 3年前の結界日は、いつもと何も変わらない平和過ぎる日だった。なのに、今日は平和とはとても言えない。 「くそッ!」 こんな時、戦えない自分が歯痒い。悔しい想いを抱えながら、ひた走る。 走り続けて、今どこにいるのかも分からない。分かるのは茂みの中という事だけだ。 立ち止まり、現在位置を確認しようとした時である。前方の草むらから人影が現れた。 「(助かった!)」 そう思って近付こうとして、気付いた。こいつは、人ではないと。 「人間の子供か。もう少し楽しめる相手と戦りたかったがな。」 レッサー・デーモン。この世と異なる次元に住まう怪物。 その姿形は人間に近いが、背丈と同じくらいの翼を持っている。顔も、まるで火傷で皮膚が焦げたような感じで、どう見ても人間ではない。 普通の魔法戦士ですら滅多に出会う事はなく、出会えば死の可能性すらある。現に、聡も教科書の絵でしか見た事はない。当然、間違っても学生レベルで勝てる相手ではない。 「まあいい。せめて素敵な断末魔を聞かせてくれよ?」 デーモンが、魔力を集めた手を振り上げた。聡の体は、微塵も動かない。 「(死ぬ……!?)」 恐怖感はなかった。恐怖を感じるには、目の前の光景は非現実的過ぎた。 「死――!」 『ね』の音を言い終わる前に。デーモンの利き手は、宙を舞っていた。 聡だけでなく、デーモンにすら何が起きたのか分からなかった。デーモンがぼーっとしている間に、今度はその首が粉々に吹き飛んでいた。どさりと、体が崩れ落ちる。 同時に聡の前に一人の男が降り立った。いや、これは正確ではない。男はマントのようなもので顔も体も隠していたのだから。ただ、体格と声からそう思ったに過ぎない。 「よ。大丈夫だったか?」 聡は我ながら格好悪いのだが、イエスとすら言えなかった。 「なんだよ、情けねーな。玄馬に戦いを習ってるんじゃないのか?」 「トウマ……?」 僅かに聡が搾り出せた声は、それだけだった。 「お前らの呼び方で言えば、あーんと、新藤だったか? ま、いいけどよ。今だけは助けてやっから」 「新藤先生の知り合い……?」 男は聡の言葉を完全に無視し、前方を指した。 「じゃあな。向こうに生徒いたからよ、あっちに行くといいぜ。何人かでいれば多少は安全だろ。」 「あ、待ってくれよ! あんた一体――?」 「ワリィが、俺は忙しいんでな。」 そう言って、男はフワリと浮かび上がった。 「じゃーな。聡、強くなれよ。」 男はそのまま、飛んで行ってしまった。 「聡! 無事だったんだ!」 「行人! どうなってるんだ!?」 茂みを抜けると、そこには運動着姿の行人がいた。どうやら行人も部活中に騒動に巻き込まれ、仲間とはぐれたらしい。 「俺にもよく分からないんだよ。何がなんだか? あちこちに化物はいるし、明らかに尋常じゃない!」 「ちッ! とりあえず教員寮に行こう! あそこなら誰かいるはずだ!」 教員用の寮は、今日のための対策本部があるはずだった。まさか、本当に頼りにするとは夢にも思っていなかったが。 「分かった。急ごう。そうしないと、何に襲われるかわかったものじゃない。」 悪寒に背筋を凍らせながら言う行人に、聡は頷く。そのまま、駆け出した。 走って、走って。寮まで走れば残り5分ほどの所。そこで、行人は急に立ち止まった。 「……来たのか?」 「ああ。」 短いが、それで十分である。 「どこだ?」 「そこの喫茶店の陰。」 「おい! こそこそしてないで出て来いよ!」 喫茶店の陰に向かって、聡は精一杯声を張り上げる。願わくば、行人の勘違いでありますようにと願いながら。 だが、願ってどうにかなるなら苦労はしない。そこから姿を現したのは、またもやレッサー・デーモン。 「おいおい。一体デーモンは何体いんだよ?」 聡の口調は軽いが、それとは裏腹に表情が固い。 「さてな。人間に教えるはずがないだろう?」 「そりゃそーだ。」 先ほどは緊張しまくっていて何も出来なかったが、今度はそうはいかない。せめて、先生が来るまで時間を稼がなければ。 聡が呪文を詠唱しようとするのを、しかし行人が手で制した。 「行人……?」 「聡。ここは俺に任せてくれ。」 「何を言ってんだ!? 相手はデーモンだぞ!?」 「分かってる。だから、俺に任せて欲しい。」 真剣な表情だ。状況から言っても、冗談の類ではない。 「聡。ごめん。」 突然、行人の拳が聡の腹に突き刺さった。不意を突かれ、聡はゆっくりと崩れ落ちていった。 |