■Magic Master

「つまり聡は、あの・・マジック・マスターの息子……?」
 それは、あまりにも非現実的すぎる話だ。世界最高峰の魔法使いの息子が、こんなにも身近にいるなんて。
「ええ。私は昔、マスターと旅をしていました。最後に別れる時、私は彼に、村野君の事を頼まれました。同時に、免許を取る事も、です。そのために、この学園に修行などという名目で来たんですよ。」
 一般的に、魔法使いは魔法の使用を禁じられている。もちろん、命に関わる話ならば別だが。だが、免許持ちの魔法使いならば、自身の判断で自由に魔法を使えるのだ。そのため、一人前の魔法使いとして生きるには、魔法協会が発行する免許を持つ必要がある。
 新藤はすでに魔法使いとしての実力は十分あるのだが、性格に問題があるため免許は取れないでいる。
「聡はあんまり驚いてないね? 知っていたのか?」
 行人や神楽ほどのリアクションを見せなかった聡に、行人は尋ねた。
「なんとなく、知ってた。茜も、な。こうやってオヤジの知り合いに会って、面と向かって認められたのは初めてだけど。でも、あんまり驚く気がしねーや。」
「村野君は父譲りの高い魔力を持っています。それは、村野君の意思に関係なく戦乱を呼ぶものです。」
 子供の魔力は、ほとんど両親の魔力の高さに依存する。マジック・マスターの魔力となれば、その強さは次元が違うレベルだ。当然、その子である聡の魔力は茜や神楽よりも遙かに高い。
「でも、聡の魔力が特別に高い感じはしませんでしたけど?」
 神楽の疑問も当然である。確かに聡の魔法の威力は桁違いだったが、それだけであった。マジック・マスター譲りというレベルでなかった事は確かである。
「それは村野君の魔力コントロールが極端に下手だからです。はっきり言えば、村野君の魔力コントロールは1年生以下ですから。」
「はっきり言いますね……。」
 新藤のはっきり言う癖は今に始まった事ではない。そのため、聡も少々苦い顔をしただけである。
「いつか、村野君が力を望むならば、その使い方を教えようとは思っていました。私の知る戦いを。村野君、君に、教えましょう。私の知る、全てを」
「……ありがとうございます。」
 新藤の言葉に。聡は、深々と頭を下げた。
「新藤先生。俺達には教えていただけませんか?」
「そうよ! 聡だけなんてさせないわよ! 私達にも教えて下さい!!」
 行人と神楽は躊躇いなく言った。新藤は答える前に、深くため息をついた。
「綾瀬君には教えましょう。ワーウルフとしての己を受け入れられるのならば、ね。ですが、残念ながら神無月さんに教えるわけにはいきません。」
「どうしてですか!?」
 バンッ、と机を叩き、神楽は立ち上がった。
「落ち着きなさい。綾瀬君や村野君は戦いの道にすでに立っている身です。ですが、あなたはそうではない。戦いの道は、入れば引き返せません。そして、半端な覚悟は仲間を殺します。己だけでなく。ですから、あなたには教えられません。」
「何それ。私が何で半端なの? 私だって戦う! 引き返せなくても構わない!」
「……村野君、綾瀬君。少しの間、外で待って下さいませんか?」
 熱くなっている神楽とは逆に、新藤は冷静に言った。
「え? あ、はい、わかりました。聡、行こう。」
 聡は黙って、行人は軽く頭を下げて、部屋を出て行った。
 2人が出て行った後、新藤は静かに口を開いた。
「個人的感傷では戦いの訓練をするわけにはいきません。」
「どういう、事ですか?」
「あなたが最も理解しているのでは?」
 暫く間を空け、神楽は呟くように言った。
「……いつ、気付きました?」
「あれだけ熱くなれば気付きますよ。村野君は気付いていないようですがね。」
 ふぅ、と、神楽は長いため息をついた。
「最初は……ただの、茜の幼馴染としか見てなかったんです。ただ、一緒にいると、すごく安心出来る事に気付きました。それでも、まだそういう感情じゃなかったと思う。そうなったのは、多分、あの結界日。
 我を忘れても、それでも私達を護ろうとしてくれた。無茶をしてくれた。そういう聡を見て、格好良いな、って思いました。その後も、ずっとドキドキしてた。戦いの緊張とか、そんなのじゃなくて……ただ、聡と一緒にいるっていう、それだけに緊張してたんだと思います。」
「あなたが村野君とずっと一緒にいたいという感情は恐らく自然なものでしょう。私には理解しかねますが。ですが、それだけでは戦えません。愛が悪いとは言いません。ですが、それだけでは必ず戦えない時が来るでしょう。あなたが真に戦いの道を選ぶのなら、その感情とは別の決意をしてからになさい。少なくても、それまでは、私は何も教えられません。」
はい、と神楽は小さく――だけれど、はっきりと聞こえる声で。そう、呟いた。



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