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■上級のデーモン族
ウィアドと名乗った老紳士は、コートを脱いだ。次の瞬間、今まで人間だったその姿は、漆黒の翼を生やしたデーモンに変わった。 同時に、聡と茜が魔法を放つ。聡も茜も得意なのは雷系魔法だが、その性質は攻撃系と捕縛系で大きく違う。とは言っても、同系統の魔法は互いに力を高めあう。レッサー・デーモン程度ならば、無傷ではいられない合体攻撃。 だが、ウィアドはそれを、腕を組んだまま『弾いた』。 「無詠唱!?」 行人は驚きを声にした。詠唱をしないでも、あの威力の魔法を弾ける。それは、格の違いを思い知らせるには十分だった。 「……この程度? 拍子抜けだな。」 向こうはあくまで余裕。これが、聡達とエクス・デーモンの格の違い。 「聡! 全力で行くぞ!!」 声をかけ、行人は獣化をする。見慣れぬ茜たちは、驚愕に目を丸くした。 「行人君!?」 「説明は後にしろ! 行くぞ!!」 行人は獣歩で一気に間合いを詰め、聡は呪文の詠唱を始める。 驚きつつも聡の言葉を信じ、茜は間合いを詰め、神楽は呪文を唱え始めた。由佳も後ろで何かの呪文を唱えているらしい。 行人が止まる事のない連撃を放ち、合間に茜の木刀が鋭く斬りかかる。だが、ウィアドはその全てを受け流していた。完全に、遊ばれている。 「行人! 茜! 下がれ!」 2人を下がらせ、聡の威力重視の魔法が放たれた。雷光は真っ直ぐにウィアドを目指して進む。 バチン、という衝撃。直撃した魔法が煙をあげる。 「まさか、本当にこれで全力だとはなぁ。」 しかし、先ほどレッサー・デーモンを倒した呪文よりも高い威力の呪文は、ウィアドに傷1つ負わせられなかった。 「興醒めだ。早々に終いにしよう。」 ウィアドの両手に、炎が宿った。それを無造作に投げ放つ。 放たれた火炎は、行人と茜を追いかけた。行人はギリギリで回避したが、茜は……。 「茜!!」 聡の声も空しく。紅蓮の焔に包まれて、茜は崩れ落ちた。 「みや――!?」 回避したはずの炎は、その向きを変え行人に襲いかかった。 追尾式。気付いた時にはもうすでに遅く。行人も、炎に包まれた。 仲間が次々に倒れていく。それは、絶望的な状況だった。あまりにもあまりにも絶望が強すぎて、感覚が麻痺してしまいそうになるほど。 混乱する神楽や由佳。それを尻目に、たった1人の学生は、静かになっていった。周囲の空気を、徐々に冷やしていく。 「茜! 行人君!」 駆け寄ろうとする神楽を、聡は手で制した。 「聡……?」 「神楽、由佳ちゃん。後で茜と行人の治療、頼むぜ。俺は回復苦手だからな。その代わり、こいつは、俺が引き受ける。」 その声に宿るのは怒り。その目に宿るのは憎悪。 ――いつもの聡ではない。 すぐさま気づいた。否応なく気づかされる。放つ空気が違う。いつもよりも鋭く、近くにいるだけで息苦しくなる。それほどに濃密な波動。もはや、別人と呼べるほどの。 しかし、聡の言葉に、ウィアドは失笑を漏らした。 「私を舐めているのか? それとも、気が狂ったか? 所詮、ただの魔法使いなどが私と戦った時点で間違っ……。」 最後まで言う前に、聡の姿がウィアドの視界から消えた。 ウィアドがレッサー・デーモンと違う点は、ここで慌てないところである。 すぐに周囲を確認し、聡の気配が後方に移っている事を確認する。同時に、後ろだけを反射する結界を張った。 衝撃が壁越しに伝わってくる。すぐに無詠唱で後ろに魔法矢を放った。が、先ほどのスピードでこんなものが当たるはずがない。 案の定、気配は右に移った。すぐに魔法矢を放つが、全然かすりもしない。 「(まさか、縮地か? 否。縮地は気配が移動するはずがない。となれば『爆動』か。学生で使えるとは意外だな。)」 素早い思考で、相手の動きの正体を見切る。 爆動とは、その名の通り足裏で魔力を爆発させる事で高速の移動を実現する魔法使いの基礎戦法である。魔法戦士なら誰でも出来るが、その性能は使い手の能力によって大きく異なる。 ウィアドは魔法矢を放ちつつ、羽で上空へと飛び上がった。 そうすれば下から追うしかない。ウィアドとしては魔法を下に向かって放つだけで良いのだから圧倒的に有利である。 両手を前に突き出し、魔力を集中させる。 「これで終わり、だ!?」 突然だった。全身の筋肉が衝撃を受け、弛緩する。 「これは、電撃だと!? 馬鹿な! 下からは何も……!!」 考えてみれば当たり前の事。電撃は下からしか放てないモノではない。 上空に重く垂れ下がっているのは雷雲。そこから放たれた雷撃が、ウィアドを直撃したのだ。 「ちッ! だが、まだまだぁ!」 確かに油断していたが、威力はまだ普通の魔法戦士程度。反撃は出来るレベルだ。 手に集中させた魔力を、ウィアドは思い切り放った。手加減する事なく。 だが、その魔法光がそのまま返ってきた。勢いそのままの光は破壊の余韻すら残さず、ウィアドの胴を消し去った。 ウィアドにしてみれば何が起きたか分からない。羽を失い、地表に落ちたウィアドを見下ろして、言った。 「殺すなと言ったでしょう? 危ないじゃないですか。」 聡を護るため、仮面は仲間を殺したのだ。躊躇など、全くなかった。愚かしい部下の不手際を嘆いているような、あきれた雰囲気だけがそこにあった。 「見苦しいですね。消えなさい。」 そして、残った僅かな肉片を。仮面はまるで食べ終わったお菓子の袋を捨てるように、あっさりと焼き尽くした。 |