■氷神の凍気

「村野君! こんな所で何をしてるんですか!?」
 駆け寄るなり、新藤はそう言った。
「先生……。」
「まったく、こんな状況で外を出歩くなんて。君達の無謀さを少々、甘く見ていましたよ。」
 新藤は顔を上げる。すぐに後ろの行人達に気付いたらしい。
「襲われたんですね。誰にです?」
「エクス・デーモンと、仮面をした2人組です。」
 流石に新藤も驚いたらしい。表情にあまり変化がない男が、珍しく驚いた表情をした。
「よく、倒せましたね? 仮面の2人というのは?」
「デーモンは、仮面の1人が倒しました。俺らを殺そうとしたからみたいです。仮面の連中はよく分からないんですけど、召喚術みたいのを使ってました。」
「召喚術?」
「ええ。何もないところから武器を出したんです。」
 ああ、と新藤は納得したような表情になった。
「契約者とは珍しい……。なるほど、となると裏の組織はそれなりに大きいんでしょうか。と、それどころではありませんね。とにかく、怪我は大丈夫ですか? 歩けますか?」
「大丈夫、です。」
 今まで神楽達に治療をしてもらっていた行人が、ゆっくりと身体を起こした。
 そこで、ふと気付く。行人の獣化は、まだ解けていない。のに、新藤は表情を変えていない。
「先生、驚かないんですか?」
「知ってましたからね。宮野さんは大丈夫ですか?」
「(サラリと凄い事を言いやがった。)」
 聡にもそんな事を考える余裕が出来ていた。
「せん、せい?」
 気を失っていたらしい茜も、ようやく気付いたらしい。
「怪我は大丈夫だと思います。クロウとかいう奴が治療をしてましたから。」
「ほぅ、『不死の暗黒』が、ですか? あの無精者が動くとは、これまた珍しい。とりあえず、大丈夫なら行きますよ。」
 パチンと新藤が指を鳴らすと、なんと2体の化物が姿を現した。
 共通する点は、両者共に胴体に顔らしきものがあり、そこから手足が生えている事。異なる点は、片方は白くて両腕に盾を括りつけているのに対し、もう片方は黒くて背中と腰に槍やら剣やらを装備している点である。
「白鬼、綾瀬君を。黒鬼、宮野さんを。」
 化物は行人と茜を抱きかかえた。一言も発さないので、威圧感がある。
「この2体は私の鬼神、つまり、私の部下のようなものです。安心して下さい。では、行きますよ。」
 そう言って、新藤は先頭に立って歩き出した。

 どうやら、校舎に向かっているらしい。教師連中も生徒をそこに集めているという。なんでも、そこは教師が協力して結界を張っているそうだ。
「先生、色々と聞きたい事があるんですけど……。」
 歩きながら言ってみたが、新藤は『この事態が終わったら教えてあげます』とだけしか言わなかった。
 そのまま歩き続け、ふと、新藤の顔が険しくなった。
「止まりなさい。」
 急に、新藤は立ち止まった。場所は校舎まで歩いて10分程の場所。周囲には教室棟が並んでいる。
「嫌なタイミングでお会いしましたね。まあ、どうせ戦う事にはなったでしょうが。」
 ゆらりと、空間が揺れた気がした。ふと、気付いた。いつの間にか、新藤と5メートルほど離れた前方に誰かが立っていた。
 仮面で顔の上半分を隠した、いかにも怪しい奴。隠れる意志はなさそうだ。だが、逆にそれは、先ほどの連中と同等には強い証なのだろう。
「デーモン共を召喚したのはあなたですか? それとも、黒幕が他に?」
 仮面は新藤の質問に答えず、いきなり魔法矢を放ってきた。だが、新藤もやはり無詠唱で壁を作り攻撃を弾く。
「敵に教える情報はない、という事ですか。仕方ないですねぇ……。黒鬼、白鬼。村野君達を頼みます。」
 空気が、変わった。
 新藤は相変わらず無愛想な顔をしているし、仮面の方にも表情に変化はない。
 なのに、空気が違う。触れるだけで肌が切れそうな、鋭く冷たい空気。これが、新藤の凍気。
「では、始めましょうか。」
 その言葉が、戦いの幕開けの合図となった。
「――バース。」
 仮面野郎があの“召喚術もどき”を使った。現れたのは、カード。
 何枚あるのか、数える事すら面倒なくらいのカードが仮面野郎の周囲を取り巻いた。カードは空中に浮いたまま、クルクルと仮面野郎の周りを回っている。
 仮面野郎はその中の一枚を無造作に手に取り、絵の面をこちらに向けた。
 書いてあるのは斧の絵。黄色い背景に、銀色に輝く重そうな斧が描かれている。
「踏み砕け。雷斧。」
 仮面野郎の言葉に反応し、カードが光り輝いた。光の中から斧のような形をした電撃が飛び出す。それはまっすぐに、新藤に向かって襲いかかった。



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