■強くなるために

 次の日、行人と聡は地下訓練室にいた。
 ここは、8年生以上が魔法の訓練をする際に使う部屋である。魔法使い同士の戦闘に耐えうる頑丈さと広さを持ち、ある程度のマジック・アイテムも揃っている。
「それでは、まず、契約をします。その結果、アーティファクトが得られるでしょう。その効果によって今後の訓練を決めます。」
 はい、と聡達は短く答えた。
「この魔方陣の中心に立って下さい。後は私がやります。」
 最初に、聡が魔方陣の中心に立った。そして、新藤が呪文の詠唱を始める。血の紋様が光る中、思っていたよりはあっさりと、契約は終了した。続いて行人も契約を済ませる。
「では、アーティファクトを出して下さい。呪文は『バース』です。」
「バース!」
 聡が呪文を唱えると、聡の背丈と同じくらいの大きな杖が現れた。同時に、新藤の手元に本が現れた。
支配者の杖コマンダー・ワンド。魔法の威力を増幅する効果を持った杖のようですね。」
「何ですか? その本。」
 聡は、新藤の手元に現れた本についての説明を求めた。
「これは契約の証です。これには私と契約をした者のアーティファクトの名前や効果、それにその者の魔力なんかを表示出来るようになっています。」
 ちなみに、書かれている文字は契約者……つまり、新藤しか読めない文字である。
「へぇ。行人、お前も試してみろよ?」
「分かってるって。……バース!」
 行人が呪文を唱えると、行人の手を覆うような手甲が現れた。関節部分に、4つ、穴が空いている。
「綾瀬君のアーティファクトは魔銃拳アベット・フィスト。綾瀬君が放つ魔法の威力を高め、一撃の威力や遠方への攻撃が可能になるようです。」
 ふたりとも、新しく手に入れたアイテムの調子を確かめている。どちらもなかなか気に入っているようだ。
「では、今後の訓練ですが。まず、村野君。」
「あ、はい!」
「君はコントロールを覚える必要があります。これさえ出来れば君はかなり強くなります。かと言って、理論を教えたところで意味はないでしょう。そこで、これを覚えてもらいます。」
 新藤は右手に魔力を集中させたボールを作り出した。
「それって、この間使っていた?」
「ええ。名を魔球弾と呼びます。君は頭よりも体で覚えた方が早いでしょう。ちなみにこれは、マジック・マスターの得意技でもあります。」
 その言葉に、聡はピクリと反応した。
「面白いじゃないですか。」
 聡はすでにやる気満々だ。父の名前は、彼にとって目標のようなものなのだろう。
「言っておきますが、これは学生レベルで習得できる技ではありません。覚悟して下さいね。」
「覚悟ならとっくにしてますよ。」
 聡の言葉に、僅かに新藤が笑った……ような気がした。
「綾瀬君は、私と組み手をしましょう。君も武術の型を覚えるより、反射と勘で戦えるようになった方が良いはずです。」
「全力で、大丈夫ですか?」
 新藤は、行人の言葉を鼻で笑った。
「あなたに手加減する余裕はありません。獣化してきなさい。」
「では、遠慮なく。」
 ず、と体を変化させる。鋭い眼差しが新藤を睨んだ。
 獣化した行人は、目に見えぬスピードで一気に新藤との間合いを詰める。そして、いきなり全力で無詠唱バーニング・ナックルを打ち込んだ。
 爆煙が新藤と行人を包み込む。
「先生。いくらなんでも、それはないでしょう?」
「どうしてです?」
「俺の全力の一撃を、片手で防がれたら……流石にへこみますよ。」
 行人の右の拳を、新藤は左手一本で防いでいた。その手には、魔力の塊――魔球弾だ。
「さぁ、楽しんでいきましょうか。上達は、その方が早い」
 地面が割れる程の勢いで、両者は動き出した。

 女子寮の屋上。相変わらず、ここには人気がない。だが、そこに1人の生徒がいた。神楽だ。
「どうしたら良いのかな?」
 青い空を眺めながら、神楽は迷っていた。何をすべきなのか、分からずに。
 その時、重い音を立てて屋上の扉が開いた。神楽が振り向くと、そこには茜が立っていた。
「茜。どうしたの?」
「あんたこそ。らしくないわよ?」
 一緒に青い空を眺める。とても、キレイだ。
「悩んだ時は、誰かに相談するもんでしょ?」
「うん……、ありがと。茜。」
 しばらく神楽は口を開かなかった。茜も、あえて何も言わなかった。
「私ね、ホントにそんなつもりじゃなかったの。」
 やがて、神楽はポツリポツリと話し始めた。
「最初は……ただ、ちょっと変わった面白い奴って……それだけだった。なのに、今は違う。ずっと一緒にいたい。離れたくない。そう……思うの。」
 茜は詳しい事情が分かっているわけではない。だが、何も言わない。何も問わない。
「あいつ、いっつも無茶してさ。あいつは、立ち止まらないから。だから、私も、動く。でも、そのためには……もっと覚悟が必要みたい。あいつのためだけじゃなくて、私のために、戦う理由がいるの。」
「――私は、べつにいらないと思うけど?」
「どう、して?」
 茜は神楽が悩んでいた事を、あっさりと否定した。
「だってさ、その人を護りたいんでしょ? 護られるだけじゃなく。その方が神楽らしい。だったら戦えばいいじゃない。強くなればいいじゃない。理由なんて、そのうち見つかるわよ。神楽はいつだって走り続けなさいよ。そういう人間でしょ?」
「……ありがと、茜。やっぱり私にはあんたが必要みたいね。」
「今更ね。」
 茜の言葉に、神楽はクスクスと笑った。本当に、楽しそうに。
「さすが冷徹なる剣士様ね。」



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